甲子園、東京ドームと続いたDeNA下克上の最終章は、あの1球から始まった。日本シリーズ第1戦(10月26日)の始球式を務めたのは、権藤博さん。85歳とは思えぬノーバウンドピッチに、本拠地のファンは一気に盛り上がった。しかし連敗。8日後に三浦監督が胴上げされる姿など、正直想像できなかった。
「26年ぶりの日本シリーズ制覇、しっかりと目に焼き付けさせてもらいました。試合を重ねるごとにチームは力を加速していきました」
権藤さんが始球式を依頼されたのは、前回日本一に輝いた1998年の監督だからだ。マシンガン打線と大魔神。「最強メンバーによって日本一にしていただきました」と謙遜したが、選手に任せきることほど難しいことはない。今回は横浜だけでなく福岡にも足を運び、現地で戦いを見つめてきた。
「三浦、石井、鈴木…。26年前に優勝させてくれた時のメンバーが、今の監督でありコーチだからね」
もちろん感慨無量。一方で少し複雑。権藤さんはCS反対論者である。シーズン143試合を軽んじるな、との考えだけでなく、復活する敗者の多さが気に入らない。
「メジャーは前より増えたけど30分の12。日本は12分の6。半分が出るのがね。それがシステムだから、ベイスターズが勝ったことにケチをつける気はないよ。立派な勝ちなんだけどね」
26年ぶりの日本一を祝福する元監督の喜と、これでいいのかと案じる野球人の憂。中日が現時点で最後に出場した2012年のCSには、権藤さんも投手コーチとして関わっている。9・5ゲーム差をつけていたヤクルトに負けかけ、10・5ゲーム差をつけられていた巨人に勝ちかけた。
「1年」をひっくり返すおもしろさは、不条理と裏表。17年たっても制度への賛否はある。それでも思う。弱者救済だろうと敗者復活だろうとかまわない。来季は「12分の6」に滑り込んでくれ。巨人と8ゲーム差から鮮やかに駆け上がったDeNAが、素直にうらやましかった。
(※引用元 中日スポーツ)