セイヤの呪いならぬ、セイヤの福音か。唯一無二の中心打者として君臨した鈴木誠也がメジャー移籍した広島が、開幕から5連勝と絶好調だ。開幕前の順位予想ではセ・リーグの最低人気を不動のものとしていたが、いざ開幕すると投打の歯車ががっちり。主砲流出の影響を全く感じさせていない。
鈴木が抜けた4番には、開幕から36歳のベテラン・松山竜平が座った。好調なバットで開幕からの連勝を支えていたが、3月30日の阪神戦では休養目的でベンチスタート。代わりに新外国人のマクブルームを4番に入れると2安打1打点と勝利に貢献し、佐々岡真司監督の采配も冴え渡っている。
今季は末包昇大、黒原拓未、松本竜也、中村健人と4人もの新人が開幕1軍入りを果たした。中村奨成、宇草孔基ら期待の若手も初の開幕1軍切符をゲットし、大幅に新陳代謝をはかった。特に鈴木の後継者とも期待される末包は開幕戦で3安打猛打賞、1打点と活躍すると、そこから4試合連続安打と存在感を発揮している。
昨夏に金メダルを獲得した侍ジャパンでも不動の4番を務めた鈴木。その抜けた穴は余りにも大きい。バットだけではなく、走塁や外野守備も優れた5ツールプレーヤーでもあった。だが、昨年までの鈴木がチームにおいて、精神的な部分も含めて本当の中心にいたかというと、そうではないと見る関係者も実は多い。
「練習量や野球に対する取り組み方は、誰もが認めるところ。若手に最高の教材だったのも間違いない。ただし、負けが込んでくると明らかにフラストレーションをためこみ、周囲に決してプラスではない言動もゼロではなかった」とある球団関係者は口にする。
孤高の存在となりつつあった鈴木が抜けたことで重しが取れ、空いた椅子を巡って若手が激しく競争する。そうしたプラス面での相乗効果が、チームの雰囲気にも前向きに働いている。
広島には今回と非常に似たケースがつい最近にもあった。2016年、絶対的エースだった前田健太がドジャースへ移籍。前年の2015年に黒田博樹が8年ぶりに古巣復帰していたものの、それまで長く孤高のエースとしてチームを支えていたのが前田だった。多くの関係者やファンがその抜けた穴を不安視していたが、チームはそれに反発するかのように25年ぶりにリーグ優勝を飾ると、そこから破竹のセ・リーグ3連覇を達成したのだ。
前田についても、実績と比較してチームを背負って立つような精神的な影響力には首をかしげる場面が多かった。細かな部分ではさまざまな違いがあるのは確かだが、鈴木も前田もチームを去る前の立ち位置としては「どこか浮いた存在」として共通点を見出す関係者は決して少なくない。
前田退団後にそのショックを振り払うかのようにチームが大きく成長した2016年に続き、3年目の佐々岡カープはこの好調を持続できるか。前回、前田の穴は大瀬良大地、野村祐輔、九里亜蓮、薮田和樹、岡田明丈らが奮起して埋めた。最後まで駆け抜ければ、セイヤの呪いどころか、セイヤの福音として多くのファンの記憶に刻まれるシーズンとなるに違いない。
(※引用元 CoCoKARA)