2月1日からプロ野球の春季キャンプが始まる。
毎年、この時期の注目ポイントは、各球団の新戦力。昨年5位からの浮上を狙う広島は、6人の新顔が一軍キャンプに名を連ねた。
新人ではドラフト1位の栗林良吏(トヨタ自動車)をはじめ即戦力投手3人のほか、同6位の矢野雅哉(亜大)が一軍スタートとなり、18日に入団会見を行ったケビン・クロンも12球団の日本球界初挑戦となる新外国人ではただ1人キャンプ初日から参加が可能となった。チームの変革期を感じさせるフレッシュなメンバーが目立つ。
そして、他球団にはあまり知られていない選手がもう1人、ロベルト・コルニエルという投手が一軍メンバーに選ばれた。
メジャー経験がない25歳に「あれは誰だ?」
カープアカデミー出身の25歳。19年の秋季練習に練習生として参加し、昨年の9月29日に育成選手となったばかり。メジャー通算◯発などという触れ込みで来日する助っ人とは違い、メジャー経験はなく、マイナーでも通算69試合にしか登板していない。
昨年ウエスタン・リーグの公式戦登板は、すべて中継ぎで10試合に登板し、1勝1敗1セーブ、防御率3.00と、特に目立った数字を残したわけでない。
ただ、コルニエルの評価はシーズン終了後のフェニックス・リーグで一変する。
「あれは誰だ?」
視察した各球団の編成担当は驚きの表情で、193センチの背番号147のプレーに目を奪われた。
コンスタントに150キロ前後を計測する直球は最速154キロ。スピード以上に力強さを感じさせる。変化球はカーブ、スライダー、スプリットを操り、不利なカウントからでも投げきれる精度。制球も安定しており、自滅から崩れるタイプには見えない。
フェニックス・リーグで監督代行を務めた東出輝裕二軍打撃コーチは配置転換が奏功したと感じている。
「短いイニングでは力んでいたところが見えたけど、先発になってある程度長いこと回を投げる気持ちがいい意味で力を抜く感覚を覚えるきっかけになったのかもしれない。いい意味で力が抜けたことで、制球が安定した」
一軍コーチは「中日のマルティネスくらいになる」
フェニックス・リーグから先発として投げ始めたばかり。初先発となった11月12日ヤクルト戦も当初は2回を目処にしていたが、7回まで投げ続けた。永川勝浩投手コーチ(今季から一軍担当)は苦笑いしながら振り返る。
「(投球内容がある程度)良かったから行けるところまで、と思って投げさせたら7回まで投げてしまった。完投もできそうなくらいだったけど、(フェニックスリーグの位置付けとして)他の投手を投げさせないといけないしね」
予想以上の内容が、7回1失点という好結果をもたらした。
ベンチでなく、スタンドからは感嘆の声が漏れ聞こえてきた。
「これは育成レベルじゃないぞ」
「支配下選手になるかならないか、ではなく、開幕ローテに入ってくるんじゃないか」
視察した各球団の編成担当は目を丸くしながらメモをとっていた。結果、コルニエルはフェニックスリーグ登板3試合で以下のような好成績を残した。
11月12日 ヤクルト戦 7回9安打1四球3三振1失点
11月18日 楽天戦 6回2安打1四球8三振無失点
11月24日 DeNA戦 7回4安打4三振3四球1失点
フェニックス・リーグ最終登板となったDeNA戦は、視察中だった佐々岡真司監督の前での登板だった。2試合よりも力みが見られたものの、「育成選手ではありますけど、まずは一軍の春キャンプで見てみたい気持ちはある。まだ伸びるとも思う」と、指揮官にそう決断させるものを示した。
コルニエルを知り、同じ一軍キャンプに臨む永川投手コーチは「先発も中(継ぎ)もどっちでもできる。中日の(R・)マルティネスくらいになる期待は持てる」と、昨年21セーブの助っ人級の可能性を感じている。
外国人選手の出来が誤算の1つだった
今季は、新型コロナウイルス拡大による影響から、新外国人選手の来日が遅れている。春季キャンプの期間は日本球界への適応とチームプレーの理解度を深める大事な時間。特にサインプレーの確認や独自ルールのある投手と内野手は影響が大きいのではないか。
その点、コルニエルは19年の秋季練習から来日し、ドミニカ共和国のアカデミーでも日本式を学んで来たアドバンテージがある。11月24日フェニックス・リーグDeNA戦では、4回無死一塁で1.15秒のクイック投法で、捕手の盗塁刺をアシストした。5回には、一塁へのゴロにスタート良く一塁のベースカバーに入るなど、フェニックス・リーグでも、フィールディングやけん制に不安はない。
豪快なパワーピッチャーでありながら、器用さもある。決め球としても使えていたフォークは、直前に永川コーチから握りなどを教えてもらったばかりの球種。何度も空振りを奪っていた。
昨季広島は、外国人選手の出来が誤算の1つだった。実績あるクリス・ジョンソンが0勝に終わり、抑えと期待した新外国人のテイラー・スコットはサヨナラ満塁弾を2発浴びるなど0セーブのまま二軍降格となり、DJジョンソンはシーズン途中に楽天へ移籍。野手ではホセ・ピレラが好スタートを切りながらも、シーズン途中から失速した。外国人登録枠が4人から5人に拡大したルール適用を生かせず、一時は出場枠の4人にも満たない外国人選手しか一軍にいない時期もあった。
今年は新外国人選手のカイル・バードとドビーダス・ネバラスカスがビザを取得できず、コロナに感染したヘロニモ・フランスアとアレハンドロ・メヒアの2選手も含め、外国人4選手の来日が遅れている。
コルニエルは9日に来日し、隔離期間をへて、キャンプ初日から参加できる。まずは支配下選手登録という段階を越えなければいけないが、チャンスでもある。キャンプ序盤のアピール次第で、一気にチーム内の序列を駆け上がることもできるだろう。
「“オオセラサン”のような投手になって、“オオセラサン”を超えていきたい」。
例年とは雰囲気が異なるであろう春季キャンプ、日本式で育った完全無印のドミニカンが大きな注目を集めるに違いない。
(※引用元 Number Web)