5年間広島を指揮した野村謙二郎氏が明かす“印象に残る試合3選”
濃密な5年間だった。野球評論家で広島大学スポーツセンター客員教授の野村謙二郎氏は2010年から2014年まで広島監督を務めた。順位は5、5、4、3、3位。優勝には届かなかったが、この期間の礎が2016年からの3連覇につながったといってもいい。とはいえ、指揮官にとっては、まさに大変な日々。喜怒哀楽、いろんなことがありすぎたようだが、その中で、あえて印象に残るベスト3を挙げてもらった。
野村氏は「俺の中では、これらがベスト3。順位はつけられないけどね」と前置きした。3つの事象が“同率1位”ということを前提に紹介したい。まずは2013年10月12日、13日の甲子園球場での阪神とのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージだ。レギュラーシーズンは69勝72敗3分。勝率5割には届かなかったが、1997年以来のAクラス。初のCS出場となった敵地での出来事だ。
試合には初戦が8-1、2戦目が7-4。連勝でファイナルステージに駒を進めたが、試合内容以上に感激したのが敵地での光景だった。「甲子園が半分赤になっていた。あれは一生忘れられない」。いつもなら、ものすごいアウェー感に包まれる球場だ。熱狂的な阪神ファンの力を感じざるを得ない場所に、赤ヘルファンが大挙、駆けつけてくれた。その熱い声援に感激した。身震いした。感謝せずにはいられなかったという。
2014年6月15日のロッテ戦(QVCマリンフィールド=現ZOZOマリンスタジアム)でのエルドレッドの逆転満塁弾も野村氏にとって思い出深いという。当時、広島は9連敗中。その試合も序盤で2-0とリードしながら、中盤にひっくり返され、逆に3点を追う展開になった。それを7回1死満塁からのエルレッドのバックスクリーンへの一発が救った。
前田智徳をピンチヒッターに送るも、“代打の代打”を告げたワケとは
「打った時、よっしゃ、行ったぁってみんな言っていたんだけど、俺はこういう連敗が続いている時は風で押し戻されて、フェンスの手前で捕られるんだろうな、捕られるんだろうなって。入った瞬間にみんながウワーってやっているのに、俺だけ下向いて、ホーーってやっていたからね。ホッとした。本当にうれしかったね」。その試合を8-5で勝利し、そこからカープは6連勝している。
「生きた心地がしなかった」というのは2011年7月17日の中日戦(ナゴヤドーム)だ。3点リードの6回1死一、三塁で代打の切り札・前田智徳を送ったところ、中日は左のサイドスロー・小林正人をマウンドへ。これに代打の代打で井生崇光を告げたシーンだ。その瞬間、スタンドから「野村! 前田を代えるなんて何考えてんだ!」などの強烈なヤジが飛んだ。騒然となった。「井生も、行くぞって言ったら、僕ですか、って感じだった」という。
もちろん、この策には理由があった。「前田はコントロールがアバウトな小林を嫌がっていた。コーチから『前田が小林はちょっと無理なんで、チームに迷惑をかけられないと言ってきた』との報告が事前にあったんです。その時は前田に代打を出すなんて俺の気持ちも考えてみろよって話していたんだけど、現実にそのシーンが来たら、前田が無理ですみたいな感じでベンチから出ていった。それを見て代えたんです」。
それでも勇気が必要だったが、結果、井生はレフトへフェンス直撃の二塁打を放った。「ヨッシャーってなったのを覚えている。今でも井生には会うたびにこの話をする。あの時は緊張したやろ、俺も緊張したよ。よく打ったなぁ、お前、ありがとな井生ってね」。これら3つのエピソードが“あえて選んだ同率1位”だが、監督時代にはまだまだ、いろんなことが……。実は感情をコントロールするための“怒りのはけ口”をつくっていたという。(山口真司)
(※引用元 Full-Count)