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カープ・長野久義の口数が少ない『理由』こそ、「強いカープの真髄」

2019年3月4日

カープ・長野久義の口数が少ない『理由』こそ、「強いカープの真髄」

赤チョーさんの口数が減っている。広島東洋カープ・長野久義外野手が赤いユニホームに身をまとい、新天地での春季キャンプを終えた。しかし一挙一動が注目されていた割にはここ最近、本人発のコメントがナゼか少ないことに気付かされる。

1月23日に広島市内のマツダスタジアムで行われた移籍会見では〝長野節〟を響かせ、各メディアもこぞって大きく報じていた。ところが2月1日から春季キャンプが始まると、長野の発言はほとんど掲載されなくなった。

それも、そのはず。長野はこのキャンプ期間中、メディアに必ずしも毎日の対応はせず、待ち構える記者陣を巧くスルーして裏側から宿舎へ戻って行くことが多かった。キャンプインから数日間は少しばかりメディアの取材に応じたものの、それ以降は最後の打ち上げ時に総括を述べた以外、ほぼ無言のまま。

長野の心情とは?

だが、決して長野が冷淡なスタンスを取っていたわけではない。裏事情を知れば、これもまったく無理はないのである。カープの有力OBが、次のように長野の心情を慮った。

「今季のチームでレギュラーが確約されているのは内野手で菊池(涼介)と田中広輔だけで、外野も(鈴木)誠也のみ。これはもちろん緒方(孝市)監督の意向でコーチ陣を通じて、それとなく選手たちにも伝わっている。

長野もその現状をあらためて知り、キャンプでは当然ながら生き残りをかけて必死になっていた。だから毎日、担当記者たちに愛想を振りまきながらリップサービスをする余裕なんてあるわけがない。口数が少なくなるのも当たり前のことだ」

巨人へ移籍した丸はVIP待遇

広島から巨人へFAで移籍した丸佳浩外野手は新天地において何から何まで補償されている「VIP待遇」。しかしながら一方の長野は世論から熱い支持を得ているとはいえ、人的補償という悲しい嵯峨も絡み優遇はさすがにされない。しかもカープはもともと厳しさをモットーとする球団だ。ここまで赤ヘル軍団の一員としてリーグV3の原動力となった実績と経験を持つ選手以外は、すべて横一線――。

そんな厳格な考えを貫く緒方監督だからこそ、長野をお客さん扱いせずに尻叩きをしようと決心していたのだろう。

巨人時代から開幕当初の成績は平気的に振るわず、徐々に調子を上げていくタイプ。G党からも「帳尻合わせのスロースターター」と揶揄されていたほどに春先はいつもバットが湿りがちだ。そういう長野のマイナスポイントを緒方監督らカープの首脳陣が把握していないわけがあるまい。

首脳陣の内定事項通り、右翼の定位置は主砲・鈴木で決まりだ。そして正中堅手もここまでの流れから分析していくと成長著しい野間峻祥が就く可能性が高い。そうなると外野の枠は残り1つで正左翼手の座しかない。

アカデミー出身の大砲サビエル・バティスタと長打が武器の松山竜平は一塁と左翼を兼用する方向で、さらに今季から内野だけでなく外野守備へ本格的に挑戦中の西川龍馬や捕手との兼務を模索中の若手・坂倉将吾も「1枠」の候補者としてささやかれている。

実は左翼守備が苦手とも言われている長野だけに、そういった情報も当然入手済みのカープ首脳陣はやはり本人に熾烈な競争を強く意識させることで〝いくら巨人で実績があろうともウチでは特別扱いはしないぞ〟と無言のプレッシャーを与え続けているのだろう。

ちなみに、その長野については早ければ5日から本拠地マツダスタジアムで行われる古巣・巨人とのオープン戦2連戦で左翼手として実戦初守備に就く可能性が各メディアによって報じられている。たとえ今季開幕戦と同カードの前哨戦であっても長野を特段出し惜しみするわけではなく、あくまでも戦力の見極めの一環として首脳陣側がドラスティックに左翼手としての守備テストとして考えている証拠と言えそうだ。

だから今のカープは強い

前出のカープ有力OBも「だから今のカープは強い」と断言し、こう続ける。

「普通に考えれば、広島のキャンプは〝長野祭り〟になるはずだった。それはそれで球団としては人気向上も見込めて歓迎のはずだったが、緒方監督ら現場首脳陣はそういうチャラチャラした雰囲気を嫌った。これは何も今年だけが特別というわけではない。

これまで、少なくとも緒方体制下ではずっとこういうムードが自然と保たれていた。戦いが始まる前から1人だけが主役になる。しかも移籍してきた人間が前からいたメンバーを差し置いてスポットライトを浴びるような状況になれば、チームの歯車は狂ってしまう。そうなる流れを読んでいたからこそ緒方監督を筆頭に首脳陣はキャンプイン前から『3人を除いて横一線』という厳しい方針を打ち出した。

これでベテランから若手まで多くの選手たちのやる気が促され、何より長野本人も『ヤバい』とギアをロー状態からいきなりトップへと入れざるを得なくなった」

加えて補足すれば、元来から長野は人一倍の気配り屋。自分のことよりも他人の気持ちを考える性格の持ち主で、巨人時代からも定評があった。広島側から水面下で「チーム合流はキャンプイン初日からで構わない」と通達されていたにもかかわらず、宮崎・日南での先乗り合同自主トレに率先して参加したのも新天地に早めに馴染もうという気持ちの表れであり、コイの面々に自分はVIP待遇でも何でもないと訴えたかったからであろうと十二分に推察できる。

そんな熱いハートを持つ男と考えれば、なおさらだ。レギュラーの座も確約されていない中、他の主力よりも移籍したばかりの自分が注目されるなんておこがましい。そして今は生き残りをかけ、低位置獲りに集中する大事な時期なのだからそっとしておいてほしい――。長野の心情を代弁すれば、おそらくこういうトーンではなかろうか。

思えば入団会見で長野は「若い選手の多いカープに入って、学ぶことはたくさんある」と語っていた。すでに厳しい生存競争に揉まれつつハードな練習をこなしている赤い背番号5は常勝軍団カープの強さの真髄を早々とキャンプで体感し、学び取っていることだろう。(新田日明)

(※引用元 WEDGE Infinity

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