「ずっと友達でいようね」。略して「ズッ友」。そう約束した2人はいま、少しの間だけ離ればなれになりながらも、お互い必死に勝負の一年を過ごしている。これは、同期入団で今季高卒5年目を迎えた広島・山口翔投手(22)と遠藤淳志投手(23)の入団から現在、そしてこれからも続くであろう友情の軌跡である。
些細なことからすれ違い…一度だけケンカした日
年齢、右腕、切れのある直球が武器など共通点の多い2人。血気盛んな1年目の当時なら仲違いしても不思議ではなかった。しかし、バチバチとしたライバル関係とは最初から無縁だった。お互いを「翔」「淳志」と下の名前で呼び合い、入団後すぐに打ち解けた。強化指定選手として1年目の過酷な練習をともに乗り越えるうちに、親友として認め合えるまでに仲は深まっていった。
そんな親友同士でも一度だけケンカしたことがある。1年目が担当する雑用をどちらがするか……というようなロッカールームでの些細なことからすれ違ってしまった。何をするにも一緒に行動していたはずの2人が、この日だけは一日中口をきかなかった。
そして、仲直りのきっかけを見つけられずに迎えた翌朝の練習。ウオーミングアップを終えて、キャッチボールへ。ここで2人は困った。いつものキャッチボール相手とは、まだケンカ中なのだ。とはいえ、グラウンド外のことを練習に持ち込むわけにもいかない。無言のキャッチボールが始まった。
ビシッ、ビシッと、どちらの球も力強かった。2人ともに「昨日はごめん」との思いを込めた。球を受けるだけでお互いの気持ちが伝わったのだろう。キャッチボールを終えると、すっかり笑顔に戻っていた。「やっぱりキャッチボールっていいな」。仲直りには、この一言で十分。これ以降、一度もケンカはしていない。
ある日は、俺らの関係は親友超えたね……というような冗談話で盛り上がった。「じゃあ、ズッ友だな」「ズッ友も超えてるよ」。それならばと山口が造語をつくった。「もう俺たち、ゴッドモだ」。ゴッド(God)と友達をかけ合わせ、ズッ友の発音で「ゴッ友」。神レベルの友達という意味で、漢字表記の場合は「神友」と書くらしい。
そうして切磋琢磨する2人に2軍首脳陣は1年目から伝えていた。「2人が競争する場所は2軍ではないからな。どっちも1軍に行って、そこで刺激し合うんだぞ」。その言葉通り、ともに高卒2年目の19年に1軍デビューを果たした。山口はプロ初先発だった5月30日のヤクルト戦で7回1安打無失点の快投でプロ初勝利を挙げ、遠藤も中継ぎとして34試合に登板した。
「見栄を張って“頑張ります!”とか言っていたけど…」
そして、飛躍を期待されて迎えた高卒3年目の20年。この年を境に2人の明暗は分かれていく。遠藤が開幕から一度も先発ローテーションを外れることなく5勝を挙げた一方で、山口はどん底にいた。本来の投球フォームを見失い、故障も経験するなど未昇格に終わった。当時、取材で「遠藤投手の活躍をどのように見ていますか」と聞かれれば、「僕もすぐに追いつけるように頑張ります」と気丈に応えていたものの、内心は複雑だったと言う。「見栄を張って“頑張ります!”とか言っていたけど、心の中では中々前を向けていなかった。何してるんだろう……って」。
当時、遠藤は「翔はマウンドでも迷っているように見える」と心配し、山口も「迷いがあるから焦ってすぐに新しいことを試したくなってしまう」とうつむき気味だった。いいときも悪いときも2人は通じ合っていた。
遠藤もそのまま順調とはいかず、昨季は登板2試合のみと大半を2軍で過ごした。今季はそこから這い上がった。今春キャンプでは新人や年下の投手から優先的にチャンスを与えられる立場だったものの、結果を残し続けて開幕ローテーションを奪った。
山口は、これまで何度も言ってきた。「淳志が結果を残す度に“淳志にできるのなら俺にもできるはず”って思えるし頑張れる」。これは本心だろう。遠藤が見返そうと奮起する姿を誰よりも近くで見てきたのが山口である。一方の遠藤も必死に1軍にしがみつきながら、山口と一緒に戦えることを願っているに違いない。
次に2人でキャッチボールをする場所は、大野練習場ではなくマツダスタジアムだろうか。ケンカしたときと比べて、2人の球はどれくらい変わっているのだろう。きっといまも、「やっぱりキャッチボールっていいな」と笑い合える純粋さは、2人ともに変わっていない。(河合洋介)
(※引用元 文春オンライン)