12日、朝早い便で宮崎へ向かう。今日から5日間、プロ野球のキャンプを回る。行くと必ず、「どうしたんですか……?」と訊かれる。「アマチュア専門」と思われているフシがある。そんなことは決してない。私の野球はオールラウンド。春のキャンプ巡りは、そのための「勉強」である。
同じ飛行機の便に、どこかの大学のサッカー部だろうか、お揃いのジャージの青年たちと乗り合わせた。
そうか、2月は「キャンプ」の季節なんだ……。
暖かいところへ行って、ひととき“合宿”を張るのは、プロ野球だけじゃない。大学、社会人の運動部が冬の寒さを脱し、伸びやかに体を躍動させられる場所を求めて、西に南に向かう。
そういえば、スプリングキャンプを終えたプロ野球チームと入れ替わるように、下旬になると、同じ球場に大学、社会人チームがキャンプにやってくる。
読売ジャイアンツの「沖縄セルラースタジアム那覇」には社会人のホンダ(埼玉)が、楽天の「久米島野球場」にはホンダ鈴鹿が入り、ヤクルトの「浦添市民球場」には早稲田大学がやって来て、沖縄は3月になってもキャンプ王国が続く。
広島カープのファームが使っていた「東光寺球場」にはJFE東日本が、ヤクルト・ファームの「西都原運動公園野球場」には東邦ガスがやって来る。
2019年の“球音”。西の空から響き始めている。
「カープはいつまででも練習しよるけぇねぇ」
カープが強くなったから、キャンプ地の日南を訪れる人が急に増えた。ファンも増えたのだが、報道陣もぐんと増えたので、天福球場の前の駐車場だけではぜんぜん足りなくなって、小高い丘をひとつ越えた「油津漁港」に特設駐車場を設けた。
球場へは、そこからシャトルバスが往復している。
ファンはご馳走を目の前に“おあずけ”を食らっているようで、車内にはおのずとイライラした雰囲気が漂う……かと思うと、意外とそうでもない。
「ここまで来とるんじゃけえ、ここであわててもつまらんわのぉ」
「ほうじゃ、カープはいつまででも練習しよるけぇねぇ」
そんな掛け合いに笑い声すら起こって、ファンの胸の内にまで「王者の余裕」が宿り始めているようだった。
アドゥワ誠が身長以上に雄大に見える
ブルペンに、カープの剛腕、快腕がずらりと居並ぶ。
野村祐輔、岡田明丈、九里亜蓮に、期待の若手・藤井皓哉、山口翔。その真ん中に、頭1つ半抜けて高いカープレッドの帽子が、ご存じ昨季の中継ぎエース・アドゥワ誠だ。
長い手足、全身のしなやかな連動……豪快な腕の振りなのに強く振ろうとし過ぎない。気分よさそうに振り下ろして、長い指が縫い目にしっかりかかったストレートが低めに構えたミットの“そこ”にきまる。
アドゥワの目がいくのは、手元のボールと捕手が構えるミットだけ。左右に先輩投手何人もしたがえて、いちばん左はじで無我夢中で腕を振る山口とはたった1年しか違わないのに、この落ち着きはいったいなんだ。
53試合、試合終盤の緊迫の67イニングを投げて6勝を挙げ防御率3.74。
修羅場を切り抜けてきた記憶が、1メートル96をさらに雄大に見せる。
はたちの貫禄。 経験が人を作る。
(※引用元 Number Web)