4年ぶりに日本でシーズン開幕を迎えた秋山翔吾(広島)が、好スタートを切った。オープン戦では出場15試合中12試合で1番に起用されたが、シーズンではここまで全試合3番でスタメン出場。4月10日現在、リーグ3位の打率.429をマークしている。
【外野手のなかでは三番手】
監督が代われば、新陳代謝が起こる。監督によっては、あえて世代交代を積極的に行なうこともある。だが、新井貴浩監督が新たに就任した広島の春季キャンプでは、レギュラーを脅かす若手の台頭は見られなかった。
目立ったのは2年目の田村俊介や韮澤雄也といった、レギュラー争いでは序列が低いと思われていた選手たち。期待された選手たちのアピール不足もあるが、レギュラークラスが高い壁となったことで新風を遮ったとも言える。そのなかでも存在感を示したのが、一軍キャンプ参加メンバー最年長の秋山だった。
「(西川)龍馬と野間(峻祥)がいるので、いま僕は三番手。3つしかない外野のなかで、誰が最初に食われるのか……と。(移籍先に)カープを選んで、自分の首を絞めているとも言えるかもしれないけど、ここで折れるようならどこのチームにいても終わってしまう」
キャンプ前、秋山はそう口にしていた。新監督にアピールしようとする若手よりも、秋山は危機感を抱いていた。
昨年、シーズン途中にアメリカから日本に帰ってきた。新天地は古巣の西武でも、パ・リーグでもなく、セ・リーグの広島だった。環境の変化、野球の違い、コンディションの維持……これまで首位打者1回、シーズン最多安打4回の打撃技術を持つ秋山でも、すぐに適応するのは難しかった。
十分な調整期間もないままチームに合流し、ただただ目の前の試合をこなす日々を過ごすしかなかった。コンディションの悪化も重なり、日本復帰1年目は打率.265、5本塁打、26打点に終わった。
数字だけを見れば、ともに外野のレギュラーとして戦った西川や野間に劣る。移籍経緯は言い訳にならない。
「しっかり対応して、結果を出す姿をもっと見せたかったなという思いはある。新しく迎え入れてもらったなかで、もうちょっとしっかりやりたかったなと」
契約更改を終えた会見では悔しさを隠そうとしなかった。生まれ変わろうとするチームのなかで、ポジションを奪いにいかなければ立場を失ってしまう。野球界の厳しさは西武、そしてアメリカで痛いほど感じてきた。
【先を見据えた体づくり】
激動の1年を走り抜き、迎えたオフは地に足をつけたシーズンに向けて計画的に取り組んだ。ポジションを死守するためではなく、新しい秋山翔吾をつくるために──。
「『タフにシーズンを乗りきれたな』と言える年にしたい。簡単ではないと思いますけど、ここでできなかったらたぶん来年も再来年もできないと思う。試合に出てボロボロになって、ただ目減りして終わっていく感じになりそう。だから、グッとアクセルを踏むくらいの気持ちでやっていきたい」
今年だけでなく、2年後、3年後、その先をも見据えていた。選手として再び上昇カーブを描く、浮上の一歩とする。そう心に決めた。
例年以上に追い込んだ一方で、1月になるとこれまで徹底してきた体の管理を意識的に緩めた。自主トレ期間中、あえて練習後にトレーナーからケアを受けなかったこともある。ケガにつながらない程度の張りを感じながら動くことで、年齢を重ねた自分自身の体の現状を知ることができる。
また、どこかで”過保護”にしていた体に、本来持つ回復力を求めたのかもしれない。今年4月16日に35歳となる体の許容範囲を測りつつ、可能性を広げようとしていた。
打撃フォームも微調整した。アメリカでは打者の手元で変化するボールに対応するため、ミートポイントを体に近づけていたが、昨シーズン終了後から投手寄りにした。
西武時代に近い感覚を取り戻すためには、実戦のなかで研ぎ澄ましていくしかない。春季キャンプ3日目には、投手を相手にしたフリー打撃に志願して参加。そこで感じた違和感を拭うため、練習後はひとり残ってティー打撃を行ない、新井監督からも直接指導を受けた。その後も積極的に実戦での打席に立ち、自分の感覚と客観的な部分をすり合わせながら新フォームをつくり上げていった。
新井体制初の実戦となった2月19日、DeNAとの練習試合から1番で起用され、オープン戦に入ってもその打順でのスタメンが続いた。リードオフマンを任される可能性もあったが、開幕が始まると新井監督は秋山を3番に据えた。
「アキ(秋山)は周りが見える選手だから。1番だといろいろと気にしてしまうところがある。好きに打てる打順で打ってもらいたい」
高い技術と経験を認めているからこその打順変更だった。
その期待に応えるように、秋山は開幕から安打を重ねた。打撃だけでなく、練習中から守備や走塁に至るまでチームを鼓舞する姿が見える。
移籍2年目とはいえ、豊富な経験と年長者としての強い自覚がある。そしてなにより、選手としての存在感をあらためて示す覚悟が強い。新たなステージへの一歩目ととらえるシーズンで、秋山が進化を示す。
(※引用元 web Sportiva)