広島が初めてCS進出した13年。敗退からしばらく後、石原慶に「大舞台は楽しかった?」と聞いてしまった。「楽しいと思って野球をやったことは一度もないですよ」。いつもニコニコと話してくれる男に真顔で反論された。
02年の入団時は野村、前田、緒方ら一流選手がそろい、ピリピリしていた。石原慶は緊張から「キャンプは“出社拒否症”でした。朝起きたら、球場に行くのがイヤだなって」。レギュラーをつかんでからもチームは低迷。責任を背負う捕手というポジションでもあり、ずっと苦しんで野球に取り組んでいた。
16年、自身初の優勝を決めた瞬間、マウンドに向かって猛ダッシュした。帰りのバスに乗り込む直前、記者を見つけると、右手を差し出してくれた。「あんなに速く走るイシは初めて見たぞ」。そう冷やかすと、顔をクシャクシャにした。「良かった」。その一言に実感がこもっていた。
以前の体育会気質とは真逆のノビノビとしたチームに変容。「若い子が力を発揮できれば、これでいいんですよ」。もしベテラン捕手が若手を萎縮させるような存在だったら、優勝はなかったはず。黒田、新井が表のリーダーなら、石原慶は陰の支柱だったと思う。(井之川昇平)
(※引用元 スポーツ報知)