カープ改革の幕開けじゃ!待望の就任となった広島新井貴浩新監督(45)が、1年目となる23年を迎えた。
10月の就任発表から外部コーチの招聘(しょうへい)や対話の指導法など、すでに新井色は明確。2月1日のキャンプインから本格始動する新井カープはどう変わっていくのか。チームを家族と表現する新指揮官が描く「幸せ家族計画」を探っていく。
現役時代には精神的支柱としてリーグ3連覇を支えた“新井さん”が、現役引退から5年ぶりに広島に帰ってきた。12球団最年少の指揮官として、4年連続Bクラスに沈むチームの立て直しを図る。
新井監督 カープの伝統は、やはり走り回る野球ですよね。足が速い遅い、盗塁ができるできないではなく、もっと走塁の意識を持ちながら打撃と走塁の両面で相手にプレッシャーをかけられるようなチームにしていきたい。また、先発から抑えの栗林につなぐまでを整備しないといけない。そこは自分も腹をくくって、我慢してやらないといけないなというのは思っています。
再建を目指すテーマは「機動力」と「中継ぎの整備」にある。広島は昨季、球団史上最少となる26盗塁に終わり、盗塁企図数55も含め、リーグワーストだった。成功率は12球団で唯一5割を下回る4割7分3厘。伝統の機動力野球の復権は急務といえる。
さらに中継ぎ陣はここ数年、シーズンを通して勝ちパターンを確立できていない。昨季の救援防御率3・32もリーグ5位。現役ドラフトでは巨人から左の戸根を獲得。昨秋ドラフトで獲得した即戦力候補の新人3投手も1軍キャンプ参加が決まっている。森浦や矢崎、ケムナといった経験を積んだ若手を中心に、チーム内競争を刺激させて戦力底上げを目指す。
新指揮官は現役時代同様、監督に就任してからもカープを「家族」と表現する。新体制初仕事となった昨秋キャンプでは参加選手の前であらためて“家族宣言”。選手たちには分け隔てなく声をかけ、個々の意識を高めた。家長として優しく温かい存在感でチームをまとめていたが、ペナントレースに向けて厳しい一面も見せていかなければいけない。
新井監督 チーム内の雰囲気は開幕が近づくにつれて意識しなくてもピリッとするので、ありのままにやっていきたい。打たれたとか、打てなかったとか、結果で何かを言うつもりはない。ただ、チームとして輪を乱すようなことや、やらないといけないことをやらなければ、叱ることもしなければいけない。自分は優しいけど、甘くはない。就任会見でも言ったように、カープのために何がベストなのか。勝つために何がベストなのかを念頭に置いてやりたい。たとえ自分が苦しくても、カープのために厳しいこと言わないといけない時もあるだろうし、選手を外さないといけなくなる時もあると思う。ある時は厳しい父親のように、ある時は優しい母親のように、またある時は頼りがいのある兄貴のように。そこは1人で何役もしないといけないと思っている。
幕を開けた23年、新井監督に率いられた広島がV字回復するかどうかは、まだ分からない。ただ、再建に向けた大きな1歩を踏み出す1年になる期待は十分にある。新井監督が描く「幸せ家族計画」とともに、広島が新たな歴史をつくっていく。
新井イズムはすでにチームに浸透しつつある。新井体制下で行われた秋季キャンプは、例年以上に活気があった。押しつける指導ではなく、選手の考えや感覚などの意見を聞き入れながら寄り添う指導法が採られた。選手自らが考えながら取り組むことで、主体性が生まれ、チーム全体の空気も変わった。藤井ヘッドコーチをはじめ、他球団でのプレーや指導経験のあるコーチ陣がチームに新しい風を吹かせた。もちろん、中心にいたのは新井監督だった。
新井監督 一方的に伝えて終わりではいけない。“あれしなさい”“これしなさい”というのは好きじゃない。そこに対話がないといけない。対話した上で一緒に上達していくもの。教えることよりも気付かせることが大切だと思う。
秋季キャンプでは参謀役の藤井ヘッドコーチがコーチ陣に指導方針を浸透させた。個別に選手に伝えたことも、コーチ間で共有。チームとして進むべき方向性だけでなく、選手個々をどう導いていくのかも首脳陣の中でも意思統一されていた。選手とコーチだけでなく、首脳陣の中の連携も取れている。
新井監督 選手に伝えるには、コーチ陣がしっかりとコミュニケーションを取って意思の疎通ができていないと、選手には伝わらない。そういった意味でも秋季キャンプは短い期間だったけど、コーチたちの中でもコミュニケーションを取りながら意思疎通ができたので、すごくいいキャンプになったと思う。スタッフがしっかりまとまっていないと、選手にまとまっていこうとは言えない。2月のキャンプ、オープン戦、シーズンに入っても、しっかりしていかないといけない。
チームを“家族”と表現するだけに、コーチだけでなく、選手にも筋を通す。それが新井流。だからこそ、言葉1つ1つが選手の胸に響く。春季キャンプでは頻繁に1、2軍を入れ替え、シーズン中も若手の積極起用を明言している。
新井監督 若手の底上げ、力をつけさせることは大事ですが、長いシーズンでは若手、中堅、ベテラン、外国人選手のバランスも大切。3連覇の時はそういった絶妙なバランスがチーム力となっていた。戦力だけでなく、すべてにおいてバランスは大事。1年単位でもシーズンの序盤、中盤、後半を念頭に置きながら、投手起用や采配をやっていきたいと思っています。
若手だけでなく、ここ数年精彩を欠く中堅、ベテランの再生もチーム再建には欠かせない要素ととらえる。また、昨年はシーズン途中で先発陣に負傷や不調が目立っただけに、球数管理などマネジメントも徹底していく。
新井監督 シーズンは長い。それにカープは移動時間が長く、マツダスタジアムは暑さも厳しい。体力的な消耗を考えると、やっぱり休ませるというのは必要になってくる。勝つために何がベストなのか、カープのために何がベストなのかを常に考えたい。シーズンに入れば、うまくいくことよりもうまくいかないことの方が多いと思う。当然、勝つこともあれば負けることもある。ただ、うまくいかない時こそ、大事。次どうしていくのか。常に前に、前にという意識は選手たちにも伝えていきたい。
常にポジティブな言葉で選手を鼓舞し続けている新井監督だが、頭の中ではしっかりとしたリスク管理もできている。
新井監督 監督はチームの船頭だと思っているので、逆風が吹いても、大雨が降っても、道しるべとならないといけない。
選手の成長を陰で支えながら、正しい方向へ導く旗振り役となる。監督就任後も、本人の希望もあり“新井さん”と呼ばれ続けている。これまでにない監督像を描く新指揮官とともに、新生カープがセ界に挑んでいく。(前原淳)
(※引用元 日刊スポーツ)