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育成のカープイズム、低迷中の佐々岡監督に本部長がかけたひと言とは

2020年9月10日

育成のカープイズム、低迷中の佐々岡監督に本部長がかけたひと言とは

“どん底”続きだった「広島カープ」と「阪神タイガース」。2人の異端なサラリーマンが、そんな両チームの改革に奔走し、優勝を果たすまでを追った傑作ノンフィクション『サラリーマン球団社長』(清武英利 著)。8月26日に発売されると、わずか数日で重版が決まるなど、大きな反響を呼んでいる。

2018年までセ・リーグ3連覇を果たすなど常勝軍団となったカープはいま、不振にあえいでいる。そんな中で球団本部長が監督に語った“カープイズム”の神髄とは――。「週刊文春」9月3日号「サラリーマン球団社長・番外編」より一挙全文公開。

優勝が当たり前になったカープ

「上司の靴音」という言葉がある。パワハラが叫ばれるにつれ、あまり使われなくなったが、上司がその靴音を部下に聞かせて、「後ろで君を見ているぞ」と励ます意味で使われていた。連合艦隊司令長官、山本五十六に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という言葉があるが、BOSなどを使って「がんばっていますね」と伝えるのは、遠くからほめて育てる手法でもある。

ただ、コロナ禍のいまは、「上司の靴音」を響かせにくい時代だ。

カープはもともと選手と監督、フロントの距離が近い家族主義の球団だが、いまはオーナー兼社長の松田元(はじめ)も靴音を聞かせるところにいることができない。遠征に同行する球団本部長の鈴木清明でさえ、選手になるべく近づかないようにしているという。過日、コーチや選手たちに、「十分対策をしたとしても感染する可能性はある。だから自分や家族を含めて心配があれば隠さずに相談することだよ。もし感染しても誰も責めてはいけない」とコロナ対策を訴えた。その際に、「いま最下位だけど、そろそろ上に上がっていこう」と話したくらいだが、低迷は続いている。

当然ながら、批判の矢は新監督の佐々岡真司に向いている。佐々岡は通算138勝、106セーブ、ノーヒットノーランも記録したカープ生え抜きの大投手だが、心根の優しい野球人として知られ、中国新聞運動部長の木村雅俊は「あんな気配りの男は見たことがない」と言う。

佐々岡が野球評論家になった後、木村は彼とメジャー野球視察で米国を回った。ずっと一緒にいると、頂点を掴んだ野球人ゆえのわがままが出るものだ。だが、佐々岡は飲みに行っても相手のグラスが空いていないか気を使ってくれて、何日一緒にいても愉快だった。

「彼は母親の女手ひとつで厳しく育てられている。大野豊投手もそうだったが、カープにはそんな人が多い。気の毒なのは、佐々岡監督はまだ1年目なのに、カープが2018年までの3年間、セ・リーグ優勝を果たしたことで、それが当たり前になってしまったことですね。監督の人柄の良さを、カリスマ性がないと言うファンもいる。それに、カープファンはみな評論家ですからね」

勝つことは難しいが、勝ち続けることはもっと難しい。少し前のことだが、鈴木は遠征先の東京ドームの小部屋で、「お互いに愚痴でも話そうか」と佐々岡を誘った。チーム全体のこと、コーチや選手のこと、そして冗談を交えながら鈴木はこんな話をした。

「監督、時には少しきつい言い方もして、考えを通しても良いかもしれないですね。それで人が避けるようになれば、私が話し相手になるから」

あの王監督も敗戦続きで卵をぶつけられたことがある

カープは何が何でも常勝という球団ではないのだ、と鈴木は思う。監督には、目先の勝利を追うのではなく、先の光が見える起用と戦いをしてくれれば、と考えている。

勝てば官軍、負ければ賊軍の厳しい世界だ。だが、これまでの監督たちも自分の時代だけの結果を考えた選手起用や酷使はしてこなかった。与えられた戦力を使い、新しい戦力を育成して、その財産を引き継いでいくのが、カープ監督の伝統だ。

ファンはきょうの勝利を望み、OB以外の監督も考えろというかもしれないが、OB監督ゆえの良さもあるのだ。良い結果につながらなかったとしても、努力さえしていれば経験と若手が残るではないか。あの王監督も敗戦続きで卵をぶつけられたことがある。

――幸運が尽きたように見える、その後が大事なのだ。

そう思いながら、鈴木は半地下の球場視察室から、今日もじっと監督たちを見つめている。

(※引用元 文春オンライン

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