開幕当初の不振は幻だったのか?交流戦こそ出鼻をくじかれたが、鯉の季節から本来の力を取り戻した広島は6月8日現在、2位の巨人に2.5ゲーム差をつけ「定位置」の首位に立っている。
そんな勢いづく広島だが、一人だけ好調の波に取り残されているのが、昨シーズンまでの不動の先頭打者・田中広輔だ。果たしてプロ入り以来、最大の不振に苦しむ田中は復調できるのだろうか!?
打撃だけでなく守備までも…。深刻な大スランプ
極度なスランプに苦しむ田中広輔。ここまで59試合で打率.199、3本塁打、20打点と、厳しい数字が並ぶ。打率は規定打席に到達した打者のなかでワーストの31位だ。
また、今シーズンの田中は打撃のみならず、守備でも精彩を欠いている。ここまでの失策は6。昨シーズンの失策数7に早くも並ぼうとしている。田中の失策から致命的な失点となるケースも多く、口さがないファンから敗戦時の戦犯として名前が挙がることは1度や2度ではなかった。
チャンスで粘ることなく凡打に倒れ、守備でもミスを重ねる姿に、ファンの不満も爆発。ネットを中心に辛辣なバッシングが噴出している。「田中はもう広島にいらない」という心ない野次までも出る始末に。この騒動は、それほどまでに田中の不振が深刻であったことを裏付ける一幕であった。
現在、田中は599試合連続でフルイニング出場を続けている。このまま今シーズンも無事にこなせば、鳥谷敬(阪神)の持つ遊撃での連続フルイニング出場667試合を追い越すであろう偉業にチャレンジしているのだ。
その記録を継続させるためかどうかは定かではないが、極度の不振にも関わらず、緒方孝市監督は田中をフルイニングで起用し続けている。そのため、この采配にも批判が集中。「田中の記録とチームの勝利と、どっちが大切なんだ!?」と、偉大な記録すら逆風となる異常事態に発展しているのだ。
これまでに負傷が原因での不振という報道もあった。激務である遊撃のポジションでフルイニング出場を続けている勤続疲労が原因との見方もある。
不動のリードオフマンとしてリーグ3連覇に貢献した田中がここまでの不振に陥るとは誰が想像しただろうか?いずれにせよ、田中の不振は首位をいくチームにとって最大の悩みである。
歴代屈指の遊撃手
かつて広島の遊撃手には、33試合連続安打の高橋慶彦、トリプルスリーの野村謙二郎といった球史に名を馳せるレジェンドがいた。レジェンド2人と比べ、派手な記録こそないが、田中も彼らと遜色ない歴代屈指の遊撃手であると筆者は考える。それは、個人成績以上にチームの勝利に数多く貢献しているからだ。
田中の1番の特徴は、その出塁率の高さにある。昨シーズンも不振に陥り、一時期、8番に打順を下げたこともあったが、出塁率は.362と高水準。1番打者としての出塁率は.376でリーグトップの成績だ。2017年には出塁率.398でリーグ1位の成績を記録するなど、とにかく塁に出る能力に長けているのだ。
出塁率が高いということは、四球を選べている結果ともいえる。昨シーズンも打率は.262と平凡な数字ながら、リーグ8位の75四球を選ぶなど、打てない時でも粘って出塁をすることで仕事を果たした。また、リーグ2位の17死球も出塁率を高めている要因だ。死球でも塁に出る泥臭さも魅力の1つである。
粘りのある打撃で出塁をもぎ取るスタイルは、相手投手に与えるダメージは非常に大きい。初回から先頭の田中が球数を稼げば、じわじわとボディブローのように効いてくる。それが終盤の逆転劇を呼び込む要因となっていると考える。「逆転の広島」には田中の粘りの打撃が陰ながら貢献しているのだ。
それ以外にも、9番打者として打席に立った投手がイニング間で次の回への投球準備をする時間を稼ぐため、打ちたい球を見逃すなど、自身を犠牲にするプレーを随所に見せる。
これらを見る限り、田中ほど理想的な1番打者はほかにいない。そう思えるのは筆者だけだろうか?今でこそ不振で下位の打順についているが、やはり「1番・田中」の復活なくして広島優勝は厳しいと強く考える。
復活は近いぞ!田中広輔を信じろ!
直近の田中は、6月5日の西武戦では満塁本塁打を含む3安打5打点の固め打ちと大爆発。久々にお立ち台に上がるなど復調の兆しが見えてきた。
2016年のクライマックスシリーズで打率.833の歴代最高記録をマークしたように、打ち出すと止まらないのが田中のもう1つの特徴でもある。この事例からも、「田中復活」の足音が近づいてきている気がしているファンは少なくはないはずだ。
3連覇を成し遂げたチームの遊撃手で、トップバッター。これだけの実績ある選手は代えが効かない。長いペナントレースを見据えたとき、実績のある選手が調子を取り戻すためにも我慢して使うことも必要だ。
極度の不振で不満を持つファンも多いだろうが、今こそどん底から這い上がろうとしている田中を信じてみてはいかがだろうか?
秋にはトップバッターとして優勝に貢献し、フルイニング出場の記録を打ち立てる田中広輔がいることを信じて止まない。(文:井上智博)(※成績は6月8日現在)
(※引用元 週刊野球太郎)