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2016年6月、誠也が起こした『奇跡』と私の1万3000円の行方

2020年7月10日

2016年6月、誠也が起こした『奇跡』と私の1万3000円の行方

私の所属するバンド、トリプルファイヤーのドラム担当、大垣くんは熱狂的な阪神ファンである。彼は現地観戦のためにちょくちょく甲子園まで遠征しているし、私が怖くて行けないような、ファンが集う酒場にも度々顔を出すという。

先日、友人と酒を飲んでいた際、スマホで楽しそうに野球速報を見ていたと思ったら終盤で阪神が逆転負けし、大垣くんは泣きながら泥酔し周りの客に絡んで迷惑をかけたらしい。そう彼の友人から聞かされた時、やべえ奴だな、と思うと同時に、そこまで野球の結果に熱狂できる彼を少し羨ましくも感じた。私は広島が負けて泣いたことはない。一番最近泣いたのは数年前、『ザ!世界仰天ニュース』の再現VTRを見た時だっただろうか。

自分にとって広島の勝ち負けがどの程度メンタルに影響するのか考えてしまった。その時思い出したのが、2016年6月、鈴木誠也が現在の主砲の位置に収まる片鱗を見せた、オリックスとの交流戦2日目の出来事である。

夜行バスか、新幹線か、それとも飛行機か

その当時の私は、香川の実家に帰って家業の手伝いをしていた。私の父は神社の宮司なのだが、お祭りなどが立て込む時期は人手が足りなくなるので、私も父に付き添って1~2週間お祓いなどを手伝う。

ようやく忙しい時期が終わり、ライブの予定のために東京に戻ろうとしていた日のことだった。

香川から東京に戻るには夜行バス、新幹線、飛行機の3つの手段がある。夜行バスはできるだけ避けたい。眠れないまま夜を明かして疲労が蓄積し、次の日に丸々寝てしまって1日を棒に振ったことが何度もあったからだ。

一番楽なのは新幹線だ。自由席なら時間を気にせずに乗れるし、一旦乗ってしまえばそのまま家から近い品川や東京駅に着く。しかし値段が高いのがネックである。

地元と成田を繋ぐLCCができてからは、飛行機を利用することが増えた。値段は時期によって変動するが、安い時期なら新幹線の半額以下、夜行バスより安いことも多い。しかし、実家から空港までは電車やバスを乗り継がねばならず、成田から高田馬場の自宅まで戻るのも時間がかかる。搭乗手続きも面倒だし、時間に遅れると乗れなくなるリスクもある。

お金に比較的余裕がある時は新幹線に乗り、金欠気味の時は飛行機を使うことが多い。その時はあまりお金がなかったので事前に夕方の飛行機を予約しておいた。予約したはいいが、当日ダラダラ準備をしていたら家を出るのが遅くなってしまった。

とりあえず最寄駅まで歩いて電車に乗った後、飛行機に乗るためのタイムスケジュールを調べてみたら、状況は思った以上に逼迫していた。高松駅に着いたら空港行きのバスに乗るのが最もオーソドックスで安い手段なのだが、バスに乗っていては全然間に合わない時間にいつの間にかなっていた。

タクシーに乗っても間に合うかどうかギリギリのラインだ。タクシー代もけっこうかかるだろう。これはもう飛行機を諦めて新幹線で帰った方がいいのかもしれない。既に予約している飛行機のチケット代7000円を無駄にするのは辛いが、もし駅から空港までタクシーに乗って間に合わなかった場合、タクシー代までも失うことになる。

急いで空港に向かうタクシーの中で見た「奇跡」

どうするべきか決めかねたまま、電車は高松に近づいていた。気は焦りつつも特にできることもないのでスポナビをチェックすることにした。

その日は広島とオリックスのデーゲームが行われていた。前日、鈴木誠也のホームランによって逆転勝ちを収めたカープだが、その日は終盤になっても2対1で負けている状況。9回表に1点を追加され、高松駅に着いた頃には点差は2点に広がっていた。プロ野球において9回裏に2点差を追いつく確率はおそらく1割か2割程度だろう。これは多分負けちゃうな、と思いながらも今は野球どころではない。

