平成最後のセ・リーグペナントレースは、広島が2球団目の3連覇を成し遂げた。ただ、新たに迎えるシーズンを前に、広島は黄金期と呼べる時代に重なるように、転換期も迎えようとしている。
9月26日に27年ぶりに緒方孝市監督が広島で宙を舞った――それからちょうど3週間前、広島を「家族」と表現し、チームの精神的支柱として唯一無二の存在だった新井貴浩が現役引退を表明。そして11月には、攻守の要として3連覇に大きく貢献した丸佳浩がFAで巨人へ移籍することを発表した。
広島外国人最長の7年在籍のブラッド・エルドレッドを含め、これだけの主力野手が一気にチームを抜けるのだ。堅実経営を貫く地方球団の宿命かもしれないが、2019年は真価を問われる1年となりそうだ。
襲いかかるセ・リーグ5球団!
セ5球団は「ストップ・ザ・カープ」を合言葉に来季のチームづくりを始める。
巨人は広島から丸をFAで獲得しただけでなく、FAで西武・炭谷銀仁朗、オリックス・中島宏之やマリナーズ岩隈久志など次々にビッグネームを獲得し第3次原政権下で改革を行っている。
矢野燿大新監督を迎えた阪神も、オリックス・西勇輝、中日ガルシアを獲得。’18年2位のヤクルトに、攻守にバランスの整った戦力を持つDeNA。
与田剛新監督を迎えた中日も含め、5球団はカープ包囲網を敷いてくるだろう。
広島がさらに黄金期を築いていくためには、戦力の底上げは不可欠。新たな時代を切り開いていかなければいけない。
緒方監督「毎年チームの色は変わる」
3連覇した広島の顔は、タナキクマルに代表される平成元年度生まれの選手たちだった。投手には野村祐輔もいる。緒方監督もシーズン中に「今年のチームの中心は彼ら(世代)」と認めていた。
丸が抜けたとはいえ、菊池(涼介)も田中(広輔)も健在。安部友裕も野村もいる。’19年も彼らがチームの中心であることに変わりはない。
ただ、チーム変革のためにはいつまでも彼ら世代に頼ってもいられない。緒方監督は常に「毎年チームの色は変わる」と口にしてきた。変化を恐れないのではなく、変化を求めていた。
’19年はこれまで以上に大きく変化する1年になる。それでも指揮官はあくまでも冷静に言葉をつむいだ。
「主力級の選手が抜けたけど、それでもやる野球は変わらない。そこに新しい力が出てくる。
25年ぶりに優勝した時もマエケン(前田健太)という絶対的なエースが抜けて勝ち取った、連覇にしても黒田(博樹)という精神的な大きな柱がいなくなった後だった。
そういった意味でもチームとして戦力はダウンするかもしれないけど、ダウンしたところから、あとはプラスの上積みしかない」
これまでけん引してきた平成元年世代に続く、次の世代の台頭がチーム力をグッと上げる。
「僕らがやらないといけない」。そう自覚を胸に刻むのは、若き4番鈴木誠也。19年から背番号1を背負い、球団の期待は大きい。
“切り札”から“主力”へ
「ポスト丸」と期待されるのも、鈴木と同じ’94年生まれの西川龍馬だ。
打撃技術はチーム屈指で侍ジャパン選出の実績を持つ。三塁守備の課題を露呈したことで’18年終盤は出場機会を減らしたものの、丸が抜けた外野の一角を狙い、秋季キャンプから本格参戦した。
西川にとって、’19年は“切り札”から、“主力”へとステップを上がる勝負の1年となりそうだ。
投手陣の立て直しに重要な2人とは?
主力が抜けた打線ばかりではなく、’18年に防御率4点台だった投手陣の立て直しも、広島が抱える問題である。
二軍で4年、若手投手育成に尽力してきた佐々岡真司コーチの一軍登用からも球団の思いは感じる。チームは投打が補い合うもの。’18年までの3連覇は打線がチームをけん引してきたが、’19年からは投手力がポイントとなりそうだ。
そういった意味でも、投手もまた、’94年度生まれの世代をキーマンに挙げたい。
ともに’18年は一軍登板ゼロに終わった矢崎(加藤)拓也と床田寛樹の2人だ。
矢崎、床田の復活に至る道
矢崎は課題と言われた制球面の改善が見られ、秋季キャンプでアピールに成功した。
「やるべき方向性が見えた」
’16年のドラフト1位の逸材であり、もともと球に力はあった。入団時からの悩んでいるような表情が明るくなったことが、来季に期待を抱かせる何よりの好材料に感じられる。
矢崎と同期の床田は入団1年目の’17年に開幕ローテ入りするも、左ひじ痛で離脱。同年7月に左肘関節内側側副靱帯再建手術と尺骨神経剥離手術を受け、長期離脱を余儀なくされた。
長く苦しいリハビリから解放された左腕は’18年の後半戦に実戦復帰。持ち味の制球力と球の出どころが見えづらい投球術は健在。復帰即好結果を残したものの、再発のリスク回避のため早期昇格は見送られた。
復帰後見せた投球だけでなく、地道なリハビリで見違えるように太くなった腰回りや太腿もまた、たくましさが増したように感じさせる。
鈴木誠也世代のさらなる躍進を願う!
広島がまだ黄金期にあるのは、これまでけん引してきた平成元年度世代が健在ということにある。彼らは’19年に30歳を迎えようとしており、野球選手として脂が乗りきっている時期なのだ。
若いときから試合に出続けてきた経験と、勝利の味も知る。
選手会長の會澤翼を含めた経験豊かな中堅選手の存在が、新しい世代が台頭しやすい環境を作っている。
黄金期の間に、スムーズに世代交代をしてしまうことで、この黄金期はまだまだ続いていく――鈴木を中心とした’94年生まれの新世代が広島の’19年、そして広島のさらなる未来を担っている。(前原淳)
(※引用元 Number Web)