ソフトバンクが22日、甲子園での阪神戦に3-1で勝利して6年ぶり9回目の交流戦優勝を果たした。怪我や不調で山川穂高(33)、近藤健介(31)、今宮健太(33)、ロベルト・オスナ(30)ら主力を欠く中で、柳町達(26)が交流戦首位打者を獲得するなど小久保裕紀監督(53)の起用に応えた代役らの活躍があり12勝5敗1分けで交流戦を制した。
だが、小久保監督の「秋にはセ・リーグ1位の阪神さんと戦えるように頑張りたい」という優勝インタビューがSNSやネットで物議を醸した。阪神以外のセの他球団ファンだけでなく、ソフトバンクや阪神ファンからも批判の声が飛び交う異常事態となった。
それは“失言”だったのか。
「秋にはセ・リーグ1位の阪神さんと戦えるように頑張りたいと思います」
甲子園での交流戦優勝インタビューで小久保監督が発したこの一言がSNSやネット上で物議を醸すことになった。
最終戦まで争っていた日ハムが6回の阪神の攻撃中に中日に1-4で敗れたためその時点でソフトバンクの優勝が決定。他力本番ではなくソフトバンクは3-1で阪神を振り切って気持ちよく6年ぶりに“頂点”に立った。甲子園では通常のヒーローインタビューではなく小久保監督の優勝インタビューが行われた。
まず小久保監督は「これだけの(阪神への)大声援の中で、ビジターでやって来て3連戦で取れた得点は5点。よく2勝できたなという印象です」と、2勝1敗で勝ち越した阪神3連戦を振り返り、こう続けた。
「3連戦の勝ち越しをずっと掲げながらやって来た。その結果が優勝まで届いたんじゃないですか。パの試合が再開しますのでそれに向けて良い弾みになるんじゃないかなと思います」
そして問題の発言が飛び出したのはこの次だった。
「改めて交流戦を振り返っていかがでしたか?」とふられた小久保監督はこう返した。
「我々の最終の3週目が、広島、阪神という非常に厳しい戦いだったんですけど…レギュラーシーズンに戻って我々はパ・リーグでは3位、4位をいったり来たりしていますので、しっかりと日本ハムを巻き上げ、優勝を目指して、秋にはセ・リーグ1位の阪神さんと戦えるように頑張りたいと思います」
甲子園に残っていたファンからは拍手と歓声が起きた。
今回の交流戦は、パのチームが6位までを占めるセパの格差が際立った大会となったが、阪神は、広島に次ぐ8位の位置を中日と並んでキープして、現在セの首位。同率2位の広島、横浜DeNAに3.5ゲーム差をつけている。だが、まだペナントレースの行方はどうなるかわからない。セの6球団と戦った印象として小久保監督は「阪神が優勝する」と読んだのかもしれないが、甲子園のファンに向けてのリップサービスは、当然のように波紋を広げた。
まず阪神以外の球団のファンが「なんで阪神と戦うことになってるの?失礼にも程がある。発言の撤回と謝罪すべきでしょ」と声をあげた。
「ヤクルトはほぼないだろうけど、それ以外のチームはまだどこが日本シリーズに来るか分かりませんよ」「日本シリーズに行くのはヨコハマ」「優勝は阪神ではないと思います。巨人ファンなので巨人の優勝を信じています」などの意見が飛び交った。
また阪神ファンからは、当然、「小久保監督、良いことをおっしゃる」などその発言に感謝の声もあったが、一方で小久保監督の呼びかけを拒否する声も少なくなかった。
「いいえ。エスコンで日ハム戦をしたいです」「結構です。こちらは新庄とやりたいんで」「嫌だ!日ハムさんと日本シリーズを戦いたい」。虎ファンの多くはソフトバンクではなく、阪神OBである新庄監督が率いる日ハムとの日本シリーズを望んでいるようなのだ。
そしてソフトバンクファンからも小久保監督の発言そのものへの批判の意見があった。
「また去年の日本シリーズに続いてフラグになりそう」「この監督はいつも一言多い。去年の日本シリーズから何も反省していない」
フラグとは“若者用語”で「伏線」や「前触れ」などを意味する言葉 だ。
