昨季限りで現役を退き、今季から指導者に転身した広島・赤松真人2軍外野守備走塁コーチ(37)。2016年オフに胃がんを発見、切除手術と半年に及ぶ抗がん剤治療を受け、再びグラウンドに戻った。第2の人生を歩み始めた男は今、何を思うのか。
コーチとして臨んだ初めての春季キャンプは、悪戦苦闘の毎日だった。
「まだ土俵にも立てていない。『ノックも打てない、教えることもできないだろうな』。そういうイメージの通りでしたね。自分のバットをボールに当てるだけなのにそれが難しいんです」
だがプロで13年間、メシを食った経験は伝えられる。「まず『何のためにプロに入ったの?』と問いかけます。プロ野球選手として活躍したい、お金を稼ぎたい。いろいろあるが、じゃあ、そこに向かってやろうよと。その基本が薄れてしまう。僕、今年で(クビが)危ない選手には『ラストイヤーじゃないのか? ここでがむしゃらに一度、あがいてやってみたら?』とずっと言っています。それがもしかしたら、いい思い出になるかもしれないし」。
好例が中村恭平投手(30)。昨季は中継ぎでキャリアハイの43試合に登板した。「彼、去年でほぼクビだったと思います。それで一昨年オフからガンガンウェイトトレーニングをして鍛えまくった。そうしたら球速が155キロぐらいまで出た。そういうこともあるワケで。一度すべてをぶち壊すくらいの練習量を課せたからこそ。そこで何が起こるか分からないくらい、あがいてクビだったら、納得して辞められると思います」。
そこまで自分を追い込まないまま戦力外通告を受け、12球団トライアウトでも拾ってもらえず、社会人や独立リーグで野球を続ける選手もいる。
「『なんでプロ野球選手の間にもっと死に物狂いでやらなかったの?』と思ってしまう。僕が見た限りでいえば、そこまで練習していない人がその道をたどっていることが多い。まず『野球が好きでレギュラーになって稼ぐ』という基本を忘れちゃダメ。忘れてくると『何のために頑張ってるの?』となってくる。それを冷静に客観視して伝える。僕は今、それしかできませんから」
「自分が後悔しない人生を歩まないと」
自身は04年ドラフト6巡目で阪神に入団。新井貴浩のFA補償で08年から広島に移籍後、堅守が輝いた。翌年は球宴に外野手部門でファン投票選出。10年にはDeNA・村田の打球をフェンスによじ登り好補したプレーが、米野球界でも脚光を浴びた。すべては健康な体があってこそだった。
「若手に『明日から病気になったら嫌だろ?』と聞いたところで、それは想像でしかないですからね。当たり前のように野球していたのが、当たり前にできなくなる。若い選手はたらふくご飯を食べられるけど、それができないしんどさがあります。摂取カロリーが消費カロリーに追いつかない。その分、オーバーヒートしますが、病気をしないと気づかない」
“がんサバイバー”は現場に復帰し、今春キャンプでは若手とともに朝から夜まで汗をかいた。体力面は大丈夫なのか。
「どうですかね、倒れるかもしれませんけど。それくらいの気持ちでやっています。自分が後悔しない人生を歩まないといけない。ただ、何もせずには倒れたくないんです。悔いが残りますから。若手をサポートしてから倒れたいし、できるようになりたい。これだけ野球をやれて注目を浴びたわけですから、その恩を返さないと。プロのコーチになれるなんてひと握り。やれるときにやっておかないと、という気持ちは強いですね」(山戸英州)
(※引用元 夕刊フジ)