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マツダスタジアムで感じる『一体感』、そのお供に必要な「目」とは?

2018年8月22日

マツダスタジアムで感じる『一体感』、そのお供に必要な「目」とは?

あれは確か、2年前の春だったと思う。

広島東洋カープの本拠地マツダスタジアムで、新井貴浩の取材をした。インタビュー前に一塁側のスタンドで撮影をすることになったのだが、その時、新井が巨体を客席に収めながら、そこからの景色に驚き、感動していたのをよく覚えている。

「普段、ここからグラウンドを見ることはないけえ。へえー……、こんな風に見えてるんやなあ」

新井はしばらくそうやって、ファンの視点になってグラウンドを見つめていた。

記者としてプロ野球のゲーム取材をしていると、試合前にはグラウンドに入れるし、試合中には記者席やスタンドから眺めることができる。両方の視点から見てみて言えることは、マツダスタジアムはグラウンドの選手とスタンドのファンがお互いに「近い」と感じられる球場だということだ。

スタンドの傾斜がフラットなことも影響しているだろうし、寝ても冷めてもカープ、我らの市民球団という人々の熱さのせいもあるだろう。今年も開幕前に発売された年間シートはあっという間に売り切れたという。

新井貴浩が一生忘れられない景色

グラウンドとスタンドが心でつながっている。新井もそういう感覚がよくわかるという。

「試合が終わって帰ったあと、録画しておいた試合を見ると、俺が打席に立っている時、手を合わせて、祈ってくれている人がいる。だから苦しい時なんかは、そういう人の顔を思い浮かべて、打席に立つことがあるよ」

そんな新井が一生、忘れられない景色として胸に焼き付けている打席がある。

2015年3月27日、開幕戦。その年、阪神タイガースから、古巣のカープへと戻って来た新井にとっては本拠地マツダスタジアムで迎える初めての公式戦だった。

7回、代打で復帰後の初打席がめぐってきた。新井はベンチを出る前から、ある覚悟を決めていたという。

「罵声を浴びても仕方ないと思っていた。どのツラ下げて帰ってきたんだ、と。

でも、俺はこのチームが好きだから戻って来た。何を言われても仕方ないし、何を言われてもやろうと思っていた」

「ボールなんて見えてないから」

新井は2007年に9年間プレーしたカープを去った。師として慕っていた金本知憲(現阪神タイガース監督)が前の年にタイガースへと移籍していたこと。万年Bクラスのチームへの思いと、自分の成長について葛藤していたこと。様々な思いに引き裂かれながら、涙ながらに広島を去った。

《辛いです。カープが好きだから》という言葉を残して。

数年後、そんな新井が阪神を自由契約となった時に、手を差し伸べてくれたのがカープだった。事実、自分でも「どのツラ下げて帰れるんだ」と思っていた。だからあの時、新井は大ブーイングを浴びるつもりで打席に向かったのだ。

「そうしたら、スタンドから『ウワアッー!』っていう歓声が聞こえて……。その瞬間、頭が真っ白になった。打てるわけない。ボールなんて見えてないから。あんなの初めて……。あの打席は生涯、忘れることができない」

そこからカープは2年連続で優勝を果たし、今シーズンも首位を独走中だ。新井とカープファンの幸せな関係は続いている。

その涙を目に焼きつけられた人がいるなら

新井にインタビューした日、マツダスタジアムでの試合を見た。途中、記者席を出て、スタンドを歩いてみた。ナイター照明の下に真っ赤なうねりがあった。そこから打席の新井を見ていた。背番号25と巨体のシルエットしか見えないが、何ともいい景色である。

ただ、その時、ふと思った。

新井はあの日、どんな顔をしていたのだろう。涙でボールが見えず、凡フライを打ち上げてしまった生涯最高の打席で、どんな涙を流していたのだろう。

もし、あの時、新井のその涙を目に焼きつけることができた人がいるなら、その人はずっとそれを胸にスタンドから声援を送ることができるのではないだろうか。

マツダスタジアムは一体感のある球場である。それでも、さらに選手の心の奥まで覗けるような「目」が欲しいと思うことがある。

そんな体験ができれば、ただでさえ幸せな心のつながりが、それこそ一生ものの景色になるだろうから。(鈴木忠平)

(※引用元 Number Web)

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