【選手との距離感】
── 監督に就任され、現役時代同様にチームを”家族”と表現されています。現役時代は選手の兄貴分でしたが、監督となった今は父親という存在でしょうか。
新井 時と場合によって変わってくると思います。ある時は厳しい父親のように、ある時は優しい母親のように、またある時は頼りがいのある兄貴のように……。そこはひとりで何役もしないといけないと思っています。
── 家族にもいろんな形があります。家長が厳しくすることもひとつの形。昨年秋のキャンプ中は温かい家族のように映りましたが、選手たちを厳しく叱ることも必要になってくるのではないでしょうか。
新井 もちろん出てきます。たとえば、やらなければいけないことを怠った者、チームの輪を乱す者に対しては厳しくなると思います。
── 結果ではなく、あくまで取り組む姿勢だと。
新井 そうですね。打たれました、打てませんでした、エラーしましたなど……そういうことに関しては、あまりうるさく言うつもりはありません。家族と表現するチームとして、何が大前提にあるかというと、勝利なんです。勝つために、優勝するために、日本一になるために、勝つことが大前提になるので、その輪を乱すことはすごく嫌いです。そこに対しては厳しくなると思います。
ただその時も、怒るのではなく叱る。怒るというのは自分の感情なので、それを選手にぶつけるつもりはありません。自分のなかで気に食わないことがあるからとか、イライラしているから怒るいうのは絶対にしません。選手のことを考えて叱る。
── 監督となったことで選手との距離感の取り方が難しくなるのではないかと思っていましたが、就任後も現役時代と変わらないように感じます。
新井 現役時代、一緒にやってきた選手もいますし、やっていない選手もいる。調べてみたら、一緒にやっていない選手のほうが多い。一緒にやってきた選手は、自分がどういう考えで、どういう意識でプレーしていたのかをわかっている部分があると思います。でも、一緒にやっていない選手は「どういう人なんだろう?」というのが先にくるでしょう。もちろん、一緒にやってきた選手のなかにも「新井さん、監督になったらどうなるんだろう?」と思う人はいるはずです。
そうしたことをいろいろ考えたら、監督だからといって偉そうにするのではなく、ありのままでいこうと。そうすることが彼らにとって一番いいんじゃないかと。自分がちょっとでも偉そうにしてしまうと、彼らが構えてしまう。こっちが構えなければみんなも構えずに済むと思ったので、自分はありのまま、素のまま接しようと思いました。
【教えるよりも気づかせる】
── 勝てる家族づくりとして、藤井彰人氏にヘッドコーチを要請されました。あらためてその理由をお聞かせください。
新井 就任会見でも言わせてもらったように、球団から監督の打診をいただいた時、自分のなかに断る選択肢はありませんでした。それはカープに大きな恩があるからです。1回出て行ったのに、帰ってこいと言っていただいた。しかも3連覇も経験させてもらって、すごくいい思いをさせてもらいました。その球団にお願いされたら「無理です」という選択はありません。
その時、ヘッドコーチは藤井というのがすぐ頭にあったんです。鈴木(清明/球団本部長)さんに「ヘッドコーチとして藤井に声をかけたいと思うのですがいいですか」と尋ねると、すぐに「いいぞ」と言ってもらえたので、本人に連絡して「頼む」とお願いしました。
── 藤井コーチとは、阪神時代に4年間一緒にプレーされています。
新井 同級生でビジターの時はしょっちゅう一緒に食事に行っていました。ずっと野球の話をしていて、彼がどういう考えを持っているのかというのはわかっています。また、引退してからすぐにBCリーグの福井にコーチとして行き、タイガースの二軍コーチ、一軍コーチも歴任して、経験もある。
現役の時から、彼の視野の広さや深さに何度も驚かされて、すごいなといつも思っていました。プラス、本当に周りを大切にして、コミュニケーション能力も高い。なんとかヘッドコーチをやってもらいたいと思っていたんです。
── 藤井ヘッドコーチのほか新任コーチ陣も加わった秋季キャンプでは、コーチ間の連携をとりながら、しっかりまとめていた印象が強くあります。
新井 まだ秋季キャンプだけですが、自分にはない見え方をジェイ(藤井コーチ)はしているなと思いました。さすがキャッチャーだなと。秋季キャンプに遅れて合流したしなかで、こちらが「なるほどな」と感じることが多々ありました。
── コーチ陣で共有されている指導方針はあるのですか?
