野球の質が上がった広島
昨季の健闘が光ったのが、2位に躍進した広島だった。2016~18年に球団史上初の3連覇を飾った黄金時代から一転し、19年以降は4年連続Bクラス。昨年の戦前の下馬評はBクラス予想が多かったが、見事に覆した。チーム再建を託された新井貴浩監督の下で選手たちが躍動。広島のセールスポイントである粘り強い戦いを取り戻した。
成長の跡はデータにも如実に表れている。盗塁は前年度の26盗塁から3倍の78盗塁に。機動力に対する高い意識が植え付けられていた。代走での起用が多かった羽月隆太郎は50試合で14盗塁をマーク。小園海斗は8盗塁、矢野雅哉は7盗塁でまだまだ数字を伸ばせる。チーム防御率も前年度の3.54から3.20に改善。
守護神・栗林良吏が春先から救援失敗が続き5月に右内転筋筋挫傷で離脱したが、矢崎拓也が抑えで奮闘した。セットアッパーの島内颯太郎が62試合登板でシーズン球団記録を更新する39ホールドを記録。球団史上初となる最優秀中継ぎ投手のタイトルを受賞した。シーズン終盤は主力選手の故障が相次ぎ失速したが、セ・リーグを最も盛り上げたのが広島だった。
今オフは中心選手の西川龍馬がFAでオリックスに移籍。戦力面では大きな痛手だ。マット・レイノルズ、ジェイク・シャイナーの獲得を発表したが、未知数な部分が多い。だが、他球団のスコアラーは「来季も広島は間違いなく優勝候補になるでしょう」と警戒を強める。
「野球の質が上がり、特定の選手に依存するチームづくりをしていない。どの選手が出ても高水準のプレーで首脳陣の期待に応えている。昨年7月に10連勝を飾ったときも、西川が故障で離脱していました。戦力が整っていない期間が多かったのに2位に躍進できたことで、選手たちは自信を深めたでしょう。捕手で1年間試合に出続けた坂倉将吾の成長も大きい。四番打者を固定できればさらに怖いチームになる」
昨年はライアン・マクブルームの不調で四番を固定できず、菊池涼介や上本崇司を起用するサプライズ起用を見せていた。その策が的中していたが、長いペナントレースを戦う上で「不動の四番」を作りたい。65試合出場で11本塁打をマークした長距離砲の末包昇大、勝負強い打撃が光った堂林翔太、新外国人選手のレイノルズ、シャイナーが有力候補になるだろう。
西川移籍は若手にとってチャンス
また、西川の移籍は若手にとってレギュラー奪取のチャンスになる。田村俊介、中村貴浩、大盛穂ら若手成長株が熾烈な競争を繰り広げることになる。
田村は「同じポジション、似たようなプレースタイルや選手タイプでも、僕、ライバルだって感じないんですよ。『その人はその人』『僕は僕』というふうに見ているので。昔からですね。ライバル心を抱かれるということはありましたけど、僕から誰かを特別に意識したりということはなかったです。
ほかの選手が活躍しているのを見て思うのは、もっともっと自分を上げていけるなということ。例えば、同級生がホームランを打ってたりしたら、僕も打てるやろ、と。先を見ているんですよね。来季、龍馬(西川龍馬)さんが抜けて外野のポジションが空きますが、そこに関しても、自分が結果を出して、評価をしてもらうだけですね」と週刊ベースボールの取材で語っている。
投手のキーマンは大瀬良
投手陣のキーマンになるのが、大瀬良大地だ。昨年は床田寛樹がキャリアハイの11勝7敗、防御率2.19、右肘手術の影響で5月から先発ローテーションに加わった森下暢仁が9勝6敗、防御率3.01、九里亜蓮がチーム最多の174回1/3を投げて8勝8敗、防御率2.53の成績を残したが、5年連続開幕投手を務めた大瀬良は6勝11敗、防御率3.61と大きく負け越した。
ドラフト1位の常廣羽也斗、FA移籍した西川の人的補償でオリックスから日高暖己を獲得したことでチーム内の競争がさらに熾烈になる。大瀬良は今オフに右肘滑膜切除手術を受けてリハビリ中だが、エースとして復活してもらわなければ困る投手だ。
王座奪回へ――。広島の新たな挑戦が始まる。(写真=BBM)
(※引用元 週刊ベースボール)