正捕手の座を射止めた選手
7月28日より、敵地・甲子園球場に乗り込んでの首位攻防戦は2敗1分けに終わった広島だが、攻防戦前日、27日の東京ヤクルト戦に勝利し、今季最長の10連勝を飾った。同日、阪神が巨人に敗れたため一時とはいえ、首位の座に立ったものの、首位攻防戦を負け越し、1ゲーム差の2位に(30日現在)。だが、広島は25日時点で「50勝のリーグ1番乗り」も果たしている。
「広島の50勝1番乗りは、8度目。過去7回のうち6回がリーグ優勝につながっています」(スポーツ紙記者)
その「50勝1番乗り」を果たしたヤクルト3連戦だが、ネット裏でこんな声も囁かれていた。
「広島の正捕手は坂倉(将吾=25)なんだな」
この言葉は意味深い。チーム関係者やファンがやきもきしていた正捕手問題が“解決”しつつあるからだ。
話は21日の一軍練習に遡る。新井貴浩監督(46)は、中村奨成(24)とベテランの磯村嘉孝(30)の両捕手を合流させた。
「前任監督の佐々岡真司氏(55)は、若い坂倉にはキャッチャーだけでなく、一塁、三塁なども守らせてきました。坂倉の打撃力を活かすためであり、會澤翼(35)、磯村が円熟期にあって、17年ドラフト1位の中村も育てなければなりませんでした。当時は石原慶幸(43=現コーチ)も現役。レギュラーが務まる複数の捕手を使い分けていくつもりでした」(地元メディア関係者)
しかし、その複数制に「待った」を掛けたのが、今季から指揮を執る新井監督だった。新井監督は「坂倉を育てる」と決め、キャッチャーに専念させたのである。
「會澤はサブ捕手となり、磯村は3番手。3番手捕手は試合中にアクシデントが起きた際に重宝されます。たとえば、試合の流れでスタメン捕手に代打を出し、途中出場した次の捕手が怪我をしたときとか。目下、坂倉はクリーンアップの5番も任されるようになり、正捕手の座を掴んだようです」(前出・同)
広島のキャッチャーは「スタメンが坂倉、まれに會澤」が定着した。プロ野球は競争、結果が全てとはいえ、トバッチリを食ったのが中村と磯村だ。
12球団最多の捕手陣
磯村は7月10日に一軍登録を抹消されている。出番がほとんどないからだ。キャリアハイは19年の65試合。いわゆる“高卒叩き上げ”のいぶし銀の捕手だが、今シーズンはマスクをかぶったのは9イニングのみ。坂倉が540イニング強、會澤が130イニング以上だから、「トレードに放出するために一軍登録を抹消されたのでは?」との憶測も流れた。それが再昇格したのだから、新井監督が必要な選手と見ているのは間違いない。しかし、同時にこんな指摘も聞かれた。
「阪神との首位攻防戦となれば、一球のミスが試合を左右しかねません。つまり、サブ捕手の會澤に何かあったとき、若い石原貴規(25)や中村には任せられないわけです。広島が優勝争いをしていないのなら話は別です。優勝争いを続けていく以上、磯村を第3捕手としてベンチに置いていかなければなりません」(前出・同)
磯村がそんな自身のポジショニングをどう思っているのか…。
実は「あと52日」の一軍登録で、国内フリーエージェント権を取得できるのだ(28日時点)。昨年オフ、FA権を行使してオリックスから日本ハムに移籍した伏見寅威(33)、同じくDeNAからソフトバンクに行った嶺井博希(32)ような“実力を持った控え捕手”が好評価された。磯村が権利取得し、決断した場合、複数の球団が興味を示すはずだ。しかも、人的・金銭的補償の発生しないCランク選手である。
「広島の支配下登録の捕手は8人もいて、12球団最多です。でも、2年目の髙木翔斗は、高校3年夏の岐阜県大会6試合で3ホーマーを放った打撃力があり、高卒ルーキーの清水叶人(19)は本当に肩が強い。髙木、清水ともに守備センスが高く、昨年、育成選手から昇格した持丸泰輝(21)も守備だけなら一軍レベルにあると思います」
