リーグ連覇を果たしたチームで、2年連続フルイニング出場を達成。田中広輔は赤ヘル打線の斬り込み隊長として猛攻の起爆剤となった。進化を続けるトップバッターが、自身初の個人タイトル獲得の喜びを語る。
最多盗塁は昨季の失敗が生きた結果
――最多盗塁と最高出塁率。1番打者として重要なタイトルを獲得しました。
活躍できたという手応えはあります。トップバッターの仕事を、しっかり一年間ブレずにできたことが結果に表れてくれたので、本当に良かったです。
――昨年の契約更改から、初の個人タイトルへの意欲を口にしていました。
まずは最多盗塁を狙いたいということを明確にして、今シーズンは臨んでいましたね。これまで、個人タイトルを獲得した選手のことを「すごいなあ」と第三者としてというか、外から見ていました。まさか、自分が今季にタイトルを獲得できるとは思っていなかったので、僕にとってはすごく価値のあることです。
――昨季はリーグ2位の28盗塁を決めましたが19の盗塁刺があり、成功率は5割9分6厘。それが今季は35盗塁(13盗塁刺)で、成功率は7割2分9厘にアップしています。
昨季にさんざん走らせてもらい、その経験が生きました。スタートに余裕ができたというか、すべて走るのではなく、いいスタートを切ることができたときだけ走ることができたので、そういう部分が成功率や、盗塁数に現れているのだと思います。
――スタートがうまくいかなかった場合には思いとどまることができた。
それができないと、相手に簡単にアウトを一つあげてしまうことになる。それも昨季に走らせてもらったからできるようになったことですね。スタート、反応が悪いときには感覚的に分かるようになりました。
――盗塁の大切な技術として、スタート、スピード、スライディングが挙げられますが、その中でもスタートを重視していた。
そうですね。一番大切なところだと思います。
毎日の短距離ダッシュで意識すること
――シーズン中には腰にチューブを巻き、背後からスタッフに引っ張ってもらって負荷をかけながら、10メートルほどの短距離ダッシュを毎日行っていました。
取り入れたきっかけは昨秋のキャンプ。河田(雄祐)コーチ(現東京ヤクルト)から提案してもらった練習の一つでした。スタートの形につながりますし、地面のかみ方にも影響する。実際にやってみて「いいな」と感じたので、今季は一年間やっていました。
――引っ張るスタッフは体重90キロほど。しっかり力を入れないと走ることは難しそうです。
そうですね。低い体勢で走ることを意識しています。そうしないとうまく引っ張ることはできません。
――夏場のマツダスタジアムでも継続していましたが、見ているだけでも疲れそうなメニューでした。
いや、おそらく見ているよりも体力的にはきつくないですよ。全力でやっていないわけではないですが、それほど思いっ切り走っているわけではないので。どちらかというと、出だしと、前傾姿勢の確認ですから。体に負荷をかけるというよりも、感覚をつかむための練習です。
――例えばチームメートの赤松真人選手は、ベンチにいるときも相手投手を観察し、クセなどをメモに書いていると話していましたが、田中選手も同じようなデータを残しているのでしょうか。
ベンチでは必ず、相手投手を観察しています。いろいろな傾向も頭の中には入れていましたね。2年連続でフルイニングに出場していますし、情報はある程度蓄積しています。
――マツダスタジアムのグラウンドは内野が土ですが、人工芝との違いはありますか。
それはもちろん、人工芝のほうが走りやすいですよ。スタートしてからスピードに乗るのも早いですし。でも、僕はあまり気にしていません。グラウンドを盗塁できない言い訳にはしたくないですからね。
――最多盗塁獲得の要因としては、昨季からの出塁率の向上も大きいと思います(2016年=3割6分7厘→17年=3割9分8厘)。
1番打者として、出塁率は最も意識していた部分です。
――特に四球は16年の77から、17年は89にアップしています。
