ドラフト1位で東都のスラッガー
勝負の怖さを知っただろう。広島は今年8月まで首位争いを繰り広げていたが、9月以降に7勝22敗と大失速。必死に戦ったが状況は好転せず借金2で4位に終わった。9月に入った時点で首位に立っていたチームが、Bクラスとなるのはプロ野球史上初の屈辱だった。
大失速の原因を突き詰めると、得点力不足に突き当たる。9月以降の29試合で計73得点。1試合平均2.5得点では投手陣が苦しい。打線強化へ、今秋のドラフトでその方針は明確だった。事前に1位で指名公表していた宗山塁(明大)と縁がなく、大学で指折りのスラッガー・佐々木泰(青学大)を指名。東都一部リーグで通算12本塁打を放った右の長距離砲で、青学大のリーグ戦4連覇、全日本大学選手権連覇に貢献した。
新井貴浩監督は指名後にドラフト会場から大学の記者会見場へ挨拶に駆けつけ、「今すでに素晴らしい選手ですが、彼のポテンシャルを考えれば、まだまだ成長できる。カープの中軸を打てる選手に、そして将来は侍ジャパンに選ばれるような選手になれると思います。1年目から活躍するつもりでチームに来てほしい」と声を弾ませた。
強打者を補強できれば
ただ、佐々木はまだ発展途上の選手だ。確実性を磨く必要があり、中軸を担うにはもう少し時間が掛かる。即効性のある強化策として、FAで他球団の強打者を補強する手段が考えられる。野球評論家の伊原春樹氏は週刊ベースボールのコラムで、こう指摘していた。
「球団は新井貴浩監督に来季も指揮を託す方向だという。今季と同じ過ちを繰り返さないためにも、攻撃力アップを果たさなければいけないのは言うまでもない。今季は坂倉将吾がチーム1位の12本塁打だったが、これだけでは心もとない。小園海斗、矢野雅哉ら若手のさらなるレベルアップも果たさなければいけないし、その下の世代の台頭も待たれる。しかし、現場の努力だけでは限界もある。最近はなかなか難しいが打てる外国人打者を獲得しなければいけないし、それこそFAに参戦するなどしてフロントがしっかりと戦力整備を行うことも重要になってくる。新井体制3年目に向けて、どこまで腰を入れるか。歴史的大失速から巻き返すために、球団の本気度が問われてくる」
今季は新加入のマット・レイノルズ、ジェイク・シャイナーが稼働せずに途中退団と戦力にならなかった。助っ人外国人の実力は未知数だ。そこで注目されるのが、FA市場への参戦だ。阪神の大山悠輔、DeNAの佐野恵太がFA権を取得している。もし、今オフに権利を行使した場合は参戦の価値が十分にある。大山は阪神の四番を務め、昨年は最高出塁率(.403)のタイトルを獲得。38年ぶりの日本一に大きく貢献した。現役時代に同じ右の強打者として通算319本塁打をマークした新井監督の打撃を参考にしたことで知られる。複数球団の争奪戦になる可能性が考えられるが、広島移籍が実現すれば大きなプラスアルファをもたらす。
22年途中には秋山を獲得
広島の広陵高出身の佐野もミート能力と長打力を併せ持つ強打者だ。首位打者、最多安打のタイトルを獲得し、シーズン20本塁打以上を2度マークしている。一塁と左翼はレギュラーが固定できていないポジションで、補強ポイントに当てはまる。DeNAの前主将でリーダーシップもある。若手の手本になる人材だ。
広島は西川龍馬、丸佳浩、新井監督、金本知憲、江藤智、黒田博樹と主力選手たちが日米の他球団にFAで移籍した歴史がある。一方で育成に主眼を置くチーム方針のため、FAで獲得した他球団の選手は過去に一人もいない。
ただ、外部補強に消極的なわけではない。メジャー挑戦した秋山翔吾が22年のシーズン途中に日本球界復帰する際、西武とソフトバンクとの争奪戦を制して獲得に成功している。18年以来7年ぶりのV奪回へ。今オフは球団史上初となる「FA選手の獲得」に動くか注目される。(写真=BBM)
(※引用元 週刊ベースボール)