日本プロ野球(NPB)と、米メジャーリーグ(MLB)には、いろいろな違いがあるが、「本拠地球場以外での公式戦」についても、日米では大きく異なる。
MLBでは、公式戦もポストシーズンも、原則としてすべて「本拠地」で行う。30球団の本拠地球場は、すべてMLB球団の専用球場だ(今季、アスレチックスとレイズは「臨時の本拠地」を使用するが)。
例外的に、MLB機構の「世界戦略」に則って、海外での公式戦が行われることはある。今、日本中の注目を集めている、東京ドームでの「ロサンゼルス・ドジャース対シカゴ・カブス」の開幕2試合がそうだ。
昨年は韓国、ソウル近郊の高尺スカイドームで「ロサンゼルス・ドジャース対サンディエゴ・パドレス」の開幕2試合が行われたが、こうした本拠地球場以外での公式戦は極めて例外的だ。
MLBの30球団は、162試合のペナントレースのうち81試合を本拠地球場で行い、残り81試合を対戦相手のチームの本拠地球場で行っている。
これに対しNPBでは、草創期に日本プロ野球に「フランチャイズ」という考え方がなかったこともあり、今も公式戦を地方球場で行っている。
本拠地以外の23球場で公式戦
【2025年、全12球団の主催試合の開催予定球場】
〈セントラル・リーグ〉
・読売ジャイアンツ 主催71試合
62試合 東京ドーム(東京都)
2試合 京セラドーム大阪(大阪市)
1試合 長良川球場(岐阜県岐阜市)
1試合 石川県立野球場(石川県金沢市)
1試合 ヤマリョースタジアム山形(山形県山形市)
1試合 富山市民球場アルペンスタジアム(富山県富山市)
1試合 福島県営あづま球場(福島県福島市)
2試合 未定
・阪神タイガース 主催71試合
62試合 阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)
8試合 京セラドーム大阪(大阪市)
1試合 倉敷マスカットスタジアム(岡山県倉敷市)
・横浜DeNAベイスターズ 主催72試合
71試合 横浜スタジアム(横浜市)
1試合 HARD OFF ECOスタジアム新潟(新潟市)
・広島東洋カープ 主催72試合
72試合 MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島(広島市)
・東京ヤクルトスワローズ 主催72試合
70試合 明治神宮野球場 70試合(東京都)
1試合 坊っちゃんスタジアム(愛媛県松山市)
1試合 静岡県草薙総合運動場硬式野球場(静岡市)
・中日ドラゴンズ 主催72試合
70試合 バンテリンドーム ナゴヤ(名古屋市)
1試合 長良川球場(岐阜県岐阜市)
1試合 豊橋市民球場(愛知県豊橋市)
〈パシフィック・リーグ〉
・福岡ソフトバンクホークス 主催71試合
66試合 みずほPayPayドーム福岡(福岡市)
1試合 京セラドーム大阪(大阪市)
1試合 リブワーク藤崎台球場(熊本市)
1試合 平和リース球場(鹿児島県鹿児島市)
1試合 東京ドーム(東京都)
1試合 北九州市民球場(北九州市)
・北海道日本ハムファイターズ 主催71試合
71試合 エスコンフィールドHOKKAIDO(北海道北広島市)
・千葉ロッテマリーンズ 主催72試合
71試合 ZOZOマリンスタジアム(千葉市)
1試合 東京ドーム(東京都)
・東北楽天ゴールデンイーグルス 主催72試合
66試合 楽天モバイルパーク宮城(仙台市)
1試合 東京ドーム(東京都)
1試合 ヨーク開成山スタジアム(福島県郡山市)
1試合 はるか夢球場(青森県弘前市)
1試合 きらやかスタジアム(山形県山形市)
1試合 こまちスタジアム(秋田県秋田市)
1試合 きたぎんボールパーク(岩手県盛岡市)
・オリックス・バファローズ 主催72試合
66試合 京セラドーム大阪(大阪市)
6試合 ほっともっとフィールド神戸(神戸市)
・埼玉西武ライオンズ 主催72試合
66試合 ベルーナドーム(埼玉県所沢市)
2試合 埼玉県営大宮公園野球場(さいたま市)
2試合 沖縄セルラースタジアム那覇(沖縄県那覇市)
1試合 東京ドーム(東京都)
1試合 上毛新聞敷島球場(群馬県前橋市)
12球団の本拠地球場だけでなく、23球場でプロ野球の公式戦が行われている。
チームごとの戦略がにじむ地方開催
広島と日本ハムは本拠地球場以外で公式戦を行っていないが、巨人は東京ドーム以外に6つの球場で公式戦を行っている。巨人は民放地上波でナイターの全国放送を行っていた時期が長く「全国区」の人気がある球団だった。それもあって、今も地方開催が多い。
またソフトバンクがみずほPayPayドーム福岡以外に、九州の3つの球場で公式戦を行っているのは「九州全体をマーケットにする」という戦略によるものだろう。
同様に、楽天も東北地方をマーケットと認識しているので、東北5県で公式戦を行っている。
日本ハムは、本拠地がエスコンフィールドになる前年の2022年は、本拠地札幌ドームで64試合を行ったが、釧路、旭川、帯広でも各1試合、静岡で2試合、東京ドームで3試合を行っている。道内で3試合をしているのは、日本ハムが「道民球団」だからだが、それとともに札幌ドームの球場使用料は770万円と高額で、この経費を削減する意味合いもあったと思われる。
