球界一といわれる鉄砲肩は鈴木誠也の魅力である。
打撃に影響しては困るため新人の時に挑戦した遊撃は断念。2年目には外野が主になった。そんな頃、誠也の右翼からのバックホームの送球を見て、私は度肝を抜かれた。
低い球が一、二塁間から少し本塁寄りのところでワンバウンド。それがそのまま捕手のミットに吸い込まれた。普通、その辺りでバウンドすれば、肩が強い選手でも2バウンドか3バウンド。並の選手の送球ならゴロになってしまう。
それが、誠也の球は回転数が多いため、バウンドしてから伸びるのだ。内野手の頭の高さのまま、ダイレクトで到達することもある。まさに「レーザービーム」。誠也は外野の守備でもファンを魅了できる。その代わり、とんでもない暴投も多かった。
試合に出始めた頃は、ミスが多く、悔し涙を流す姿をよく見た。そんな負けん気の強さが武器でもある。コーチにアドバイスをされると、にらみ返すような強い目力で話を聞いている。
人の話を「はい、はい」と聞く選手や、コーチにあれこれ言われてしまう“スキのある”選手より、伸びる選手、一流になる選手は、こちらが何かを言いにくい雰囲気を出していることが多い。巨人なら清原和博、松井秀喜、高橋由伸、阿部慎之助、坂本勇人らがそう。打撃練習中は横から声をかけにくかった。誠也も同様だ。
それどころか、打撃中の誠也には「殺気」すら感じた。他の選手にも言ってはいけないが、誠也には特に「中途半端なことは言えないな」と感じたものだ。
巨人に坂本が入団した頃、原辰徳監督が内角球をさばくため、「自分の体の前でグリップが『Vの字』を描くイメージ」と指導した。これと理論は同じだが、私は誠也に「グリップをヘソの前に出せ」とアドバイスしたのを思い出す。
■新人の頃から自然とやっていた「量が質を作る」
伸びたのはいくつか理由がある。情報を自分で取捨選択できること。練習熱心で貪欲。自分から行動を起こして理解を深められるタイプだった。
私の持論に「量が質を作る」というものがある。新人の頃、アウトサイドインのスイングを矯正するための練習を黙々とやり、それをクリア。質が高まってきたら、さらに質を高めるため、また努力をする。そんな姿が坂本と重なる。2人とも3番打者タイプだが、振り切ることで最近は本塁打数も増えている。
誠也は昨年のプレミア12で侍ジャパンの4番を任された。データが少ない国際大会でも自分のパフォーマンスが出せていて頼もしく感じた。直球を待って変化球に対応できる。基本だが、実はこれが難しいのだ。
2016年からリーグ3連覇を達成した広島で、誠也を4番に定着させ、昨季限りで退任した緒方孝市監督の若い頃を思い出している。(内田順三/前巨人巡回打撃コーチ)
(※引用元 日刊ゲンダイ)