プロ野球のフリーエージェント(FA)申請期限となる14日、広島・西川龍馬(28)が国内FA権行使を表明。来季4年ぶりのV奪回が至上命題のソフトバンクも恒例の〝爆買い〟リストに入れていたが、リーグ3連覇中のオリックスへの移籍が決定的となった。昨年オフには日本ハムからFAの近藤健介外野手(30)を巡る争奪戦で、ソフトバンクのマネーゲームの前に敗れたが、チーム編成で迷走が目立つライバルを横目に、オリックスがストーブリーグで先勝という形になりそうだ。(山戸英州)
興行面の効果も
西川は昨季取得した国内FA権の行使を見送って今季に臨み、夏場に右脇腹負傷で離脱もあったが、出場109試合でリーグ2位の打率・305を記録。今季就任の新井監督の要望に応え、打順も1番から5番までこなした。広島は残留交渉で今季年俸1億2000万円(推定)から増額のうえ複数年契約を提示したとみられるが、FA宣言に踏み切ったことで「ウチは宣言残留は基本、認められていない。他球団の条件が良ければ、そちらに行くのはごく自然な流れ」と球団関係者は受け止めている。
かねて動向を熱心にチェックしていたのが、西川の地元大阪のオリックス。昨オフは主砲の吉田がメジャーへ移籍したため、同じ左の強打者の森を西武からFA補強して3連覇を実現した。惜しくも日本一連覇を逃した今オフも、絶対エース山本のメジャー流出が決定的。4連覇に向けた補強として、中嶋監督が得意とする猫の目打線にピタリとハマる西川で打線強化を図る。
本拠地の京セラドーム大阪にほど近い大阪市港区で小、中学校時代を過ごした西川が加われば、森に続いてのUターン移籍というストーリー性も地元ファンを刺激して興行面への効果も期待できる。予算の面でも不安はなく、広島サイドは「ウチではとても太刀打ちできない条件を用意しているようだ」とすでに白旗だ。
一方、1年前にはオリックスの森と近藤の両獲り阻止に成功したソフトバンクだが、今回の西川を補強する動きにはチーム内からも「正直、補強ポイントじゃないですよね」などと疑問の声が上がっていた。左打ち外野手の近藤を中軸に迎えた今季、藤本前監督は開幕当初から打線の左打者偏重を問題視。右打ちの外国人打者が総崩れのまま3位に終わり、退任会見でもなお「今年1年間やって、しんどかったのは左打者がズラリと並ぶこと」と苦言を連ねた。
それでも飽和気味の左打ちの外野手、西川に触手を伸ばした背景には、3年連続V逸でも〝無傷〟だったフロント首脳に「相当の焦りがあるようだ」(球団関係者)。現場のニーズはそっちのけで、孫オーナーを始めとする親会社への〝アピール補強〟というわけだ。こうしたチーム内の冷めた空気は本人にも伝わるもの。どれだけ札束を積まれようと、現場で歓迎されない不安があるなら、西川が福岡行きを躊躇して当然だろう。
資金力はあってもチーム編成のビジョンが不明瞭で勝てない球団といえば、むしろ一昔前はオリックスのことだった。2014年オフには西武から中島、日本ハムからは小谷野をFAで両獲り成功も、ともに守備位置は一、三塁で重なり、当時の球団関係者は「フロント内の手柄争いで、2つの派閥がそれぞれ三塁手を獲りにいった結果」とあきれた内情を明かしていた。現場無視でフロントが暴走した補強策は実を結ばず、15年から6年連続Bクラスに沈んだ。
今やフロントと現場は一枚岩。選手時代は阪急―オリックスで、指導者としても日本ハムで気脈を通じてきた福良GMと中嶋監督で意思統一が図られ、育成と補強の両輪で黄金時代を呼び込んだ。10年足らずで両球団の立場はすっかり逆転。ソフトバンクが覇権を奪回しようにも、小久保新監督や選手の奮闘だけでは限界が見えている。
(※引用元 夕刊フジ)