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現役続行へ意欲!髙橋大樹を支えたオカンと友と、止まらない『時計』

2021年11月10日

現役続行へ意欲!髙橋大樹を支えたオカンと友と、止まらない『時計』

まだ18歳、将来性の詰まった大きな体をかがめながら、時計の並んだショーケースを初々しい目で見つめていた。彼は、柔らかな関西弁で、買い物に付き添った知人に問いかけた。

「これ、オカンに似合いますかね?」

「いや、オカンは年が年ですよ……」

入団1年目、母親へのプレゼント選びをしていたのは、髙橋大樹である。高校通算43本塁打、京都の名門・龍谷大平安高校の主砲は、2012年、広島カープにドラフト1位で指名されていた。

「僕もプロ野球選手が夢でしたから、彼がエリートなのはわかります。高校ジャパン(U-18 日本代表)だし、ドラフト1位です。プレッシャーがあったと思います」

プレゼント選びに同行していたのは、髙橋とはこの時から9年の付き合いになる藤川隼人さんだった。プロ野球界の人間ではない。ホテルマンだ。

「知人の紹介で一緒に食事をさせてもらったのがきっかけです。まだ入団まもなく、口数の少ない印象でした。ハキハキした感じでもありませんでした。フレッシュな若者という感じでもなかったです」

しかし、一人っ子の髙橋は、藤川さんを兄のように慕った。「いてくれてありがたい存在ですし、たくさんの時間を過ごしました。野球の話をするとケンカになってしまいますが、いつも応援してくれてありがたく思っています」。

「僕のオカンと一緒に野球を見にきてくれますか?」

髙橋の武器は、抜群の運動センスだった。「柔道、剣道、陸上もやりましたが、野球が楽しいと思いました。野球は、投げる、打つ、走る、いろんな要素があって楽しいと思いました」。小学校3年になると大阪府藤井寺市の軟式野球チーム・大井リバーサイドに入った。才能は着実に開花し、龍谷大平安高校では全国区の外野手へと成長を遂げた。1年秋からベンチ入り、2年夏の京都大会では1大会3本塁打、3年夏の甲子園は1試合4安打も記録している。

「なぜだかわかりませんでした。打球が飛んでいました。力感なくスイングしているのに、打球がスタンドインしていました。勝手に反応しているような感じでした」

もちろんセンスだけではない。様々なスポーツで培った土台に、龍谷大平安高の練習がマッチした。「うちのチームはウォーミングアップに2時間くらいかけることもありました。ストレッチはしっかりやっていました。腹筋1000回もありましたし、ブリッジの体勢で歩くこともありました。エアロビクスや水泳が練習メニューにあって、ボールにあまり触らない日もありました」。

パワーだけではない。しなやかさも兼ね備えたバッティングは、超・高校級だった。大谷翔平、藤浪晋太郎、鈴木誠也……髙橋もまた、世代の先頭集団を走るはずだった。しかし、プロ野球の世界、ランナーたちのスピードは一様ではない。2014年に一軍デビュー、2018年プロ初安打、2019年プロ初ホームラン。髙橋は、遠回りもしながら着実な一歩を踏みしめていた。そして、2020年はグリップを下げるなどのフォーム改良も奏功し、「振りにいく中でボール球にはバットが止まる」「低く強い打球をセンターへ」という意識で、夢と役割に折り合いをつけながらチャンスを窺った。ただ、8シーズンで20安打、現実の風は感じていた。

その秋、11月11日のシーズン最終戦を前に、髙橋は藤川さんに連絡を入れた。「僕のオカンと一緒に野球を見にきてくれますか?」。実は、髙橋が自分から家族を球場に招くのは、この試合が初めてだった。

「お母さんは、二軍戦は時々見に行っていたようです。でも、一軍となると、チケットも簡単には入手できませんから、なかなかお母さんも応援には行けなかったようです。(髙橋)大樹くんに頼んでも、見に来なくていいと言うでしょうからね」

照れ屋などという甘みのある言葉とはニュアンスが違う。「表現が不器用で、見に来て欲しいと言えないタイプなのでしょうね。そこも彼のいいところなんですけど」。

「あ、これ大樹が1年目のときに買ってくれたものなんですよ」

気がつけば、髙橋も26歳、野球選手としては中堅の域に差し掛かっていた。危機感は本人だけのものではなかった。

「(コロナ禍前の近年は)僕もシーズン中は一緒に外食しないようにしていました」。藤川さんの精一杯の応援だった。共に時間を過ごすときは、髙橋を自宅に招き食事を楽しんだ。「うちの妻の料理です。あんまり知識はありませんが、なんとか栄養のバランスだけはと意識して準備しました」。

ただ、髙橋は偏食である。根菜類は苦手だし、魚介類にも好き嫌いがある。「うちで手巻き寿司を用意しましたが、彼は、マグロしか食べないんですよ(笑)」。

互いに、自分なりの表現で応援し、感謝の気持ちを伝えた。言葉じゃない。心の通う関係だった。

2021年秋、髙橋にカープから戦力外が通告された。今シーズン、髙橋は一軍の舞台に立っていない。あのシーズン最終戦、髙橋はベンチ入りこそしていたものの、出場機会はなかった。それでも、藤川さんは「オカン」の笑顔を忘れない。

「いい時計ですね」

「あ、これ大樹が1年目のときに買ってくれたものなんですよ」

母の腕には、プロ野球選手になって間もない髙橋と一緒に品定めした時計が光っていた。

髙橋は現役続行を目指し、トライアウト受験の準備を進めている。家族も仲間も、安易な励ましの言葉など掛けはしないが、心から応援している。

あの時計は、時を刻み続けている。まだ止まってはいない。

(※引用元 文春オンライン

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