3球団競合のドラ1左腕
苦労人ですね。彼を見るたび、いつも思います。ずいぶん苦労してきたんだなって……。顔ですよ、顔! 頭じゃありません。まあ、今では顔も呑気(のんき)そうに見えますけどね。
この出だしで今回の感謝人が誰か分かったら、かなりのカープ通だと思います。そう、カープの愛され広報・河内貴哉君の登場です。3連覇の時期は、ユニフォームこそ着ていませんでしたが、一緒に戦った頼もしい家族の一人です。
彼は私の5歳下。国学院久我山高時代、150キロの快速球で鳴らした左腕で、甲子園出場こそありませんでしたが、1999年秋のドラフト会議では1位指名で近鉄、中日、カープの3球団が競合し、当時の達川晃豊(光男)監督が交渉権を引き当てました。たばこの『ラッキーストライク』を掲げるパフォーマンスでも話題になったので、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。
私は、その前年、98年秋のドラフト6位でした。彼と違って、まったく騒がれることもなく、静か~に入団した男です。当時は1年目を終えたときで、一軍には出ていましたが、結果が出ず、とにかく必死だった記憶しかありません。
比べると、彼は光り輝いていました(頭じゃないですよ)。3球団競合のドラフト1位で入ってきて、背番号は、あの大野豊の24ですからね(大野さん、呼び捨てで失礼します。カープファン新井目線です!)。もう別次元です。もちろん、あとで思えば、その大きな期待が重圧にもなっていたとは思います。
話題性だけの選手じゃなかったですよ。キャンプでも、少し離れたところからでも分かるほど、フォームに躍動感があって、キレのある素晴らしい球を投げていました。1年目から一軍にも昇格し、5月30日には本拠地・広島市民球場の巨人戦で初勝利を挙げています。一軍定着はできませんでしたが、まずは順風満帆のスタートと言っていいでしょう。
ただ、2年目の途中くらいでしょうか。「あれ?」と思ったときがあります。フォームがずいぶん小さくなっているように見えたからです。
なかなか結果が出ず、制球難を指摘されることも多かった中で、必死に試行錯誤していたんでしょうね。性格が真面目(まじめ)なので、いろいろな方のアドバイスをまともに聞き過ぎたのもあったかもしれません。どれも間違っているわけではありませんが、それぞれ合う、合わないもあります。うまく取捨選択しなければいけないのですが、それが結構、難しいのです。
2004年には8勝を挙げています。私はバッターなのでピッチャーのメカニック的なことに詳しいわけではありませんので、あくまで感想ですが、打者から怖いのは、こじんまりとまとまった投手より、腕をしっかり振る1年目の河内のようなタイプです。その持ち味が少し薄れたかなと思っていました。その後も毎年のようにフォームが変わり、サイドスローで投げていた時期もありました。
明るく楽しいチーム広報
試練は続きます。その後、肩を痛め、08年には、完全復帰が非常に難しいと言われる左肩関節唇の再建手術を受けました。4年間のリハビリの間には、支配下を外れ、育成選手となったこともありました。それでも11年に復帰し、かつての球速はありませんでしたが、12、13年はリリーフとしてチームに貢献しています。
当時、私は阪神にいましたが、「よかったな、河内」と思って見ていました。ですが、結局、手術した左肩の状態が戻らなかったこともあり、私がカープに戻った15年限りで現役引退となりました。16年間現役を続け、通算16勝28敗23ホールド。おそらく、後悔もたっぷりある大変な野球人生だったと思います。
う~ん、こう書いていくと、彼が毎日、悲壮感の中で現役選手生活を送っていたように思うかもしれません。確かにグラウンドではそうでした。暗い顔をしていることもよくありましたが、普段は、まったく違います。ユーモアたっぷりの愛すべき宴会部長。ずっと変わらず、明るくて楽しい男です。
16年からは広報として一緒にやっていて、私たちワガママな(?)選手とマスコミの皆さんの間をうまくつないでくれました。優秀な広報だと思います。加えて、彼のいいところはムードメーカーになれることです。年上からも、年下からもいじられながら、彼の周りには、いつも明るさがあります。
18年に、私が記者の皆さんの前で引退を表明するときは、なぜか大きなバスタオルを持ってきて、「新井さん、絶対に号泣しますから、これを横に置いてくださいね」とニコリ。思わず、吹き出してしまいました。緊張しないようにと、ジョークのつもりだったのかもしれません。たぶん、「よし、俺、なかなか気の利いたことをしたな」と思っていたはずです。そういう、どうでもいいところばかり気が回るんですね(笑)。
正直なところ、たまにイラッとくることもありましたが、それも含めてかわいい後輩です。本当に感謝しています。
あと一つ、チクリと注意しておきましょう。河内広報、門限だけはしっかり守りましょうね!
(※引用元 週刊ベースボール)