こんにちは、文春野球コラム5回目の登板になります。中田廉です!
9月6日現在、カープの順位は2位で、1位の阪神はマジック13。そのゲーム差は7.5。僕自身は現役を終え、やや遅咲きのカープファンとして観戦にハマっており、カープの勝敗に一喜一憂する日々を過ごしています。
そして、今回は今シーズンのカープ躍進を支えていると言っても過言ではない、矢崎拓也投手の魅力について書きたいと思います。
独特な矢崎語録も魅力の一つ
ルーキーイヤーの2021年から絶対的クローザーとして定着していた栗林良吏投手ですが、今季は開幕から不調が続き、そして右足内転筋を痛めてシーズン序盤に登録抹消となりました。
そんな中、5月9日の中日戦。岐阜・長良川球場の最終回のマウンドには、矢崎投手が上がりました。1対0という緊迫したゲーム状況でしたが、しっかりと三者凡退で締めて、今シーズン初セーブ。そこから見事に“代役クローザー”の座を掴み取りました。
おそらく矢崎投手は、試合展開や点差、相手チームの打順などを気にせず投げていると思います。心を無にして精神を研ぎ澄まし、どこで投げても自分ができる事は変わらない、全てが自分の収穫という考えが、抑えというポジションにハマったのでしょう。
10セーブ目をあげた試合のお立ち台で放った「運が良かったらいいなと思ってマウンドに上がりました」といったような独特な矢崎語録も魅力の一つです。このコメントは本心だな、綺麗事ではないな、と矢崎投手の人間性を知っているからこそ感じられる部分です。本当に律儀で優しい人間なんです。
そんなチームに欠かせない存在になった矢崎投手との出会いは、2017年の合同自主トレーニングで、入団したばかりの矢崎投手の方から挨拶をしにきてくれました。
当時はあまり会話した記憶はありませんが、練習を見る限りは、体が強く、運動能力も高く、尚且つ慶應大学卒で知性に満ち溢れていて(ここに関しては今の関係性だからこそのイジりも含んでいます(笑))、カープには少ない上背がない右のパワー型先発投手が出てきたという印象でした。
すると、その年の4月7日のヤクルト戦で、初登板、初先発、初勝利、9回1死まで無安打無失点投球という素晴らしい投球を演じました。
初登板後は結果を出すのに苦労している姿を近くで見ていました。本当に前向きに自分の為になるんじゃないかという事に果敢に取り組んでいました。矢崎投手が二軍時代にファットアダプテーション(脂質代謝)にチャレンジしている姿を由宇球場の食事会場で見た時に、もしかしたら仲良くなれるのではないかと勝手に思った事を思い出します。
また、食事・技術・トレーニング・メカニックに対する探究心が素晴らしく、合理的で根拠がしっかりしているので、結果が出ていない時期でもそれに左右されずに取り組むことができているなと、自分も現役時代は勉強になっていました。
また、時間の使い方も上手でした。語弊が生じるかもしれませんが、長く練習すれば良いかと言われればそうじゃないなと矢崎投手が実践してくれた気がしています。
マウンド上では焦らない矢崎投手が動揺を隠せなかった出来事
昨シーズンは自己最多の47試合に登板して、セットアッパーとしても結果を残し、期待値が上がる中で迎えた今シーズンは既に47試合に登板。シーズン途中からは栗林投手とダブルクローザー体制にもなり、24セーブを記録しています。
中継ぎ投手として評価される50試合も目前ですが、チームの為に腕をぶりぶり振って投げてもらい、あくまでも50試合はその通過点。残り20試合を切って最後の戦いです。馬車馬の如く、鼻息荒く、大胸筋をしっかり使って背中のパワーを前面で止めて、地面反力を上腕筋から指先まで伝達させて相手打者を力で抑えてください。
そして、ここまで矢崎投手を誉め上げさせてもらいましたが、ここから矢崎投手を困らせるような暴露話をぶっ込んでいきます。
2022年の自主トレin慶應大学野球場(日吉グラウンド)。自家用車のタイヤのキャリパー部に作業バー突き刺さり事件。
その名の通り、矢崎投手の車のホイールの溝に作業バーがすっぽりはまってしまっていたんです。マウンド上ではピンチの時でも焦らない矢崎投手が、顔を真っ赤にして「廉さん! ちょっと外を見てください!」と動揺を隠せず、その姿を見て思わず爆笑してしまいました(笑)。
その後は、空き時間にお台場の室内型遊園地に行き、2人で遊んだのも良い思い出です。そこで前田健太さんにも矢崎投手を紹介できました。
なかなかファンの方には伝わりにくいのですが、矢崎投手はとても可愛げがある後輩なんです。段々と打ち解けていく中で、たまに僕に敬語を使わないで話してくれる時が一番可愛いなと思っています(笑)。
矢崎投手にとって大きかった佐々岡真司前監督の存在
そんなことはさて置き、二軍時代に投手コーチとして、後に一軍監督として指導してもらった佐々岡真司さんの存在は、矢崎投手にとって大きかったと思います。
プロ野球選手として生きていくために必要なことを、矢崎投手の能力や将来性を感じていたからこそ、時に厳しく、時に楽しく、指導されていたのではないかと感じていました。佐々岡さんとカープで一緒にプレーした方はお分かりだと思います。
佐々岡さんのためにも、とにかく矢崎投手には何年も一軍で投げてもらい、一軍のマウンドで相手打者を圧倒できるように今以上に頑張ってほしいです。
何度もこのコラムで言わせていただくのですが、野球選手の凄さ、勝負の世界で戦うかっこよさを現役引退してから改めて感じています。選手の皆さんには最敬礼です。
私が偉そうに言う事ではないのですが、矢崎投手だけでなく、選手の皆さんにはユニフォームをできるだけ長く着てもらいたい、現役生活を長く送ってもらいたいと心から願っております。
私は現役を引退してからもう少しで1年が経ちます。第二の人生は毎日が新鮮で、たくさんの人に助けてもらいながら、色々なお仕事にチャレンジさせてもらっています。これから間違いなく色々な迷いや壁にぶち当たると覚悟しながら、自分の武器は何なのかを色々な事に挑戦しながら見つけていきたいなと思っています。
このコラム執筆もそうですが、僕の人生において「挑戦する」というテーマはずっと持ち続けたいと思っています。トレーニングが大好きで、世界で戦える体を作るためにフィジーカーとして今でも鍛え続けています。
さらに、気象予報士を目指し、少しずつですが勉強も始めました。あとは、ベンチリポーターのお仕事もしたいと思っています(一生懸命頑張りますので、お仕事お待ちしています!)。
最後になりますが、コラムを読んでいただき本当にありがとうございました。
(※引用元 文春オンライン)