今、あらためてあの背番号15の背中の大きさを感じさせる。
’18年セ・リーグペナントレース序盤、今年も2連覇中の広島が主役を演じている。ただ勝率や順位とは別に、危うさもはらんでいる。
今季両リーグともに見られる「打高投低」は広島にも言える。24試合を終えた時点で、1試合平均4.8得点を挙げる一方、1試合平均4.1失点を喫している。打線がチームの原動力となっている。
先発は苦しんでいる。柱として期待された薮田和樹が登板2試合で中継ぎへ配置転換となり、開幕投手の野村祐輔も背中の張りを訴えて4月27日に出場選手登録を抹消された。
苦しい台所事情は数字が物語る。先発の防御率の指標とされるクオリティースタート達成率は50%。先発の防御率は4.50。先制点を許し、得点後の失点も散見される。何より四球が絡んだ失点が目立つなど内容が良くない。
どれだけ守備の時間が伸びても……
1試合平均152球を要す投球リズムは、攻撃や守備にも影響する。それでも野手陣は根気強く、諦めることなく打って援護し、守って盛り立てる。勝利のために、攻守にサポートを惜しまない。
特に二遊間を守る田中広輔、菊池涼介の2選手は1球1球、ポジションを変え、バッテリーにサインを送るなど、守備の時間がどれだけ長くなっても集中力を切らさない。
「1試合終わったときにはドッと疲れが襲ってくるけど、それでもやらないといけないから」
開幕から連続無失策を継続する菊池はさらりと言う。どれだけボール球が続いても、野手は次の1球を信じて守っている。
苦しい投手事情だからこそ、“エース”と呼ばれる存在の必要性を感じる。
一昨年は黒田博樹氏がいた。新井貴浩や石原慶幸が「絶対的なエース」と認める存在感があった。引退したばかりの昨年はまだ、ともにプレーした投手たちは黒田の残像を追うことができた。
立ち居振る舞いはそれでいいのか
ただ、黒田氏が引退して2年――。
今の広島投手陣に黒田の背中は見えているか。広島投手陣は、チームの順位、現状に満足することなく、もっと貪欲に、もっとこだわりを持ってマウンドに上がらなければいけない。
たとえ四球を出しても、その中でできることはある。マウンドだけでなく、マウンドを降りてもできることはある。登板に向けた取り組みも変えられる。技術は一朝一夕で変わるものではないが、姿勢は気持ち次第で変えられるはずだ。
最もエースに近いと思われていた野村だが、今季は精彩を欠く。背中の張りがあったとはいえ、4月13日巨人戦から登板3試合続けて不甲斐ない投球が続いた。
巨人戦は相手のエース菅野智之との投げ合いで1回に5点を失うと、26日DeNA戦も1回にもらった3点の援護点を2回までにすべて吐き出した。
万全な状態ではなかっただけに、投球内容を責めることはできない。ただエースの座を狙う者として、投球だけではなく、マウンドでの立ち居振る舞いは意識できたのではないか。
6回4失点だった20日中日戦、野村はいるべき場所にいなかった。7回のマウンドではない。7回途中でマウンドを降りる中田廉のもとに、だ。
大黒柱ならば、姿勢だけでも
前日19日ヤクルト戦で、広島は中継ぎ投手を総動員し、延長12回を戦っていた。試合終了から12時間もたたないうちに、約500kmの移動。そして迎えた試合だった。広島は3連投の中崎翔太、ジャクソンのノースローを決めていたほど中継ぎ陣は登板過多。先発の柱として長い回を投げることが求められた。
万全の状態ではなかったからか、援護点をもらいながら初回から失点を重ね、6回でマウンドを降りた。
逆転した7回、2番手の中田が打ち込まれた。どれだけ打たれてもベンチは投手交代を告げず、マウンドへ行って間を取ることもしない。登板過多の影響を1人で背負わされているようだった。
イニングの途中で肩を落とし、ベンチに下がる中田の下に歩み寄る19番の姿がなかったことが悲しかった。大黒柱であれば、姿勢だけは見せてもらいたかった。
黒田は不満も苦笑いも見せなかった
野手だけでなく、中継ぎ陣もまた先発陣を支えている。中継ぎの防御率は2.89。中5日や中6日の登板間隔が空く先発と違い、中継ぎは毎日準備し、投げる覚悟でいる。中継ぎを助けるのもまた、先発投手だろう。
黒田氏は現役時代、球数が100球を越えたイニングに「代わるか?」と投手コーチが尋ねると「(今村)猛は連投が続いているから、もう1イニング投げます」と直訴したこともあった。
もちろん失点を重ね、マウンドで不満の表情を出すこともなければ、苦笑いを見せることもなかった。マウンドでの立ち居振る舞いはチームに影響することを知っていた。
野手陣が抱く投手陣への信頼をつなぐ役割を担うのもエースだろう。
広島が低迷していたときも、打高投低だった。当時は自然と野手陣の発言力が強くなり、それは試合でも見られたという。四球を出す投手、失点を重ねる投手への声は励ましを超える鋭さがあり、若い投手は萎縮し、力みにつながった。
今の広島の強さは一体感であり、団結力にある。投手陣と野手陣は信頼関係で成り立っている。低迷期を知る元エースの黒田氏と新井が広島に帰ってきたことがチームのターニングポイントとなり、広島は変わっていった。
背番号15の残像がみえなくなってしまったのならば、新しいものをつくればいい。そんな気概のある投手の台頭が待たれる。(「炎の一筆入魂」前原淳 = 文)
(※引用元 Number Web)