昨季は途中から、長打を打ちたいという気持ちが強くなってしまいました。序盤は逆方向にうまく打つことができていましたが、「もの足りないな」と強く振り始めて失敗したので、今季は最後まで、我慢をしながらというわけではないですが、出塁を最優先にしてプレーできたのがいい方向につながったと思います。
――昨季は自己最多の13本塁打。パンチ力も田中選手の魅力の一つだと思いますが、どうやって欲を抑えたのでしょうか。
昨季、チームは優勝しましたが、僕自身の打率は2割6分5厘。それじゃあ何か、個人的にもったいないと感じましたし、優勝チームの1番がその打率では格好悪いですからね。
――2年目の15年には141試合に出場しましたが、四球は34。当時は積極的なバッティングを得意としていました。
スタイルを変える上で、相手のボールを待たないといけないところに難しさを感じることもありましたが、そのままでは通用しないと思い、石井(琢朗)コーチ(現ヤクルト)、東出(輝裕)コーチ、迎(祐一郎)コーチなどに話を聞きながら変えていきました。例えば石井コーチは現役時代に1番を打つことが多かったので、出塁率と得点へのこだわりについてはとても多くのことを教わりました。そこで踏ん切りがついたというか。「打てなくてもフォアボールを2つ取ればOK」ということや、「得点をすれば1番の仕事は十分だ」と言ってもらい、「それができればいいんだ」と、僕の心の中で方向性が定まりましたね。
――トップバッターの田中選手の場合、主軸打者のように「与えられた」というよりも、「奪った」四球が多いですが、四球を選ぶ秘訣(ひけつ)はあるのでしょうか。
1年目、2年目には、ファーストストライクの甘いボールを見逃してしまうと、「ああ、もったいないな」という感じがあったのですが、打席に多く立たせてもらい、いろいろな球を見てきた中で、余裕が出てきたので、無理して1球目から振りにいくことは少なくなったと思います。それが結果的にボール、ボールと球数が多くなり、四球が増えているのだと思います。
最高出塁率は結果的に取れたタイトル
――入団時点と現時点で、理想とするバッター像は変わっているのでしょうか。
いえ、それは変わっていません。やっぱり打率を残せて、盗塁もできて、ホームランも打ててという選手が理想ですよ。それは変わってはいませんが、僕が成長するにあたり、僕だけの野球観では絶対に成長できないですし、僕よりも結果を残してきた選手はいっぱいいる。その選手にたくさんのことを聞きながら成長したいと思っています。
――これからはもっと長打力を求めていきたい。
その気持ちはありますが、まだ打率3割を打ったことがないですし、この先も1番打者を任せてもらえるのであれば、出塁率と得点が、最も追い求めていかないといけない数字ですから。
――最高出塁率のタイトルへの意識はあったのでしょうか。
それはなかったですね。1番打者で数多く打席が回ってきますし、出塁率の高さは気にはしていましたけど、タイトルはクリーンアップのバッターが取るものだと考えていましたから。
――最後はチームメートの丸佳浩選手と大接戦となりました(田中=3割9分8厘2毛、丸=3割9分7厘5毛)。
今季の僕の目標は最多盗塁でしたから、ライバル心はなかったですよ。最多盗塁は狙って取ったもので、最高出塁率は結果的に取れたタイトル。1番打者の仕事を一年間続けてきたことが形になったのだと思っています。
――ほぼ不動のトップバッターとして、2年連続フルイニング出場を果たしました。やはり1番へのこだわりは強いのでしょうか。
もちろんあります。最初は与えられたポジションでしたけど、2年間、しっかりと仕事ができたと思っているので、譲りたくはないですね。
――1番打者として、これからさらに成長するための課題はありますか。
三振が多いので、そこを改善していきたいですね。何とかフルカウントまでは持っていけるのですが、そこでどうにかしてバットに当てればヒットになる確率はあります。三振はもっと減らしていきたいですね。(取材・構成=吉見淳司)
(※引用元 週刊ベースボール)