ホークスに3連敗、カープは地元6連戦での逆襲を誓う。DH制ではないセ・リーグの本拠地球場、ファイターズは打撃センス抜群で知られ「二刀流」を表明する上原健太を先発に立ててきた。ノーヒットだったものの、力感あるスイング、さらに好投で2年ぶりの勝利を挙げた。一方で、カープである。「9番・ピッチャー」の執念が、チームの一体感を醸成するにちがいない。
開幕ダッシュは、彼らの「投打」の活躍とともにあった。
3月26日ベイスターズ戦、18番を背負った森下暢仁は好投のみならず、プロ初の猛打賞をマークした。4月9日タイガース戦では、セーフティースクイズにタイムリースリーベースと、野球センスを見せつけた。一方で左腕の柱・床田寛樹は4月13日ヤクルト戦で3打席連続ファーストストライクでのバント成功に、5月3日巨人戦はタイムリーツーベースである。
「二刀流」というパワーワードは似合わないかもしれない。むしろ、野手の作ったチャンスを「泥臭く」「粘り強く」つないでいく。今年の交流戦、カープの「9番・ピッチャー」の打席に目を凝らしたい。
大瀬良の「一体感」を地で行くような行動
迎祐一郎打撃コーチも賛辞を送る。「うちのピッチャーは打撃の良い選手が多いです。ボールをつかまえることに長けている選手が多いと思います」。
ただ、彼が強調するのは天性だけではない。各選手の地道な取り組みも目にしていたのである。「(大瀬良)大地なんか、登板翌日でもバント練習に入っていますよ。エースがビジター球場でもやっているわけですから、それは良いお手本になっています」。
登板翌日のバント練習。そう一般的にお目にかかれる光景ではない。その胸には、技術向上のみならず、選手会長としての責任感があったようだ。
練習を終えた大瀬良は大粒の汗を拭いながら、持ち前の愛らしい笑顔で真相を語った。「昨シーズンは、登板翌日のバント練習に行くこともあれば行かないこともありました。でも、今年は行くようにしています。バントや走塁の練習に入ることで、野手と一緒になる時間が増えますから」。
まさに、佐々岡真司監督が標榜する「一体感」を地で行くような行動である。大瀬良の心にあったのは、責任感だけではなかった。ある野手の必死な姿が、その魂を増幅させたのだった。
「上本(崇司)さんの出塁率が高いでしょ。ああいう姿を見ると、何とか上位打線につながないといけない気持ちになりました」
31歳。10年目にして初の開幕スタメンをつかんだ上本崇司である。これまで守備・走塁のイメージが強かったが、打力はもちろん、ファウルで粘り四球をもぎとる。内角攻めにも引かず、死球でも表情を変えずに一塁へ駆けていく。開幕から1カ月にわたり、4割以上の出塁率で「恐怖の8番」として開幕ダッシュの原動力になった。
「いや、大学時代はDHで打席にも立っていなかったでしょ。そこからプロ野球です。打席での感覚が、いきなり高校からプロ野球になるわけですから。センスがあるわけでもないので、練習が必要だと思っていました」(大瀬良)
出発点は、謙虚な課題意識だっただろう。しかし、選手会長としての責任感が、妥協のない練習につながった。懸命な野手の姿も、闘争心や向上心に火をつけた。
「僕は、相手の配球などを考えて打っていくタイプです」
カープ打線の心意気は、「9番・ピッチャー」で分断されることはない。投手陣のシャープな打撃は、チームの一体感の象徴である。
開幕から投打で好調の床田は、バッティングの話に目を輝かせる。「とにかくヒットを打ちたいと思って打席に入っています。結構、僕は、相手の配球などを考えて打っていくタイプです。攻め方をイメージして打席に入ります。わりと当たることもありますよ」。ニヤリと笑った笑顔には、自信だけでなく野球少年の純粋さが垣間見えた。
そこは迎打撃コーチも認めるところである。「床田は、去年の対戦などをよく覚えています。どうやられたかも記憶しています。そこも踏まえて打席に入ってくれています。(打撃に)興味があるからこそでしょうね」。
そんな投手陣だからこそ、打撃コーチ陣も、狙いを含めて積極的にアドバイスを送る。
エースのバント練習。その姿が、投手陣全体の攻撃への意識を高める。そこから、打線がつながる。その心が、野手のハートに火をつける。
豪快なホームランではないかもしれない。堅実なバント、着実に上位打線につなげるバッティング、ボディーブローのようにダメージを与えるファウルでの粘り……。
2022年の交流戦も中盤戦に突入した。今週のカープは、地元・マツダスタジアムの6連戦である。投げて、打って、チームに流れを呼び込む。ひたすらフォア・ザ・チームでバットを握る「9番・ピッチャー」の打席が、逆襲の旗印になるかもしれない。
(※引用元 文春オンライン)