なぜだろう。今季の広島の戦いぶりに、胸が高鳴ることが少ない。勝てないからではない。失点を重ねる投手陣のせいでもない。まるでノーガードの打ち合いを挑んでいるような今季のスタイルから、広島らしさを感じないからなのかもしれない。タオルを投げたくなる試合も少なくない。それでも打って、打って、打ち勝つか、ガードを固められて敗れるか――。試合の流れがあるようでなく、試合の潮目も見えづらい。たとえ打ち勝つことができても、まだチームとしての“形”が見えてこない。
「投手を中心に守り勝つ野球」を掲げても、理想と現実のギャップはある。
開幕から勝ちパターンを確立できず、先発投手も不調やコンディション不良による離脱者が相次いだ。一方、打線はしばらくリーグトップのチーム打率(現在も2位)を維持していただけに、攻撃力に頼る戦いに舵を切るしかなかったのだろう。その結果、試合の中でも終盤まで攻撃力を落とせないため、打力のある選手からの守備固め、代走の投入が遅れる。
ただ、打ち勝つだけの野球でペナントレースという長丁場を乗り切ることは難しい。ガードを緩めた打ち合いを続けていれば、身体だけでなく、精神も疲弊する。
お家芸と言われた「機動力」さえも失っている
広島が3連覇したときは、ノーガードで打ち勝つ野球でもなければ、横綱相撲だったわけでもない。失点を1点でも少なく、相手よりも1点でも多く取る、の積み重ね。ド派手なストレートパンチで勝つのではなく、ガードを固めてローキックやボディーブローを打ち続けながら相手を倒す好機をうかがう――。そんな戦い方が一貫していたように思う。そして、そんなファイトスタイルが広島ファンを熱狂させた。
打力や投手力だけでなく、お家芸と言われた機動力さえも失っている現状が、広島の苦しい戦いに拍車をかけている。
今季のチーム盗塁数30はリーグ4位。2010年以降の10シーズンで広島が盗塁数でBクラスに位置付けられる4位となったのは15年の1度しかない。その15年もリーグトップの巨人と19の差しかなかった。
もちろん「機動力野球=盗塁」ではない。ただ、企図数の減少は相手バッテリーの警戒心を和らげているだろう。
広島黄金期を知るOBは、「機動力は、ひとつの攻撃で各塁から1つではなく2つ、3つ先の塁を奪うことである」と伝統の機動力野球を表現した。次の塁を奪う走塁や攻撃は広島の最大の武器だった。
機動力を軸に、粘って四球を選ぶ。一塁へ全力疾走する。3ストライク目に捕手が少しでも弾こうものなら、スピードをもって一塁へ走りだすなど、当たり前のことを当たり前にする浸透度の高さが、相手を消耗させていたように感じる。強者の戦い方ではなく、たとえ弱者であっても強者に勝てる戦い。今季も鈴木誠也や菊池涼介ら主力が一塁へ全力疾走する伝統は残っている。何とかしようとする姿が見えるだけに、もどかしい。
「攻撃力=打力」になりつつある状況から脱しなければいけない
「打線は水物」と言われるように、毎試合打ち勝つことができるほどプロの世界は甘くない。野球が変わりつつあると言われていても、やはり計算が立つ守備力の重要性は変わらない。今季、セ・リーグ順位(1位から巨人、阪神、DeNA、中日、広島、ヤクルト)が、チーム防御率の順位(1位から巨人、阪神、中日、DeNA、広島、ヤクルト)と重なることからもそれは明らかだ。
3連覇した反動はあるもの。ただ、防御率の悪化や得点力の低下よりも、機動力野球の伝統が薄れていることが懸念される。シーズンは折り返し、終盤戦となる。まずは「攻撃力=打力」になりつつある状況から脱しなければいけない。選手だけの問題ではない。伝統とはチームが変わっても、受け継がれていくものだろう。
9月2日の中日戦で5打点の活躍でチームの連敗を止めた會澤は言った。
「みんなが同じ方向を向いて戦っていくしかない。1つでも上に上がっていくためにも、みんなの力で戦っていきたい」
出場選手だけでなく、ベンチにいる控え選手、そしてチームが一体となって生み出すエネルギーが、広島の強さだったはずだ。厳しい状況でも最後までファイティングポーズをとり続ける広島が、打力プラスアルファのコンビネーションで相手を倒す試合を1つでも多く見たい。それがチームの形となり、伝統となっていく。
(※引用元 Number Web)