エスコンフィールドHOKKAIDOは、日本ハムグループの所有で球場使用料は実質的にかからないから、主催ゲームを一本化したと考えられる。ただ「道民球団」という立ち位置は変わらないので、日本ハムはエスコンフィールドで「○○市民デー」と銘打って道内各市町村とのタイアップイベントを行っている。
本拠地球場以外では「主催」は地元プロモーター
本拠地球場と、他の球場では、同じ主催ゲームでも、興行形態が違う。
本拠地球場では、球団が「主催者」であり、観客動員やPRなどもすべて球団が行っている。入場料収入、物販、スポンサー収入、放映権収入などもすべて球団の収益となる。
一方、他球場で主催試合をするときは、多くの場合、その地域のプロモーターが実質的な主催者となり、観客動員、PRなどもすべて担当している。プロモーターは、球団から一定額で「試合興行」を買い取る形となる。大相撲の「地方巡業」と同じ形だ。
入場料収入、物販収入などは、プロモーター側の収益となるが、こうした興行形態では、球団は観客動員などにかかわらず、一定の興行収益を受け取ることができる。収益が計算できるのが大きなメリットだ。
なお、オリックスは、ほっともっとフィールド神戸では、球団が興行主体となって試合を行っている。同様に、西武も埼玉県営大宮公園球場の試合は、球団が興行主体だ。この2球場は「準本拠地」という扱いだ。
他球団のフランチャイズ球場での主催試合ができる仕組み
また、オリックスの本拠地球場である京セラドーム大阪では、春、夏の高校野球で阪神甲子園球場が使えない期間、阪神タイガースが主催試合を行っている。この場合も阪神球団が興行主体であり、準本拠地的な扱いと言えよう。
前述のとおり、NPBでは当初、「フランチャイズ」という概念がなかったが、1952年にプロ野球地域保護権が決められた。
現在の各球団の地域保護権は以下の通りだ。
・北海道日本ハムファイターズ 北海道
・東北楽天ゴールデンイーグルス 宮城県
・読売ジャイアンツ、東京ヤクルトスワローズ 東京都
・横浜DeNAベイスターズ 神奈川県
・埼玉西武ライオンズ 埼玉県
・中日ドラゴンズ 愛知県
・阪神タイガース 兵庫県
・オリックス・バファローズ 大阪府
・広島東洋カープ 広島県
・福岡ソフトバンクホークス 福岡県
タイガースは1951年まで「大阪タイガース」を名乗っていたが、52年にフランチャイズが阪神甲子園球場のある兵庫県になって以降「阪神タイガース」となった。
他球団のフランチャイズで主催試合を行う際には、主催球団はフランチャイズ球団に事前に承諾を得ることになっている。
近年、巨人の本拠地球場の東京ドーム、オリックスの京セラドーム大阪が、他球団の主催試合を行うケースが多くみられるようになった。
関係者の話では、こうした興行形態は、球場側から球団に営業をかけて試合を誘致したのが最初の様だ。
ドーム球場側は、球場の稼働率を上げたいと言う思惑がある。
球団側は、地方球場での試合興行の「買取試合」に近い興行形態になるので、収益が計算できる。しかも2つのドーム球場ともにキャパが大きいので、大きな収益が見込まれる。
事実、東京ドーム、京セラドーム大阪での他球団の主催試合は、毎年多くの観客を動員している。
2024年の実績で言うと、
〈東京ドーム〉
・7/2 ソフトバンク 41,968人
・8/1 楽天 40,648人
〈京セラドーム大阪〉
・5/22 ソフトバンク 33,293人
・9/3 巨人 30,972人
・9/4 巨人 31,531人
5試合とも、ほぼ満員だ。
今季は東京ドームでソフトバンク、楽天、ロッテ、西武のパ4球団、京セラドーム大阪でソフトバンク、巨人(2試合)の計3試合の計7試合が組まれている。
地方ではプロ野球より地元のサッカーJ3チームの方が人気
一方で、地方球場でのプロ野球公式戦は、年々減少する傾向にある。
2025年の地方試合(準本拠地、ドーム球場での試合を除く)は24試合、公式戦全858試合のうち2.8%だったが、2015年は36試合、4.2%だった。
プロ野球興行は、どの地域でも屈指の人気イベントだったが、今では巨人戦でも球場が埋まらなくなっている。採算が厳しくなったので、地域のプロモーターが興行権を返上するケースも出ているようだ。
また、球団にしても、本拠地球場がほぼ満員になっている現在、収益が見込めるにしても、キャパが小さく、売り上げ自体が少ない地方球場で主催試合を行うメリットがなくなっている。グラウンド状況が良くなく、施設も古い地方球場での試合は選手に不評であり、できればやりたくない、という声もあるようだ。雨天中止のリスクもあるし、それならドーム球場でやる方がいい、という流れのようだ。
しかしながら、筆者はこの事態をプロ野球、日本野球の「危機」だと認識している。
地方球場で観客が集まらないのは、巨人戦を中心とした「地上波での野球中継」が消滅したことが大きい。今や、地方では、J3クラブや地域リーグのあるサッカーの方が野球よりも人気がある。地方では野球競技人口の減少も顕著だ。
一方で、今のプロ野球人気は12球団本拠地周辺の「リピーター顧客」によって成り立っている。そして、そうした“ヘビーユーザー”は高齢化が進んでいる。
今の収益だけを考えれば「12球団の本拠地」だけで商売する方が楽ではあろうが、野球の将来を考えるならば、NPB球団は身銭を切ってでも積極的な「地方試合」を推進すべきだ。
またその延長線上に「エクスパンション(リーグ拡張)」を考えるべき時が来ている。
(※引用元 JB PRESS)