1年目は2試合登板のみ
今オフ、広島の九里亜蓮がオリックスにFA移籍。広島にとって先発ローテーションで長年稼働してきた柱を失うのは大きな痛手だ。V奪回に向けて若手の台頭がカギを握る中、ブレークが期待されるのが今季プロ2年目を迎える常廣羽也斗だ。
青学大4年春に33季ぶりのリーグ優勝に貢献すると、日本大学選手権でMVPと最優秀投手を受賞。最速155キロ右腕はプロのスカウトの評価が急上昇した。ドラフトでは広島と楽天が1位指名で競合。新井貴浩監督が当たりクジを引き当てると、「よっしゃ!」と大きな声で叫ぶとともにド派手なガッツポーズで喜びをあらわにした。12球団で広島が最も早く1位指名を公表していただけに、本格派右腕の期待は大きかった。
だが、前半戦はプロの厳しさを味わった。学業の影響で調整が出遅れ、春季キャンプを終えて三軍に合流。土台から鍛え直して5月にファームに昇格したが、7月まではウエスタン・リーグで7試合登板して防御率6.44。変化球の精度にばらつきがありカウントを苦しくして直球を痛打された。だが、プロ入り後に習得に乗り出していたカットボールの精度が上がると、安定感が見違えるように変わった。
8月以降は4試合登板で防御率1.61。9月15日のDeNA戦(マツダ広島)に先発で一軍デビューすると5回7安打1失点としのぎ、プロ初勝利をマークした。毎回得点圏に走者を背負ったが、DeNAの強力打線を最少失点で切り抜けたことは大きな自信になっただろう。同月29日の中日戦(マツダ広島)でも6回8安打3失点と白星はつかなかったが、試合を作った。
2試合登板で1勝0敗、防御率2.45。入団時に即戦力の触れこみから考えると物足りなく感じる。同じ東都大学リーグでしのぎを削った武内夏暉(西武)は21試合登板で10勝6敗、防御率2.17をマークして新人王を受賞している。だが、プロ野球人生は始まったばかりだ。1年目の経験を今季以降の糧にできるか。
常広は来季に新人王の資格を持っている。近年のセ・リーグの受賞者を見ると、23年は村上頌樹(阪神)がプロ3年目、昨年は船迫大雅(巨人)がプロ2年目で受賞している。
大卒2年目で新人王を受賞し、球界を代表する強打者として活躍した選手もいる。今季限りで現役引退した元ヤクルトの青木宣親だ。早大からドラフト4位で入団した青木は新人の2004年に10試合出場のみで打率.200、0本塁打に終わったが、翌05年に開幕から中堅の定位置をつかんで大ブレークした。全144試合出場し、打率.344、3本塁打、28打点、29盗塁で新人王、首位打者を獲得。202安打で最多安打に輝いた。
球史に残る選手となった青木
野球評論家の伊原春樹氏は週刊ベースボールのコラムで、青木についてこう語っていた。
「2007年から10年まで巨人ヘッドコーチを務めたが、その4年間で対戦。青木は05年にシーズン202安打を放ち、まさに脂の乗り切っている時期だった。07年には打率.346、10年には209安打で打率.358をマークして首位打者を獲得。とにかく、打ち出の小槌のように安打が飛び出していた。身長175cmとそれほど大きくない体を小さくして構える。そして、体を揺らしながらタイミングを取る。どちらかというと、初球からは打ってこない。自分が狙っている球をじっくりと待ち、それを狙いすましてヒットゾーンへはじき返していく。さらに打撃が嫌らしくなるのは2ストライクに追い込まれてからだ。厳しいコースの球を打ちにいきながらファウルにする。そうやって粘っているうちに投手がコントロールミスした甘い球を、ものの見事にヒットにするのだ。それもコースによってセンター前、レフト前、ライト前と広角に打ち返していく。ミーティングでは投手に『絶対に根負けしないように』と話していたが、なかなかそれもうまくはいかなかった」
「同じヒットメーカーと言えばイチロー(元オリックスほか)もいたが、彼からはそんなに嫌らしさは感じなかった。どちらかというと、イチローはクールに、サラッとプレーするタイプ。青木からは泥臭さも感じられたため、嫌らしさがにじみ出ていたのだろう」
青木のプロ1年目を終えた時点では、球史に残る選手になることを想像し難かったが、天性の打撃センス、俊足に加えて努力で道を切り拓いた。常広も伸びしろが十分にある。大卒2年目の今季は新人王を獲得する活躍を期待したい。(写真=BBM)
(※引用元 週刊ベースボール)