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退任した石井打撃コーチが明かす、東出&迎コーチとの役割分担

2017年11月11日

退任した石井打撃コーチが明かす、東出&迎コーチとの役割分担

指導者として、選手に対して、いかに意識を持たせるか――。

今シーズン限りで退任した広島の打撃コーチ・石井琢朗は、意識という言葉をよく使い、重要視する。コーチの仕事といえば技術指導が主となるところ、練習では技術よりも意識を変えることが第一と考えてきた。試合での「7割の失敗を生かす攻撃」にしても、後ろにつなごうとする意識の問題。石井にその真意を聞いた。

「僕は『はじめに意識ありき』と思っています。最初から形があるんじゃなくて、意識のあるところにしっかりした形はできる、という考え方。失敗も成功もそうなんですけど、意識を持って取り組んだことを積み重ねてきて、できたものが形だと思うんですよ。で、その取り組みを手伝うのが僕らの仕事じゃないかと」

石井には「打撃とは形がないもの。正解はない」という持論がある。ゆえに選手に対しては、打撃の形自体の良し悪しではなく、「どういう意識を持つとその形に近づけるのか」を伝えてきたという。

こうした考え方は、現役時代の石井が接したコーチの指導に通じるところはあるのだろうか。1989年に栃木・足利工高からドラフト外で横浜大洋(現・DeNA)に入団し、4年目に投手から野手に転向した石井だけに、プロで教わったことは少なくなかったと思われる。

「転向した当初、打撃はもちろん走塁、守備も全部、一から教えていただいたので、コーチの影響力はすごくありました。打撃なら高木由一さん、守備なら岩井隆之さん、走塁なら弘田澄男さん。特に高木さんは最初からずっと一緒で、しばらくは手取り足取りで……。それがレギュラーになると、コーチからはいろいろ言われなくなりました。だから、そのあたり僕もコーチになって、レギュラーとして出ている選手には静観するというか、ちょっと一歩引いたところから見て、気になるところだけ、ひと言、ふた言、言うぐらい。あまり技術的なことは言わないようにしてきたんですよ」

あえて技術的なことを言うのは、一軍での出場が少ない若い選手。たとえば、鈴木誠也は高校出5年目の23歳と若いが、すでにレギュラーゆえに細かくは言わない。

加えて、そうした方針は、広島独自のコーチングスタッフによるところも大きかった。石井のほかに東出輝裕、迎祐一郎と3名の打撃コーチを一軍に置く球団は珍しく、2017年のプロ野球では唯一。細かな技術指導のみならず、選手のストレスの捌け口については、東出と迎の担当だという。47歳の石井に対して東出37歳、迎36歳と、年齢的に選手に近いこともある。

ただ、石井自身、守備走塁担当からの配置転換。現役時代の晩年に兼任二軍野手コーチ補佐だった東出にしても、一軍専任は初めてだ。迎は一軍打撃コーチだった新井宏昌(2015年限りで退団)の補佐役ではあったが、やはり一軍コーチの経験はなかった。それだけに、3人体制当初は役割分担が明確ではなく、指導法に試行錯誤もあり、全員が仕事に慣れるまでには時間がかかった。

「去年は3人でなんやかんや、どうしようかっていうことがよくありました。それが今年は2人とも、僕が言いたいこと、チームの攻撃としてやろうとしていることをある程度、把握しています。言う前に全部、終わっている感じなんですね。逆に僕は今年、なにもやってなかったです(笑)」

そんな冗談も飛び出すほどに、2年目の3人体制はうまく回転してきたのだろう。なにか、チーム内に”打撃コーチ部”という名称の部署があって、そのなかで上司の石井が、若い2人の部下と一緒に仕事に取り組んでいるようなイメージも湧く。

「上司っていうか、本当に僕がやることないぐらい、2人がよくやってくれました。だから、やっぱり一歩引いて、2人の仕事を全体的に見ていた感じ。それと、技術的なことに関して、去年、優勝できて今年につながったのは、一昨年まで指導していたコーチの人たちのおかげと思っています。そこに僕らがプラスしたのが『チームの攻撃としてどう点を取るか』なので。そういう意味では、僕の指導はコーチングじゃなくて、ティーチングになってしまっていたんでしょうね。でも、そこはそこで、うまく使い分けられればいいかなと思っています」

コーチングとティーチング。どちらも人材育成法という点では同じだが、違うのは、指導する人と指導される人との関係性だ。

石井が言うように、コーチによる指導がすべてコーチングになるとは限らない。

コーチには”競技・演技等の指導員”のみならず、”馬車”“客車”という意味がある。すなわち、人や物を目的地まで運んでいく。スポーツ競技に置き換えれば、選手が立てた目標まで一緒に導いていくこと。これを原点とするコーチングは、指導する人が相手に問いかけて聞くことが出発点となる。目標達成に向け、対話を通して相手が自ら考え、気づき、答えを導き出せるように促(うなが)す。

一方のティーチングは、学校教育で先生が生徒に教えるのと同じ。指導する人が持っている技術、知識、経験などを相手に伝えることで、基本的に対話は必要とされず、また成立しにくい。

その点、石井が「チームの攻撃としてどう点を取るか」を選手全体に伝えるには、ティーチングが適していたと言える。実際、伝えられた後に「学生のときの授業みたいな感じだった」と振り返る選手もいたそうだ。

しかし石井本人としては、コーチに就任した当時から「なるべく選手目線で、一緒にものを考えることができれば」というスタンス。つまり「ティーチングよりもコーチング」だと思っていたからこそ、「ティーチングになってしまっていた」というネガティブな表現が出たのだろう。

それでも、すぐに打ち消して、うまく使い分けできればいいと考えられるあたり、指導者としての幅が感じられる。そしてこの幅は、対話が不可欠のコーチングを東出と迎に任せて生まれた部分もあったようだ。まさに「ストレスの捌け口」は対話の始まりなのだから。

こうした3人体制の効果に手応えを得ている石井自身、視野の広がりを感じているという。

「今の僕がいろいろと考えられるようになって、引き出しが増えたのも、横浜を出て広島に来て4年間、現役でやったからだと思います。あれが勉強の場だったのかなと。もちろん、20年間、育ててもらった横浜に対して愛着はありますし、在籍時はこのチームをどうにかしたいという気持ちもありました。でも、ずっと横浜にいてコーチになっていたら、自分自身のプライドが強すぎて『自分がこうやってきたんだから』って押しつけて、選手を型にはめるというか、それ以上の指導はできなかったのかなと。そういう意味では、僕のなかでは、横浜を出たことで成長できた、と思っています」

コーチが自身のプライドでそのやり方を押しつけ、型にはめる指導をしたら、そこに選手の意識が入り込む余地もない。過去にそうした指導で成功したケースもあるのだろうが、広島での4年間で引き出しが増えた石井は、「はじめに意識ありき」で結果を出し、最強打線を作り上げた。

「結果を出したのはチームであって、選手ですよ。僕は舞台でいえば演技指導みたいなことをやって、どう見せるかを考えただけ。実際には、選手が自分の能力だけじゃなく感性を生かして、うまくグラウンドで表現してくれた。だから、よく、誰々を育てたっていうコーチの話がありますけど、逆に僕が選手に育てられたと思っています。カープの選手たちと、2人の打撃コーチにはすごく感謝しています」(高橋安幸●文)

(※引用元 web Sportiva

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