2019年から4年連続のBクラスに低迷するカープを変えるべく、新井監督とともに、藤井ヘッドコーチも現役時代、阪神でのコーチ経験を生かして、チームの意識改革に取り組んでいる。
新井カープの色を出しながら勝利を目指すため
「今まではこうだったというのをカープに来てからめちゃくちゃ聞く。その考えが良いところもある。でも、“ここでこうするのは良くないからやめよう”とか、作戦でもプレーでも多い。ずっとカープにいるから、みんなそれが当たり前になっている。僕は(昨年まで阪神で)矢野さんから学んだこともあるし、そのほうがいいというのもあるので、伝えるようにしている」
今までのチーム内の常識だけが正解ではない。新井カープの色を出しながら勝利を目指すためにも、新たな試みを行う。例えば、初回に犠打をしないという戦術だ。新井監督は「初回からバントはしない」と開幕前から打ち出しており、ここまで初回の犠打は0と公言した通りの戦いを行っている。
藤井ヘッドコーチも犠打をしたから得点につながるという考えは初回に限っては疑問を抱いている。
「ロースコアが予想されるなら初回の犠打はいいと思うが、先頭打者が出て、無死一塁で送り犠打をしてくれたら、キャッチャーはめちゃくちゃうれしい。1死二塁でも、そこから安打1本は打たなくてはいけない。相手からしたら、アウト1個くれるんだとなる。そのアウト1個で相手投手も落ち着くかもしれない」
捕手目線の考えだ。相手がどのような攻撃をされたら嫌なのかを考えた時に、立ち上がりはチャンスでもある。そこで自らアウトを与えることで、立ち上がりが不安定な投手によっては立ち直るきっかけとなってしまうケースもあるという。
実際、5月19日の阪神戦の初回には安定しない相手先発の青柳に対して、各打者は早いカウントから積極的に振りにいった。凡打を恐れず、割り切った作戦で5点を奪うことに成功した。昨年は初回にイニング別で最多の22犠打を記録していたチームも、今年は新たなスタイルを確立した。
「矢野阪神」で培った育成法
機動力も課題にある。昨季は球団ワーストの26盗塁。リーグ3連覇を果たした16~18年はリーグ1位(16年118、17年112、18年95)の盗塁数を記録するなど、積極的な走塁は大きな武器となっていた。機動力野球の復活へ藤井ヘッドコーチは失敗を恐れずチャレンジすることの重要性を選手たちに伝えている。
「選手たちに、なんで行ったんやとか言ったら、“ほんなら行かへんわ”となるから。(昨年までの阪神では)矢野さんもアウトになったことはいいと言っていた。ただその次にセーフになる可能性を上げていこうというスタンスだった。その成功例を(阪神で)見させてもらったから、頑張って言っていけば変わるのではないかと思っている」
昨年までバッテリーコーチで在籍した阪神は矢野前監督のもと、19~22年までリーグ1位の盗塁数を誇った。その裏には失敗を責めない育成法があった。チャレンジしようとする選手の背中を押し、島田、植田、熊谷らが頭角を現すなど、成功例を間近で見てきた。だからこそ、“矢野イズム”をカープでも体現する。若手だけではなく、ベテランの秋山、菊池や外国人選手にも走塁の意識を植え付けるチームづくりを行い、22日の時点で17盗塁を記録するなど、変化が数字にも表れている。
こうしたスタイルを徹底したうえで、試合前練習では必ず新井監督と意見を交わし、作戦を練る。「監督には打者の目線があるから。でもこっちは守りの目線がある。そういうのを確認している。そう(意見交換)したほうがやりやすい」。新井監督を支える参謀役は選手が能力を最大限発揮出来るよう、新天地でも奮闘を続けている。(ちゃんこ長谷川)
(※引用元 文春オンライン)