スケールの大きな打撃
このルーキーは、ただモノではない。広島のドラフト1位・佐々木泰だ。
5月28日の巨人戦(金沢)、3点差を追いかける9回二死の場面に代打で登場した。マウンドには難攻不落の守護神、ライデル・マルティネス。スライダー、チェンジアップと2球で追い込まれたが、5球目のストライクからボールになるスプリットをきっちり見極めた。続く6球目の外角低めに沈むチェンジアップを逆方向にはじき返すと、打球が右中間を転がる間に全力疾走。プロ初の三塁打をマークした。他球団のスコアラーが驚きを口にする。
「5球目のスプリットにバットが止まった時点で並の新人ではない。打ったチェンジアップも決して甘い球ではありません。直球を待ちながら、バットのヘッドを走らせて変化球にコンタクトできる技術がある。広角に長打が打てますし、スケールの大きい打撃スタイルが鈴木誠也と重なります」
目指すは「期待される選手」
青山学院大でチームメートだった西川史礁(ロッテ)、大卒で同期入団の宗山塁(楽天)、渡部聖弥(西武)が春先から一軍の舞台で活躍する中、佐々木はファームにいた。期する思いは強かっただろう。西川と昨年12月に週刊ベースボールの企画で対談した際、以下のように語っていた。
「自分も長打力というところを強みにやってきたので、プロでも同じように長打力を発揮したい。さらに、チャンスで打てる勝負強さというか、そういう場面で打席が回ってきたら期待されるようなバッターになりたい。打撃の確率も課題にしたいかな。2月の春季キャンプで一軍メンバーに入るためにも1月の自主トレが大事になってくると思うので、オフの期間は左肩のケアであったり、リハビリをしっかりとやって、自主トレに入りたい。2025年からはカープの選手になります。チャンスで回ってきたら『こいつなら打つだろう』と期待される選手を1年目から目指していきますので、よろしくお願いします」
開幕一軍切符を逃した原因は、想定外のアクシデントだった。3月上旬のオープン戦で左太もも裏の肉離れを発症して戦線離脱。リハビリから再スタートを切ることになったが、ここからはい上がる。ウエスタン・リーグで打率.565と猛アピールし、5月20日にプロ初の一軍昇格を果たした。「七番・三塁」でスタメン出場した22日のヤクルト戦(マツダ広島)で、2回に小川泰弘の初球のカーブを引きつけて振り抜き、プロ初安打となる右翼線二塁打。6回も中前打も放ってマルチ安打を記録した。
生粋の“野球小僧”だった鈴木
広島は新井貴浩監督、鈴木誠也(カブス)と右の長距離砲が四番を背負った系譜がある。新井監督は鈴木の野球に取り組む姿勢を高く評価していた。
「私がカープに帰ってきた2015年、誠也は前年の36試合から97試合と一軍での出場機会を増やしました。当時からすごいポテンシャルを持った選手で、『将来的に間違いなく彼が四番を打つんだろうな』とすぐに感じましたね。ただ、これほどまでにすさまじいスピードでレベルアップするとは! 想像をはるかに上回っていました。でもそれも今考えてみれば、必然だったのかなと思います。彼とは4年間一緒にプレーしましたが、練習に取り組む姿勢とか野球に対する考えとかを見ていたら、決して不思議なことではない。何より“野球が大好き”。もともと生まれ持った身体能力も素晴らしいのですが、努力する才能もある。自分が納得するまで練習する。とはいえ、誠也自身は、努力を努力と思っていないんじゃないかな。何たって生粋の“野球小僧”ですから」
鈴木は広島時代に首位打者を2度獲得し、史上3人目の6年連続打率3割、25本塁打をマーク。今季はカブスでナ・リーグトップの打点を記録している。ミート力と長打力を兼ね備えた打撃スタイルは佐々木の理想形と言えるだろう。将来は四番を担う逸材として期待される若手の成長株が、三塁の定位置を獲得するには打ち続けてアピールするしかない。昨年は得点力不足が課題だった広島はサンドロ・ファビアン、エレフリス・モンテロの加入で破壊力が一気に増した。佐々木もV奪回の使者になれるか。(写真=BBM)
(※引用元 週刊ベースボール)