新井 ジェイや(新井)良太(二軍打撃コーチ)も言っているけど、「一方通行は嫌い」と。「あれしなさい」「これしなさい」は好きじゃない。やっぱり、対話をしないといけないと思っています。対話をしたなかで一緒になって上達していくものですから。それはレギュラーだけでなく、若い選手にも「どう考えているの?」とか、「じゃあ、こうしてみたらいいんじゃないの?」とか、教えることよりも気づかせることが大切だと思っています。それがコーチの仕事だと。
もちろん時と場合によりますが、これが絶対という時には「こうやったほうがいいぞ」と言う時もあるでしょう。ただ、そう言った時には放り投げるのではなく、根気強く見てあげないといけない。言ってすぐできることもあれば、できないこともある。言いっぱなしはいけません。
── 秋季キャンプでは、打撃コーチがずっと指導していた末包(昇大)選手を新井監督が指導された直後、その内容をコーチに細かく伝える姿も見えました。首脳陣のなかで、選手個々の課題や育成プランが共有されていると感じましたが、そのあたりはいかがですか。
新井 それはとても大切です。一番やっちゃいけないのは選手が迷うことです。あの人はこう言っていたけど、この人はこう言っているとなると、選手が迷ってしまう。そういった情報の共有は、コーチにはしっかりしてくれよと言っています。もちろん自分が末包に伝えたことは、迎祐一郎や朝山東洋(ともに打撃コーチ)に「このように言ったから」と伝えています。コーチ同士で共有することは、一軍、二軍分け隔てなくやらないといけないと思っています。
【優しいけど甘くはない】
── 新井監督の現役時代は、2000本安打やリーグ3連覇を成し遂げたという栄光だけでなく、苦しい時期も過ごされました。それに猛練習を課された下積み時代もありました。いろんな経験をされていることで、いろんな選手の気持ちがわかり、言葉をかけられているのかなと感じます。
新井 自分はセンスがある選手ではなかったですし、下手くそでした。そこから叩かれて、首根っこをつかまれ、練習させられて、20年間も現役をさせてもらいました。そういう意味では、今の選手は才能だらけに見える。
たとえば、いま自分がプロ野球の球団に指名されたとしても、間違いなく育成枠です。あの当時、育成選手制度がなかっただけ。そういう意味で、みんないいものを持っているなと。本当に楽しみだなと感じています。
── とはいえ、チームは4年連続Bクラスという現実があります。シーズンが始まれば勝敗がつきまといます。浮き沈みがあるペナントレースのなかで、選手の精神状態やチームの雰囲気を安定させるためには何が必要でしょうか。
新井 シーズンは長いので、はっきり言ってうまくいくことよりも、うまくいかないことのほうが多いと思います。勝つこともあれば、負けることもある、連勝することもあれば、連敗することもある。ただ、うまくいかない時のほうが大切だと思っています。負けました、エラーしました、ミスしました、打てませんでした……じゃあ、次にどうしていくのか。あらかじめそういう空気をつくっておかないといけないと思うし、自分の考えを伝えておくのもひとつでしょう。
── 新井監督自身、就任時から前向きなコメントを発信されていますが、最悪のケースを想定しながらチームづくりをされているのでしょうか。
新井 チームが順調な時は、監督って何もしなくていいんですよ。「よし、いけー!」で終わり(笑)。でも逆境の時は、僕は船頭だと思っているので、大雨が降っていようが、強風がこようが、自分がしっかり道しるべにならないといけない。
── 今は監督に就任されたばかりで歓迎と期待の声ばかりですが、シーズンが始まれば厳しい声も聞こえてくるかもしれません。
新井 もちろんです。でも現役を20年やりましたけど、変な意味でも、ネガティブな意味でもなく、叩かれることには慣れています(笑)。監督として、ある時は選手を守ってやらないといけないし、選手を突き放さないといけない場面もある。基本的に自分は優しい性格だと思いますが、甘くはないよと。カープのために何ができるのかというのを常に考えながら、精一杯やっていきたいと思っています。
(※引用元 web Sportiva)