大谷翔平投手や佐々木朗希投手など、背が高く、そして手足も長いアスリートは、一見競技をやる上で有利に見えるかもしれません。ただ、そういった選手たちが自分の身体を使いこなすまでにどれほどの時間がかかるのか。さらに、そこから技術を身につけるというのも、並大抵の努力では難しいのです。
今回は、その身体を使いこなした時に末恐ろしい力を発揮してくれるであろう、アドゥワ誠投手を紹介したいと思います。
リハビリで苦しんでいたアドゥワ投手
自己紹介が遅くなりました。はじめまして、元広島東洋カープの中田廉です。現在は広島で色々なお仕事に挑戦させてもらいながら、7月にあるボディーコンテストの広島大会でフィジークの部に出場するため、野球を引退してからも身体を鍛える日々を過ごしています。
さて、なぜアドゥワ誠選手を紹介したいと思ったかというと、冒頭でもお伝えしたように現役中に一緒にプレーしていたときから一目置いていたアドゥワ投手の魅力を、改めて皆さんにお伝えしたいと思ったからです。
2016年、ドラフト5位で松山聖陵高等学校から入団し、2018年には中継ぎ投手として53試合に登板し、防御率3.74の成績で見事3連覇に貢献。高卒2年目でブレイクし、今後カープを背負っていく存在とし迎えた3年目は先発投手としてシーズンを過ごしました。
ホップ、ステップと良い感じで迎えた4年目でしたが、そんなにプロ野球は甘くありません。
二軍では先発ローテーションを回るも、身体の不調からシーズン終了後に右肘にメスを入れることになりました。
この手術から、アドゥワ投手のバランス感覚に歯車が生じます。それは手術をした後、リハビリの段階でアドゥワ投手の野球選手としての武器である196cmの高身長、そして手足の長さが難しくさせました。
運動が何もできないリハビリのステップ1から、ボールを徐々に投げるステップ2に移った際、手術した肘が上手くアジャストしなかったのです。手術してからボールを投げられない時期が長かったからなのか、長い距離のキャッチボールからブルペンに入るまでのステップ3にいくも、すぐにステップ2に戻るという、行ったり来たりの状態でした。
ボールを投げられない苦しさや練習ができないもどかしさは、同じ投手として痛いほどわかります。
しかし、苦しい時期だからこそ自分に厳しく、復帰した時により良くなってマウンドに上がろうという気持ちでリハビリをするか、ただ怪我から復帰するだけのリハビリにするか、ここではっきりと差が出るんです。
アドゥワ投手は前者でした。
リハビリ期間に自分の身体の細さをどうにかしようと考え、大きくするためのトレーニングや食事、サプリメント摂取を行っていました。
その他にも、メカニックの改善や、投手なら永遠の課題で正解がない投球フォーム、ここにもしっかり自分の課題を見出し取り組んでいる姿を見て、自分もまだまだ負けられないと思った事もあります。
「体重増やしたいんですが、どうしたらいいですか?」
後輩からはアドゥさん、アドゥさんと慕われ、先輩からも可愛がられる選手。いつも前向きで明るい選手。「ポジティブ」とはアドゥワ投手の事をいうんだと思うほどです。
そして、一見考え事をするタイプではないように見えますが、野球脳が優れていて、常に自分の伸びしろと向き合っていました。
そんなアドゥワ選手とよく話していたお話をここで紹介したいと思います。
「廉さん、体重増やしたいんですが、どうしたらいいですか?」
まずは1日の中で空腹状態を作らないこと。これをアドゥワ投手にずっと自分はアドバイスしていました。
アドゥワ投手は元から体脂肪が少なく、まるで筋肉の鎧でできているスーパーアスリート型の身体でした。自分の予測なので定かではありませんが、おそらくフィールドトラック選手のような体型で基礎代謝が高く、脂肪を燃焼しやすい身体なのでしょう。
アドゥワ投手の食事量、運動力を見ていても、量を食べられずに痩せていく選手ではなく、むしろ良く食べる選手でした。ここに活路を見いだすポイントがあると考えました。
食べられるということはスポーツ選手にとって本当に大切なことで、自分の経験から食い力がある選手で活躍していない選手はいないと思っています。
アドゥワ選手の食事量だと大きくなれる要素しかありませんでした。
そのアドバイス以降、常にプロテインゼリーを飲んでいる姿を見ては、すごいなと。自分に投資をできる選手だなと感心していました。
最初は大きくなったと思いきや、「また痩せました」の繰り返しで、時間はかかったかもしれませんが、ある日から「痩せました」と言わなくなったのを覚えています。
進化したアドゥワ投手の武器
2022年は手術した肘も随分馴染み、試合では投げることができましたが、結果は出ない苦しいシーズンでした。アドゥワ投手の中でも焦りや悔しさも当然あると思います。
アドゥワ投手の最大の武器はシンキングファーストボールという、表現が少し丁寧ではないですが、汚く動く真っ直ぐです。
近年、MLBではツーシームを投げる投手が続出しました。ツーシームはバットの芯を外し、打球がゴロになりやすいという、2018年以降にフライボール革命という時代がMLBに到来し、そのフライボール革命に対抗するように流行り出したボールです。
アドゥワ投手はツーシームではなく、ストレートを投げるだけでボールが動く摩訶不思議な投手とも言えます。指の長さや、リリース位置、ボールに対しての圧の掛け方など、様々な要素があって独特なボールの変化を生んでいるのでしょう。
ただ、2020年から2022年のアドゥワ投手の球速は140km前半でした。近年のプロ野球の投手としては平均球速に比べて少し遅く少し物足りない数字です。
スピードが全てというわけではありませんが、あればもちろんいいもの。
しかし、今年のOP戦を見た時になんと球速が上がっていました。140km前半のアドゥワ投手ではなく、140km後半のアドゥワ投手になっていたのです。
アドゥワ投手の動くボールにスピードがつくと、打者のミスショットが増えて、存在価値が更に高くなると確信しました。
ただ、今がアドゥワ投手の最高値ではなく、まだまだ発展途上だと思います。
今季は開幕から一軍でリリーバーとしてチームの戦力として貢献していました。現在は二軍にいますが、更に高みを目指しながら自分のウィークポイントを伸ばすために頑張っていると思います。
必ずまた一軍に戻ってきて、チームのため、ファンの皆さんのために活躍してくれるはずです。
自分もアドゥワ投手の摩訶不思議なストレートを見れるのを楽しみにしています。
誠、頑張れ!
(※引用元 文春オンライン)