プロ野球「チケット改革」の波は、市民球団にも及びつつある。広島カープの本拠地マツダスタジアムに「ダイナミックプライシング(DP)」導入を求める声が高まっているのだ。背景には来年FA権取得が見込まれている、坂倉将吾の存在があるようで…。
DPはヤクルトの本拠地である神宮球場で導入されている入場システムで、いわば「価格変動制チケット」のこと。その日の需要や人気、販売状況、対戦カード、天候、曜日などの要素によって、チケット価格がリアルタイムで変動する仕組みである。
平日や悪天候が予想される日などは安くチケットを購入できるが、逆に休日や人気カードなどでは、通常よりも高くなることがある。このゴールデンウイークは5月5日「こどもの日」の広島戦を例にとれば、ホーム、ビジター外野指定席はともに1万1500円になっている。
マツダスタジアムの「内野指定席A」は、今季も一律4200円。東京ドームの5800円か~6200円、甲子園4500円~、横浜3500円~などに比べ、広島だけが価格を動かしていない。広島のチケット需要は毎試合9割超あり、週末や巨人戦は発売即完売が常態化している。ピーク需要に平均500円を上乗せした場合、1試合約1500万円、年間では10億円超の増収を見込める計算になるが…。
この金額は、国内FA権を取得する坂倉を引き留めるための「原資」として十分だ。打てる正捕手という希少価値を考えれば、巨人・甲斐拓也を超える5年総額20億円前後が交渉ラインとされ、DP増収だけで大半を賄えることになる。
球団内では、来季にも外野席や三塁側内野Aの一部を対象に、上限5000円のDPを試験導入し、増収分を坂倉年俸プールに充てるプランが浮上しているという。
だが、障壁も大きい。「いつ買っても同じ値段」という公平感は市民球団カープのブランドであり、価格変動がファン離れを招く懸念がある。AI価格算出や在庫一元管理といったシステム投資には数億円の経費が必要で、転売抑止のために続けてきた抽選販売との整合性の見直しが迫られる。
ソフトバンクのケースを見れば、全席DP化で年間十数億円を上積みしたものの、価格高騰への不満を受けて、20%オフ対象試合を倍増している。先行事例は導入の手順とバランス感覚のヒントになるだろう。
坂倉は大瀬良大地、菊池涼介らとともに、チームの顔として打線と守備を支えるキーマンだ。流出すれば攻守の要を同時に失う致命傷となるだけに、フロントは「価格戦略を見直してでも、残留資金を確保する」覚悟を固めつつある。
チケットが他球場を下回る水準にとどまる今こそ、カープはブランドと経営を両立させる「適時打」を放てるかが問われている。ファンと球団が同じ方向を向けるか…そのシグナルは次のオフシーズンで明らかになるだろう。(ケン高田)
(※引用元 Asagei plus)