栗山監督に通じる選手を信じ抜くチカラ
プロ野球広島が開幕前の下馬評を覆し、今季から指揮を執る新井貴浩監督(46)の下、4月24日まで10勝9敗と善戦している。チームは2018年にセ・リーグ3連覇した後、昨季まで4年連続のBクラスに沈んだ。今季も大きな補強はなく、相当数の評論家に最下位に予想された中、個々の力を最大限に引き出しながら戦力不足をカバーする“新井さん流”が脚光を浴びつつある。
広島は4月20日の阪神戦(甲子園)で7-4の九回に抑え投手の栗林良吏が1点を失い、なお無死一、二塁のピンチを背負った。ここで新井監督は就任後初めてマウンドに向かう。栗林は18日の同カードで逆転サヨナラ負けを喫している。悪夢の再現が頭をよぎるような展開に、こう声をかけたという。
「お前で打たれたら本望だから、思い切って投げろ」
栗林はここから佐藤輝明を左飛、代打の原口文仁を遊直で併殺とし、逃げ切りに成功した。長丁場のペナントレースを乗り切る上で、守護神が救援失敗を引きずることは避けたい。栗林が「(新井監督に)本当に信頼されているな、と。頑張らないとな、信頼に応えたいなという気持ちになった」と話したように、すぐさま立て直した裏には指揮官の存在があった。
「栗林と心中するような、選手を信じ抜くところは(ワールド・ベースボール・クラシック=WBC=日本代表の)栗山(英樹)監督にも相通じるものがあり、今の選手とは相性がいいのではないか。FAに依存せず、生え抜きの選手を育て上げる球団のカラーにも合っている」(元NPB球団監督)
新井監督は広島選手時代、厳しい環境下でドラフト6位入団から通算2000安打を達成する打者にまでなった。しかし、監督になった今、昔ながらの手法を押しつけることなく、現代の選手たちに見合った采配を振っている。鉄拳NG、指導者に懲罰的な扱いを受けると、反発ではなく萎縮する「Z世代」には適した指揮官のようだ。
呆れる金本氏の藤浪評
「選手時代に受けた指導を基本にし、それを今の選手に追体験させる監督は少なくないのだが……」
元監督はこう語り、その象徴的な一人に、新井監督が広島、阪神での現役時代に「兄貴分」として慕ってきた阪神の金本知憲元監督の名を挙げた。
「栗林の件で、同じ就任1年目(2016年)に藤浪(晋太郎/アスレチックス)を160球ほどで完投させたことを思い出した。あの時は序盤乱調だったが、交代は許さず、懲罰的に最後まで投げさせた。藤浪が金本の監督就任とともに制球難でスランプに陥ったことは確かで、因果関係がないとは言い切れない」
この金本采配は今年、藤浪が渡米したときに米メディアでも再び、取り上げられた。そして、藤浪に「打撃を与えた」とされた。事実、藤浪はメジャー移籍後も阪神時代の制球難が解消されていない。三回途中8失点だった藤浪のメジャーデビュー戦を受け、金本氏はテレビの情報番組に出演した際にこう語った。
「持っている能力の20、30%ぐらいしか出してないんじゃないですかね。なんで打たれるのかわからない。あのボールで」
金本氏のこの言葉に、前出の元監督は呆れ気味に語る。
「自身が原因であるという自覚がないのか、あるいは自覚があるだけに、ああいう言い方になるのか。(金本氏は)素晴らしい選手ではあったが、監督はまた別。新井の方が資質はあるように感じる」
新井ガッツ?
その上でこう続ける。
「新井は広島から金本がいた阪神にFA移籍するなど、生き方に至るまで大きな影響を受けた。しかし、監督としての采配を見ると、結果的に反面教師にしているようだ」
広島は4月16日のヤクルト戦(マツダ)で、田中広輔が4点を追う六回に起死回生の満塁本塁打を放った。
「血が沸騰するようなホームラン。今年に懸ける気持ちは分かっているので、私が一番うれしかった」
ベンチでは誰よりもはしゃぐ新井監督の姿は話題を呼んだ。田中がその前に2年ぶりに本塁打を放ったときも「彼もうれしいと思うけど、僕もうれしい」と我が事のように喜んだ。
4月23日のDeNA戦(マツダ)では栗林が同点の九回に決勝点を献上し、早くも3敗目を喫した。この試合後も新井監督は栗林の中継ぎ降格や2 軍での再調整を否定し、クローザーとして変わらぬ信頼感を示している。
中日の落合博満元監督は試合中の選手の活躍にも微動だにせず、ほとんど感情を表に出さなかった。巨人の原監督は懲罰的な采配で選手の反発心を刺激する手法を、今でも採っている。
一方で近年、阪神監督1 年目にチームを最下位からAクラス入りに導いた矢野燿大前監督は賛否両論ありながらも「矢野ガッツ」と呼ばれた喜怒哀楽を前面に出すスタイルだった。
「低迷するチームを引き上げるには監督のこういう姿勢はプラスに働くのかもしれない。それにしても新井の感情表現は選手に近い。より選手に寄り添って戦っているようだ」(元監督)
選手生活で金本氏の背中を追い続けた新井監督。監督生活では追い越せるか、今後の采配ぶりに要注目である。
(※引用元 デイリー新潮)