巨人3タテには失敗したものの、前評判の高くなかった赤ヘル軍団が健闘している。危機に強い伝統的なチーム体質が、改めてクローズアップされる。
開幕を前にして地元紙の報道で発覚した衝撃的な事実。「20年決算広島カープ46年ぶり赤字転落。コロナで観客激減。前年比83億4489万円減」etc。
首脳陣、選手が「ウチの球団は大丈夫か」と大騒ぎになってもおかしくないところだ。が、広島カープではそんなドタバタ劇は起こらなかった。
松田元オーナーも泰然自若。「(入場制限で)入場券が売れなかったが、熱心なファンに支えてもらった。今年はいろんな工夫をして黒字を出したい」
もともとが広島市民のカンパなどもあって、市民球団として発足した広島カープ。12球団一の熱心な地元ファンに支えられ、弱小球団から赤ヘル軍団と呼ばれるようなった経緯がある。
巨人・長嶋終身名誉監督が監督時代に思わず口にした言葉が、今でも忘れられない。「カープの選手の爪の垢を煎じて、ウチの選手に飲ませたいくらいだよ」。長嶋語録の一つだ。
広島対巨人戦試合前の広島市民球場三塁側ベンチでこうしみじみと語ったこともあった。この日は強い雨が降り続く悪天候で、グラウンドにはすでにあちこちで水たまりができていた。
そんな中、広島カープの選手たちは黙々と熱心に練習している。その姿を長嶋監督は見つめていた。
「広島の選手たちは巨人戦を簡単に中止にするワケにいかないとよく知っているからだよ。巨人戦1試合のテレビ放映権料は1億円を超える。中止にしたら、優勝が決まった後の消化試合に回る可能性がある。そうなったら球団側は大損をする。だから豪雨の中でも試合強行に備えて、ケガをしないように熱心に練習するんだよ。それに引き換え、ウチの選手たちはすでに中止が決まったかのような練習態度だろう。“少しはカープの選手を見習えよ”と言いたくなる」
赤ヘル軍団にはファンのための市民球団の意識が浸透している。46年ぶりの赤字転落劇という非常事態にも動じることはない。それどころか、逆に今季の発奮剤にしているのだろう。
球団の台所を直撃したコロナ禍を一掃するためにも、3年ぶりのリーグ優勝に向けて広島は結束することができている。(江尻良文)
(※引用元 夕刊フジ)