広島のクリス・ジョンソンは、昨年の33歳の誕生祝いにこれまでの人生のなかで最高のプレゼントを手にした。
ジョンソンの誕生日は10月14日で、そのときはまだクライマックスシリーズが行なわれている最中だったが、ファイナルステージでDeNAに敗れ、シーズンを終えるとアメリカ・ミズーリ州ブルースプリングスに帰った。そこで妻の実家で少し遅い誕生日パーティーが開かれ、ジョンソンは義理の父・ラリーから包装紙に包まれた大きな箱を受け取った。
「何だろう……」とワクワクしながら箱の中身を見ると、そこには壊れていたはずの沢村賞のトロフィーが入っていた。それを見たとき、ジョンソンは興奮を抑えきれなかった。
話は2016年の11月まで遡(さかのぼ)る。
この年、投手の最高栄誉である沢村賞に輝いたジョンソンは、オフに地元ブルースプリングスの郵便局に届けられた記念品のトロフィーを受け取りにいった。しかし箱を開けると、人生最大の悲劇が待ち受けていた。ガラス製のケースは割れ、トロフィーはグチャグチャに壊れていたのだ。
当初は補償として、元の形に直してジョンソンに届けられることになっていたが、その後、郵便局側と送り主側で「どちらに責任があるのか」という話し合いは平行線のまま一向に解決せず、保険金は支払われたが、たったの200ドルだけだった。結局、トロフィーは壊れたまま箱から出されることはなかった。
「沢村賞を獲るのは簡単なことではありません。だからこそ、受賞したときは本当に嬉しかった。それなのに……すごく悲しい気持ちになりました」
その様子を見かねたラリーは、ジョンソンに内緒でトロフィーを元通りにすることを決意。地元の腕のいい職人を探し、修復を行なった。かかった費用は保険金の200ドルをはるかに超えたが、トロフィーは完璧な姿に蘇った。
「ラリーには本当に感謝しています。この沢村賞のトロフィーはアメリカ50州のなかでも2つしかないですからね(1964年に阪神のジーン・バッキーが外国人選手として初めて沢村賞を受賞)。そのときとトロフィーは変わったのかな……。2つを横に並べて、どれほど変わっているのか見てみたいですよね」
1年遅れの記念品贈呈となったが、ようやく手にした沢村賞のトロフィーはジョンソンの気持ちを再び奮い立たせた。
沢村賞受賞の翌年(2017年)、ジョンソンは不本意なシーズンを送ってしまう。
特に深刻だったのが、開幕直後に患った咽頭(いんとう)炎だった。医者からは「おそらく食べ物じゃないかな……」と言われたが、正式な原因を特定することはできなかった。
このシーズン、ジョンソンは開幕投手に選ばれたが、阪神を相手に4回途中を8安打、5四死球で7失点し、KOされた。
その数日後に体の不調を訴えたのだが、ジョンソンは「開幕試合の結果とは関係ない」と言う。
「球速は出ていましたし、いいスタートが切れたと思っていました。開幕戦も体調は悪くありませんでした。ただあの試合のあと、突然、左のリンパ筋が風船のように腫れあがって……。ひとりで病院に行くこともできないぐらいフラフラな状態で、40度の熱が1週間続きました。袋に氷を入れ、体中を冷やしていました」
94キロあった体重は85キロまで落ちてしまった。ジョンソンは「つらい経験だった」と振り返る。
「体力が落ちてしまうと、試合で投げられる状態になるまでかなりの時間がかかってしまいます。本当に治るのか、怖かったですね」
シーズン2度目のマウンドに上がったのは、開幕から2カ月以上が経った6月9日の楽天戦だった。ジョンソンは6回2失点の好投で、ようやく初勝利を挙げた。
しかし、試練はまだ続いた。7月下旬の試合前のこと、ジョンソンが大きなストライドで外野の芝生を走っていると、突然、左のハムストリングから「パチン」という音が聞こえた。MRI検査を受けた結果、登録抹消となってしまう。
その後、再びマウンドに上がったのはそれから約1カ月後の8月25日だった。結局、2017年のジョンソンは13試合の登板で6勝2敗、防御率4.01という成績に終わった。ちなみに、登板数13試合は沢村賞に輝いたシーズンの半分でしかない。
ジョンソンにとって失意のシーズンとなった2017年。それだけに今季に懸ける思いは誰よりも強かった。そういう意味で、昨年11月に贈られたプレゼントは、再び自信を取り戻すきっかけになったのかもしれない。
「たしかに、そうかもしれません。昨年はジェットコースターのようなシーズンでした。そんなときに沢村賞のトロフィーを見ることができて、嬉しかったのはもちろん、自分はあれだけのピッチングをした投手なんだと、あらためて思うことができました」
今シーズンのジョンソンは、ここまで(6月8日現在)8試合に登板して3勝2敗、防御率3.58。本来の力からすればまだ物足りない部分はあるが、それでもローテーション投手として開幕から一度も離脱することなく、チームに貢献している。
沢村賞に輝いた2016年のような力投を再び見せてくれるのか。これからのジョンソンに期待したい。(text by Brad Lefton)
(※引用元 web Sportiva)