2022年シーズンのペナントレース、セ・リーグは現在、ヤクルトスワローズ、読売ジャイアンツ、広島カープによるAクラス争いが続いている。自身も監督としてヤクルトを優勝に導いた経験がある野球解説者の真中満氏は、上位3チームのここまでの戦いぶりをどう評価するのだろうか。
鈴木誠也が退団しても、健闘が目立つ広島
ーー現在のセ・リーグは真中さんの目にどのように映っていますか?
真中満(以下、真中) 現状、ヤクルトが一番チーム力は高いんじゃないかな? 首位にいるのも当然だという気がしますね。そして、個人的に驚いたのが広島の健闘。「意外」と言ったら失礼になるけど、鈴木誠也というチームの中心が抜けたけれど、みんなでつないで、つないで点数を挙げる、勝ち星を拾うということができている気がしますね。
ーーでは、その広島から伺います。現状ではセ・リーグ3位ですが、「健闘」という印象ですか?
真中 健闘ですね。鈴木誠也がいなくなった分を「みんなでカバーしよう」という意識が強く出ていますよね。その筆頭が西川龍馬であり、坂倉将吾です。開幕当初は不振で苦しんでいた小園海斗が復調して、ここに加わることがあれば、さらに嫌らしい打線が完成して、ますます「つなぐ野球」が可能になりますからね。
ーー先発投手陣のコマもそろっていますね。
真中 森下暢仁、大瀬良大地、九里亜蓮、床田寛樹がしっかりしているところに、アンダーソンがかなり使えることがわかった。中継ぎは不安なところがあるけど、先発陣がしっかりと試合をつくって長いイニングを投げて、クローザーの栗林良吏につなぐことができれば白星も増えていくでしょうからね。
ーー広島の場合、懸案事項は中継ぎ陣になりますか?
真中 ヤクルトの中継ぎ陣と比べると、手薄な感じは否めないですよね。ただ、そういう意味ではジャイアンツも同じなんですよね。
ーーでは、続いて巨人について教えてください。
真中 ジャイアンツの場合は坂本勇人の離脱が、とてつもなく大きいですよね。中田翔や中島宏之らベテランの力に頼ったり、若手の中山礼都を抜擢したりしているけど、それでもまだまだ苦しいですからね。ポランコやウォーカーが頑張っているけど、カープのような打線のつながりはまだできていないと思いますね。それに投手陣が本当に苦しい。先発も中継ぎ陣も、かなり厳しい状況にありますね。
若手投手に頼らざるを得ない巨人
ーー開幕当初は、ドラフト1位ルーキーの大勢投手、3位の赤星優志投手、プロ2年目の山崎伊織投手、育成からはい上がった堀田賢慎投手、そして平内龍太投手と、立て続けに「プロ初勝利」が続いて、投手陣の若返りも図りつつあります。
真中 若手投手の台頭はチームに勢いをもたらすけど、やっぱり、そのあとも勝ち続けるというのは難しいんです。結果的に菅野智之が白星を積み重ねているけど、若手選手はまだまだ未知数なので、やっぱり坂本とか菅野に頼らざるを得ないのが現状だと思いますね。
ーーそのなかで、ルーキーの大勢投手はクローザーとして奮闘していますね。
真中 本当に立派にやっていると思いますね。ボールが強いからクローザーとしての適性がありますね。去年の広島の栗林良吏みたいに年間を通じて働けるのか? それとも、夏場に一度休養を挟んだほうがいいのか? そのあたりの見極めがすごく大事になりますね。
ーーボールの勢いもすごいし、マウンド度胸もありそうですね。
真中 マウンド度胸は確かにすごい。でも、かつてのDeNA・山?康晃、楽天・松井裕樹のように、怖さを知らない1年目は意外と抑えることもできるんです。何度か痛い目に遭って、本当の怖さを知った時に同じピッチングができるかどうか? 真価が問われるのはその時でしょうね。
ーーでは、昨年は日本一に輝き、今季もここまで首位を走っているヤクルトについては、どのように見ていますか?
真中 現状、チーム力が一番高いのは間違いなくヤクルトでしょうね。中村悠平が開幕前に離脱した。開幕後には奥川恭伸、サンタナも故障離脱した。中村は復帰を果たしているけど、去年のベストメンバーがそろわないなかで、実に粘り強く戦って勝利をものにしていると思いますね。
ーーその要因は何でしょうか?
真中 「代わり」と言っては失礼だけど、青木宣親が不振にあえいでいても、その代わりに出ている山崎晃大朗、太田賢吾がすごく頑張っているし、長岡秀樹、濱田太貴、内山壮真といった若手がのびのびとプレーしながら、みんなが一丸となって戦っているのがいい結果に出ていますね。
投打ともに戦力が充実、層の厚さを誇るヤクルト
ーー昨年の日本一メンバーを基本にしつつ、若手選手も育成していくという、ある意味では理想の展開が続いている気がしますが。
真中 うん、確かに理想的だと思いますね。普通なら、中村を固定で使いたいと思うんです。でも、そこをあえて内山にマスクをかぶせることで経験を積ませる。しかも、試合を落とすことなく、きちんと勝利を挙げている。それは理想的ですよ。それに、彼はバッティングに非凡なものがあるでしょ。たとえ打率が低くても、「何かやってくれそうだな」という雰囲気がある。僕が監督でも、使いたくなるタイプの選手ですね。
ーーチーム状態がいいと、いろいろ試すこともできますからね。
真中 長岡をずっと起用しているのも、「チーム状況がいいから」というのが大きいでしょうね。彼は守備力があるので、「守りで計算できるから」という部分での起用もあったのかもしれないけど、使い続けていくうちにバッティングでも光るものが出てきた。いい循環が続いていると思いますね。
ーー投手陣についてはどう見ていますか?
真中 長年にわたって、「投手陣が課題だ」「先発がコマ不足だ」と言われてきたけど、?津臣吾監督、伊藤智仁、石井弘寿ピッチングコーチがきちんと整備したと思います。奥川がいなくても、石川雅規を中10日で回したり、金久保優斗もまだ残っていたりしますから。中継ぎ陣も勝ちパターン、ビハインドの場面、それぞれがきちんと結果を出しています。この点はジャイアンツやカープと、大きく異なる部分だと思います。
ーー交流戦が終わってペナントレースが再開したら、セ・リーグの首位争いはどうなっていくでしょうか?
真中 現状の戦い方を見ていたら、戦力の厚さから言ってもどう考えてもヤクルトが一歩リードしていると思いますね。打線のつながりで言えばカープも負けてはいません。でも、野球は最終的には投手力勝負になる。カープは、先発陣はそろっているけれども、中継ぎに不安がある。ジャイアンツは先発も、中継ぎも、戦力が手薄です。ヤクルトは先発、中継ぎが質量ともに勝っている。そうなると一歩先を行く可能性は高くなると思います。
ーーこれまで真中さんは順位予想の際に、古巣ヤクルトに関しては「忖度込みで」とよく口にしていました。今回の発言も「忖度込みで」のものでしょうか?(笑)
真中 いやいや、今回は忖度しなくても「ヤクルトが一歩抜けている」と言っていいんじゃないかな(笑)。それぐらい、現状のヤクルトは戦力も整っているし、ベテラン、若手の調和もとれていますから、この強さは本物だと思います。
(※引用元 web Sportiva)