前回は鬼軍曹・大下剛史さんの指導で二軍に行きたくてたまらなかったお話をしましたが、そういえば、プロ初本塁打は、大下さんのおかげと言っていいかもしれません。
6月6日、浜松での中日戦でした。私は、ヒザを痛めて欠場した江藤智さんに代わり、七番・ファーストで初のスタメン出場をしました。
4回表無死一、三塁のチャンスで打席が回り、初本塁打です。ただ、単純にうれしいだけの思い出ではありません。先ほども触れたように、私は常々、大下さんから「ストライクは全部振れ。見逃すな」と言われていたんですが、このときは緊張もあって、ファーストストライクの甘い球を見逃してしまったんですよ。すぐベンチから「バカたれ!」と大下さんが怒鳴る。地方球場だったこともあり、それがまたよく響いた。これでさらに緊張した私は、こともあろうに次のクソボールを空振りしてしまった。すぐさま、「このクソバカが!」と殺気立った怒声……。私は「次を見逃したら殺される」と思って、なかば目をつぶって振ったらホームランです。
ベンチに戻って、さすがの大下さんもほめてくれるかなと思ったら「バカたれ!」とまた怒られました。たぶん、本当はすごく喜んでいてくれたと思うんですけどね。
当時は、本当に怖かったし、殺されちゃうのかと思ったときもありましたが、それはすべて当時の話で、いまは大下さんに感謝しかありません。箸にも棒にもかからない、体がでかいだけのルーキーの私に、たくさんのチャンスをくれた。私にとってはかけがえのない経験でした。大下さんがいなかったら今の私はない。それは断言できます。不器用な私は、あのときダメでも使ってもらったことで、プロの一軍の球に段々慣れていくこともできました。
大学の後輩だからと、ひいきするような方ではないと思います。私の中に少しでも可能性があると思ってくれたから、あれほど厳しく指導してくれたんだと思っています。
ただ、大下さんから、そのときのことを聞いたことはありません。そういう人じゃありませんので。
引退するときは、発表前に連絡しました。すると、いつものぶっきらぼうな感じながら、
「おお、やめるんか。よう頑張ったのお。ええ引き際じゃないか」
と言っていただきました。初めてほめてもらいました。
個性派で絶対にブレない人でした。怖いけど、かっこいい人です。ありがとうございました! 大下さんのおかげで、私は19年間、頑張れました。感謝です!
(※引用元 週刊ベースボール)