ウエスタン・リーグの対戦チームのスタッフもこのように称賛するほど、控えも充実している。
中村は実質、外野手
中村も別の意味でつらい立場が続きそうだ。中村たちが一軍登録されて以降、広島は「捕手4人制」で試合に臨んでいる。
「中村は実質、外野手です。6月13日以降、4番も務めてきた西川龍馬(28)が故障してしまい、ファームで打撃成績が上がって来た中村にチャンスが巡ってきました。今の中村は『試合に出たい』気持ちが強いので、キャッチャーのポジションに執着していませんが」(前出・地元メディア関係者)
新井監督は中村を一軍練習に参加させた後、記者団に「コウさん(高信二・二軍監督=56)と話していくなかで、打撃はファームでは抜けていると。走力もある。もったいないので、キャッチャー一本でやるより外野にしたほうがいいんじゃないかって」と話していた。中村も外野手での起用に納得しているようだが、こんな声も。
「坂倉とは1学年しか違いません。広島球団は16年ドラフト会議で坂倉を指名したとき、しばらくはキャッチャーの指名はしない予定でした。でも、17年の夏の甲子園大会で中村が『大会6本塁打』の新記録を達成しました。あれで地元広島の広陵高校から生まれたスター候補を無視できなくなってしまいました。坂倉、中村ともに身体能力が高かったので、近年中にどちらかをコンバートすると当時から囁かれていました」(チーム関係者)
中村は地元広島の大きな期待を背負っての入団だったが、1年目はファーム暮らしだった。ファームでの打率は2割1厘、当時の水本勝己二軍監督(54)も「いくら騒がれても、体格、体力が一軍レベルに達していない限り、特別扱いせん!」の方針を変えなかった。
「金属バットと木製バットの違いに苦しんでいた感もあります」(前出・同)
また、元主砲・鈴木誠也(28 )がポスティングシステムでのメジャーリーグ挑戦を表明した21年オフ、「中村に鈴木の抜けた右翼を守らせ、いずれは主砲に」の声も出ていた。しかし、キャッチャーに未練があったのか、当時は首脳陣の外野専念の打診に即答できなかったという。坂倉との差が大きく開いた今では、
「とにかく、自分ができるプレーを一生懸命やって、チームの力になれればいいかなと思います」(21日練習後)
と力強く語っていたが、チャンスをモノにできなかった。
「中村が一軍に昇格して次の対戦カードはヤクルトでした。そのヤクルト3連戦ではピーターズ(30)、高橋奎二(26)、石川雅規(43)の左投手の先発が予想され、その通りとなりました。右打者の中村を昇格させた理由はこの3連戦にあったと言っても過言ではありません」(前出・関係者)
本人も分かっていたのだろう。「右打者も少ないので、自分の中ではチャンスと思ってやっていければ!」と語り、新井監督も3連戦の初戦、「1番右翼」で中村をスタメン起用した。しかし、結果は3打数ノーヒット、2三振を喫した。6回の第4打席では代打を送られている。首位攻防戦となった28日の阪神戦でも、チャンスを活かせなかった。左腕・岩貞祐太(31)がリリーフ投入された8回、代打で登場したが、快音は聞かれなかった。
「そんなにたくさんのチャンスを与えてもらえる立場じゃないと思う」
これは、一軍昇格後初めて代打出場した23日の試合後に、中村がもらしていた言葉だ。
今季序盤はケガを負うなど不運なところもあったが、「現役ドラフトの名簿入りの有力候補」なんて話も飛び交っている。インパクトのある結果を残さなければ、一軍出場も危うい状況だ。
僅差での首位争いが続けば、磯村はベンチで待機する時間も長くなっていく。中村は焦燥感でいっぱいだろうが、30日の阪神戦、思い出の甲子園で遊撃内野安打を放った。今季9打席目にしてようやくヒットが出たが、優勝争いを続けるチームの要になれるか、これからが正念場だ。
(※引用元 デイリー新潮)