電車を降りるや否やタクシー乗り場までダッシュし、運転手に搭乗時間を伝え「間に合いますかね?」と聞いた。運転手は、道の混み方にもよるが急げば間に合うかもしれない、という反応だった。一瞬迷ったが、覚悟を決めた。やらない後悔よりやる後悔だという中学の部活の顧問の言葉を思い出した。

運転手に「できるだけ急ぎ目でお願いします」と伝え乗り込むと、私の気迫が伝わったのか、運転手は「わかりました」というが早いかアクセルを踏み、急ハンドルを切って空港に向け出発した。信号手前でスピードを落とすような料金稼ぎもせず、道交法に違反しないギリギリで急いでくれているのがわかった。

信頼のおける運転手だ。とりあえず間に合うかどうかは彼に命運を託すことにして、再びスポナビを開いた。9回裏、ノーアウトから菊池と丸が連続出塁していた。良い流れだ。しかし4番のルナは凡退。1アウト1、3塁という場面で、前日決勝ホームランを打った鈴木誠也に打順が回ってきた。

つい偶然とは思えない巡り合わせに前日の再現を期待してしまうが、野球というのはそううまくいくものではない。その日の鈴木はノーヒット。何とか四球ででも出塁してくれれば、次にはチャンスに強い新井が控えている。

その時、一球速報の更新が止まった。更新ボタンを何度押しても全然反映されない。

何かが起こっている。このような場合、考えられるケースは何パターンかある。「盗塁の判定をめぐり審判と揉めている」「ダブルプレーによって試合が終了」「危険球を受け治療中」など。しかし、鈴木が長打を放ち走者二人が生還、土壇場で同点に追いついたパターンも十分に期待できた。

数分後、やっと更新された画面は私の予想を超えていた。「HOME RUN!!」という文字とともに無機質な放物線が描かれ、花吹雪のようなものが舞っていた。

ドラマチックな展開で勝利した裏側で私は……

「うわ、まじか」と思わず声が出た。鈴木誠也の逆転サヨナラ3ランホームランによって、広島は2試合連続でドラマチックな勝利をおさめたのだ。こんなことってあるのか。

後から考えればそのオリックスとの3連戦は、「神ってる」の流行語のきっかけともなった、鈴木誠也大躍進の3試合だった。序盤で強くても途中で失速することが多かった広島だが、多くの広島ファンはこの神ってる3連戦で、25年ぶりの優勝にリアリティを感じたと思う。

一方その頃タクシーは、搭乗手続きの時間になっても空港へ着く様子がなかった。運転手の背中が若干気まずそうに見えた。信号ギリギリを突っ切るような攻めの運転は、いつの間にか安全運転に切り替わっていた。

結局タクシーは搭乗手続き締め切り時間を10分以上過ぎて空港に到着した。運転手の「急げばまだ間に合うかもしれません」との言葉を聞き流しながらカウンターへと走った。

本来の搭乗時間はもう過ぎているが、離陸まではまだ少し時間がある。息を切らせてカウンターへ駆け込み、「ふう、何とか間に合った」という顔をして搭乗手続きを進めようとしたが、職員は「あ、もう終わりました」と冷たく言い放つのみで交渉の余地はなかった。

私は己の無力を噛みしめながら、飛び立つ飛行機を見送るしかなかった。全く東京に近づいていないにもかかわらず、飛行機のチケット代7000円とタクシー代6000円の計1万3000円を失った。

時間とお金の問題で、結局そのまま夜行バスに乗って帰るしかなくなった。既に失ったお金と夜行バス代の合計は、新幹線の料金を大きく上回っていた。

本当に俺は何をしているんだろう。衝動的に何かを叫んでしまいそうになり、心のバランスを保つためポジティブな要因を探した。そうだ。広島は今日、奇跡的な勝ちを収めたじゃないか。それでよしとしよう。そう自分を納得させようとしたが、「いや、それじゃ全然足りねえ」という心の声を払拭することはできなかった。

鈴木誠也も今では広島東洋カープ不動の4番バッターである。今年は例年以上のペースでホームランを量産し、「神ってる」の数日間がただの偶然ではなかったことを証明し続けている。あの日彼の逆転サヨナラホームランで私の心の穴は埋まらなかったが、その後数年の活躍であの1万3000円はチャラになったと思いたい。

(※引用元 文春オンライン

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