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カープ「市民球団」の堅実経営を他球団が『手本』にするワケ

2017年10月30日

カープ「市民球団」の堅実経営を他球団が『手本』にするワケ

今年、37年ぶりのプロ野球セ・リーグ2連覇を達成した広島東洋カープ。クライマックスシリーズ(CS)ではリーグ1位のアドバンテージを生かせず、残念ながら日本シリーズ出場を逃してしまいましたが、今シーズンは異例の強さを見せました。開幕直後から破竹の10連勝、5月28日以降は一度も首位を譲りませんでした。

「カープ女子」「神ってる」など流行語大賞の候補に挙がるワードが出てくるなど、何かと「新しさ」が話題になるカープ。今年の88の勝利数のうち、41試合が逆転勝ちとなった強さの背景に、「タナキクマル(田中広輔・菊池涼介・丸佳浩)」や昨年、新4番打者に指名された鈴木誠也選手など若い選手の多さがもたらすチームの勢いが話題になります。

「市民球団」カープ

カープは数年前まで「万年Bクラス」が当たり前。主力選手が次々にFA(フリーエージェント)宣言をして、「カネのあるチーム」に流れていく様を「12球団で最も貧乏」と揶揄され続けてきました。

拙著『広島カープの「勝ちグセ」戦略』にも詳しく解説していますが、そんなカープの歴史は、やはり金銭面の苦労から始まっています。

原爆投下から5年弱の1950年1月15日、西練兵場跡(現在の広島県庁辺り)でカープ球団の結成披露式が行われました。原爆投下で焼け野原となった街を、市民は全力で復興させようと日々努力していた。カープは、そんな市民の希望の光でした。

その光が1年で消滅の岐路に立たされます。理由は「資金難」。県や市から十分な資金が集まらず、選手への給料も払えぬ状態。そこで当時の初代監督・石本秀一氏の声かけで後援会を作り、広く知られる「樽募金」が誕生しました。市民から271万円の支援金が集まり、危機を脱するかに見えた直後、野球連盟が通達を下します。「年度の勝率が30%に達しないチームの処置は理事会が決定する」。

1カ月で31試合というとんでもないスケジュールの中で、弱小チームはなんとか勝率3割を達成。当時2年連続で最下位だったカープは再び解散の危機を免れます。

カープが「市民球団」と称されるのは、かつて財務状態が苦しいときに市民の募金などで生き延び、いまだ12球団唯一親会社を持たずに、市民が中心となって支えている球団だと広く認識されているからです。

その分、カープファンには球団創設以来、「自分たちがチームや選手を育てている」という意識が強い。松田元オーナーもこう言います。「どっかスポンサーつけてチーム作ればええ、という感覚だったら、絶対成立せんと思うよ。地域の人に愛されてこその球団じゃけえの」(2014年8月9日付デジタル毎日新聞より)。

2007年オフ、当時カープの主軸だった新井貴浩選手が、「つらいです……。カープが好きだから」と涙ながらにFA権を行使して阪神タイガースに移籍しました。2014年、30代後半になり、阪神での出場機会がめっきり減った新井選手はカープに復帰。その裏には、カープの鈴木清明球団本部長の「カープに戻ってこい」という言葉があったそうです。

通常、いったんチームを出た人間はファンからは「裏切り者」扱い。ところが、結果的にファンは暖かく新井選手を受け入れ、移籍前より彼の人気度は上がっているくらいです。

「人材を育てる」システムの徹底

カープは「人材を育てる」システムも徹底しています。現段階のレギュラー選手の年齢を念頭に置いたドラフト戦略で、「これは……」と思う選手はどこより早くスカウトマンがマークします。

そして、カープは「カープで活躍したい」という選手しか獲得しません。「相思相愛」で選手を入団させ、セカンドキャリアのサポートも手厚いのです。1990年、6億円の資金を投じてドミニカ共和国に日本初のベースボールアカデミーを創設。多くの子どもたちが野球を楽しみ、国技といわれるほど野球が浸透したこの地で育った選手がカープに送り込まれています。今シーズンでいうとバティスタ選手のような派手な活躍を見せています。

そんなカープですが実は1975年の初優勝以来、経営面では一度も赤字を出したことがありません。多くの球団が赤字を出している中、40年以上も黒字経営を続けているのです。

プロ野球の主な経費には職員の給与、選手の年俸、球場使用料、移動費や宿泊費などがあります。売り上げはホームでのチケット代やグッズ代などです。

黒字経営の理由として筆頭に挙げたいのが、「カープグッズ」の存在です。その売り上げは2016年で過去最高の53億円を記録、前年に比べ約17億円、4割超の増収で、球団の全売上高182億円の約3分の1を占めるまでになりました。

カープのほかにグッズ売り上げに強いプロ野球チームといえば、ヤクルトスワローズが挙げられますが、それでも2016年の売り上げは10億円とカープの5分の1以下です。

カープグッズの代表が「おもしろTシャツ」。今年4月1日、マツダスタジアムでの対阪神戦。延長10回裏、8対8の同点の場面で安部友裕選手の内野安打でサヨナラ勝利を決めました。この日のヒーローインタビューで安部選手は「覇気が残っていたので打ちました。覇気Tシャツ、作ってくださ~い」と誰へ向けるともなく叫びました。ちなみに「覇気」は安倍選手が自らのプレーのモットーとしている言葉で事あるごとに口にしています。

その勝利から2日後、カープは600枚限定でTシャツを販売。そのTシャツには「覇気Tシャツ作ってくださ~い」という文言とともに安部選手のイラストがデザインされており、数分で完売しました。

6月14日の対オリックス戦。延長12回裏、6対6。バッターの鈴木誠也選手が鮮やかなホームランでサヨナラ勝ちを決めました。その2日後に売り出されたのが、「今年も最高でーす!」Tシャツ。これは、鈴木選手の背番号51にちなんで510枚の限定で、即日完売でした。

カープのTシャツは、デザイン発注から製造、販売までの一連の流れが「2日」という短期間で商品化させる仕組みを構築。また、小ロット生産なので在庫を多く持たないという点も徹底しています。

どんな企業ともコラボするチャレンジグッズも少なくありません。たとえば2016年暮れには、若い女性に人気のアパレルブランド「サマンサタバサ」とコラボ。サマンサオリジナルバージョンのキャップやTシャツ、バッグなどを販売し、多くの若い女性が原宿のサマンサタバサ店舗に詰めかけました。「黒と白」ならぬ「赤と白」のオセロゲーム、3色全部赤の「3色ボールペン」など、そのユニークさと話題性がカープグッズ売り上げの高さを支えています。

ほかの球団が赤字を親会社が広告費などの名目で補填している中で、黒字を続けるカープの経営は堅実といえます。

みんな創意工夫を広島から学んでいる

読売巨人軍元最高顧問で読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏は今年初め、広島地元紙の取材でカープについて次のように話していました。

「1リーグを目指した時代と違って、(経営が)危ない球団が減りつつある。みんな創意工夫を広島から学んでいるんだよ」(2017年2月17日付中国新聞)

この記事では、資金力の潤沢な読売巨人軍が、資金の乏しいカープの戦略を参考にしたいということも書かれていました。メディアでは辛口なコメントで注目を浴びている球界のドンが、こうしたコメントを述べることに驚く人も少なくないでしょう。ほかにもカープの経営を参考にしている公言するプロ野球チームオーナーもいます。

今や球界がお手本にする広島カープ。来年以降も球界の注目を集める存在になりそうです。

(※引用元 東洋経済新報社

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