春から広島東洋カープの周辺が騒がしい。
3月29日のセ・リーグ開幕から5カード連続で負け越しを喫し、4月15日現在、借金7の最下位に沈んでいるからだが、5カード連続負け越しは球団史上初の事態だという。また、開幕から4カード以上連続して負け越したチームが優勝した前例はなく、早くも「優勝確率0%」というスポーツ紙の見出しも躍った。
4月10日のヤクルト戦では、延長十回に大量12点を失う、象徴的な惨敗を喫した。昨季までセ・リーグ3連覇を成し遂げたカープの突然の凋落(ちょうらく)。「カープに何が起きたのか?」という論調の報道も目立っている。
とはいえ、まだ開幕してわずか2週間である。どんなに強いチームだろうと、年間通して独走し続けるわけではない。晴れの日もあれば、雨の日も風の日もある。それがペナントレースというものだろう。カープにとっては、最初にいきなり集中豪雨がやってきただけ、というポジティブな考え方もできる。
なにしろ、現在の主力の多くは20代から30歳までの若い年齢層である。若くして修羅場をくぐってきたキャリアが生きるのは、むしろこれからだ。この時点で優勝を絶望視するのは、いくらなんでも気が早すぎる。
一方で、気になることもある。主軸の丸佳浩がフリーエージェント(FA)権を行使して巨人に移籍して、精神的支柱だったベテランの新井貴浩が引退したことは間違いなく痛い。ただ、丸の穴は走攻守にポテンシャルの高い野間峻祥(たかよし)が奮闘して、今のところ最大限のカバーをしている。
攻撃以上に綻(ほころ)びが目立つのは、守備面である。2016年の優勝時にはリーグ143試合でチーム合計67失策(守備率・988)と安定していたものが、今季は開幕15試合で早くも19失策(守備率・968)。守備の乱れがチーム成績の悪化に直結している。
カープは天然芝のマツダスタジアムを本拠地としている。天然芝のグラウンドは、打球が不規則にバウンドしやすく、多少のミスはつきものではある。
だが、守備の名手として知られ、6年連続でゴールデングラブ賞に輝いた菊池涼介や、田中広輔の二遊間コンビまでミスが目立っており、若い投手陣を支えきれなくなっている。当然、今後チーム状態を立て直していく上で、守備の改善は急務になる。
そんな気になる部分はあるものの、今後もカープが極端に弱体化していくことは考えにくい。いくら主力が抜けようとも、この球団には独特のスカウティングと好素材を育て上げる育成ノウハウがあるからだ。
そもそもカープの今の隆盛があるのも、ドラフト戦略の成功に他ならない。1998年から2012年まで15年間にわたって、カープはBクラスに沈む「冬の時代」があった。
主力のスター選手や外国人選手は好条件を提示する他球団に移籍していった。加えて、ドラフト上位候補選手が希望球団に入団できる「逆指名制度」が当時存在していたため、有望な新人選手を確保するのも苦労した。
それでも2006年を最後に逆指名制度が撤廃されると、カープ独自のスカウティングが生きるようになった。
苑田聡彦(としひこ)スカウト統括部長はドラフト候補について語る際、「ウチの練習に耐えられる体かどうか」という言葉を口にする。カープのドラフトを一言で言えば「素材重視」である。完成度の高い即戦力よりも、大化けする可能性のある素材型を狙うことが多い。そしてファームで、カープ伝統の豊富な練習量をこなすことで開花へと導くのだ。
今や不動の4番に座る鈴木誠也は、その典型である。二松学舎大付高(東京)時代は投手だった。その鈴木をカープスカウト陣は「野手の方が開花する可能性が高い」と見込み、さらに地道な調査力を生かして、他球団に先んじてドラフト2位で指名した。
情報があふれる現代において、ドラフト会議でスカウトが存在すら知らない「隠し玉」はほとんどいない。他球団も評価する中で、誰を何番目に獲るか。そのさじ加減がカギを握るのだが、近年のカープはその点が実にうまい。
チームの中核を担う鈴木も菊池涼も、そして17年に15勝を挙げた薮田和樹もドラフト2位指名だった。ドラフト会議直後は「順位が高すぎるのでは?」という声もあった。だが、いずれも他球団の動向を調査した上での判断であり、彼らの存在なくては今のカープはなかっただろう。
田中広に至ってはドラフト3位指名だが、13年ドラフト当時の球団の評価は「外れ1位候補」だったという。まさか3位まで残っていると思わず、スカウト陣は獲得を諦めていた。ドラフト会議当日にテーブルについた松田元(はじめ)オーナーが、「(3位まで田中広が)指名されとらんぞ」と気づいて慌てて3位指名。幸運なエピソードに思えるが、カープスカウト陣が力量を見極める力が確かだったとも取れる。
こうして獲得した若い有望選手を、野村謙二郎前監督が根気強く起用して芽を出し、2015年に緒方孝市監督が就任したころになって花が咲いた。それがリーグ3連覇へとつながっていった。
黄金期を迎えても、編成陣は着々と種を蒔いていた。近年のドラフト会議では、17年に夏の甲子園で6本塁打を放った捕手の中村奨成(しょうせい)を1位指名し、昨年は超高校級ショートの小園海斗(かいと)を1位指名。近未来のスター候補の獲得に成功している。
他にも、16年のドラフト4位でシュアな打撃が魅力の坂倉将吾ら、イキのいい若手は育ちつつある。働き盛りの主力に衰えが見えてきたとき、彼らがスムーズに台頭できればチームは安泰だろう。
シーズン前、菊池涼にインタビューする機会があった。丸という同学年の戦友が抜けた痛手を認めながらも、菊池涼はこうも言っていた。
「個々の力だけじゃ絶対に優勝はできない。それはこの3~4年の間にずっと感じていることなので。『個人』が『一丸』とか『家族』という言葉に変わって、みんなでカバーし合ってシーズンを戦い抜く。それが一番大事なので、そのことしか考えてないです」
選手も球団もファンも、一枚岩となって戦うための時間は十分にある。何度も言うように、シーズンはまだ始まったばかりだ。
(※引用元 iRONNA)