ソフトバンクファンの一部が、今回の発言を“失言”として重ねるのが、昨年の日本シリーズでの監督インタビューである。敵地横浜で2連勝した小久保監督は「3つ負けられるのが日本シリーズなんで」と発言した。その言葉通りに本拠地に戻って悪夢の3連敗。結局、横浜に舞台が移り、2勝4敗で横浜DeNAの“下剋上”日本一を許してしまった。ソフトバンクファンにしてみれば、その“トラウマ”が今回の発言に重なったのだろう。
現在、ソフトバンクは首位の日ハムに3ゲーム差、2位のオリックスに0.5差の3位である。ソフトバンクの野球に詳しい球団OBで阪神、ヤクルトでもプレーした評論家の池田親興氏は「阪神は現在セの1位で、阪神ファンで甲子園は満員だった。そういう状況の中での阪神と阪神ファンへのリスペクトを込めてのリップサービスでしょう。考えればわかること。あげ足取り的な意見はいかがなものか」と小久保監督の発言が波紋を呼んでいることへ疑問を投げかけた。
そして「主力が欠ける中で、球団と現場が一体となって優勝をしたことは評価しなければならない。球団が整えてきた戦力をベンチワークで使いこなした。代役を抜擢した先発オーダー、投手起用、ゲームの中での采配のすべてにおいて正解を選択した」と、交流戦優勝を評価した。
柳田を怪我で欠き、交流戦に入って不調の4番山川、ストッパー、オスナが2軍落ち、近藤、今宮が怪我で離脱した。その状況の中で抜擢された慶大卒6年目の柳町が交流戦18試合で打率.397の数字を残して首位打者。8打点で得点圏打率.429と勝負強く、出塁率.474も交流戦トップだった。「レフト・3番」に定着し、小久保監督は「主力の選手が抜ける中、本当に自分の地位を確立した。外せない選手からチームを引っ張る選手になったという印象」と称賛した。
その柳町覚醒の理由を池田氏は「コンタクト率が上がったことに加えて、ボールを選べるようになった。それが出塁率に反映されている。タイミング、そして読みという部分でひと皮むけた」と分析している。
近藤が離脱後に18日の広島戦から4番を任された中村も、この日も、8回にダメ押しのタイムリー三塁打を左中間に放つなど、勝負強さを発揮。延長戦にもつれこんだ20日の第1戦で代打で決勝点を叩きだした石塚も交流戦で存在感を示した一人だ。
リチャードとのトレードで獲得した巨人の秋広も13日からの横浜DeNAとの3連戦に3試合連続で打点をあげて3連勝に貢献。3日連続でお立ち台にあがった。
「秋広はソフトバンクで変わろうとしている。バットコントロールだけではく、強く振るという彼が本来持つ能力を見直しつつある。まだノビシロが感じさせる」と池田氏。
また5回2安打1失点(自責0)で、先発として今季初勝利を手にした田中晴も交流戦の苦しい中でうまくやりくりをしたベンチワークの象徴だった。
「田中は当初は先発の構想から入り、中継ぎに移り、トレードで左腕の大江を獲得したこともあり、再び先発に戻って結果を出した。モイネロ、有原、大関、上沢らの先発がしっかりとゲームを作れるようになったのも交流戦での好材料」
池田氏が指摘する通り、交流戦での防御率2.20は阪神の1.99に次ぐ12球団で2位の数字。投手力が整備されてきたことも見逃せない。
SNSでは「そもそも阪神との日本シリーズの対戦を口にする前に日ハム、オリックスに勝てるの?」という声もあった。この交流戦の勢いをリーグ戦に生かすことができるのか。
池田氏はこんな意見だ。
「可能性はあるが楽ではない。打撃練習を再開している柳田や、リーグ戦の再開時には出場予定だという近藤らの主力がどのタイミングでどんな形で戻ってこれるかがポイントでしょう。山川、オスナらが2軍でどう調子を上げてくるかも重要な部分。現状で言えばギリギリの戦いが続くと思う」
27日に再開するリーグ戦は敵地でのロッテ戦からスタートする。
(※引用元 RONSPO)