「怪物」の称号は、高校時代の遺産で終わってしまうのか……。広島の中村奨成は、プロ2年目を終えて、甲子園で魅せた“存在感”を発揮できずにいる。2017年の夏の甲子園で、中村は「時の人」になった。
清原和博(PL学園)の記録を破り、一大会最多となる6本塁打を記録。強肩強打の捕手として、広陵高を牽引して準優勝に導いた。同年のドラフト会議では、中日との競合の末、地元・広島への入団が決まった。プロ1年目は、体格や体力が一軍レベルに達しない限りは特別扱いせず、二軍で鍛えるという、水本勝己・二軍監督の方針で二軍生活に終始した。飛躍が期待された今シーズンは一軍合流も期待されたが、不運が重なった。春季キャンプで「右第一ろっ骨」の疲労骨折で出遅れたほか、6月の二軍戦で頭部に死球を受けて脳震盪を起こしてしまう。故障からは復帰したが、結局、一軍には一度も昇格できなかった。
「本人の自覚がまだまだ足りないと感じますね。真面目な選手なので、練習は一生懸命にやっていますし、技術的に器用でいろいろこなせてしまう。そのためでしょうか、食事や身体のケアを重要視していないようにみえました。アスリートには見えないほど、細くて筋力も少ない。長年、多くの選手を見てきましたが、一シーズンをプレーするには、体力が持たないですよ」(広島の球団関係者)
確かに、体重は70キロ後半から80キロ前半を推移しており、高校時代と比較しても、体が大きくなったという印象はあまり受けない。首脳陣やチームの関係者は、中村本人の身体に対する“意識の低さ”について、警鐘を鳴らしている人もいるという。
一方、元ヤクルト監督で野球解説者の野村克也氏が、広陵高時代の中村について「金属バットの典型的な打ち方」でプロ入り後に木製バットへの対応が苦労するのではないかと指摘していたが、あれから2年。中村の“打撃スタイル”には変化があったのだろうか。
「入団時に比べて、各段に良くなっていいます。ただ、たまに悪いクセが出てしまい、身体が伸び上がってしまう時があります。これは、強く打とうとするから。体の全体の力がつけば、強いスイングができて、強い打球を打てるようになる。そうなるためには、やはり身体をある程度、大きく強くすることが必要不可欠です。中村本人が自覚を持って“肉体改造”に取り組まなければ、天才的な打撃も“宝の持ち腐れ”となってしまう危険性があるのではないでしょうか」(同)
中村本人は“自覚”
守備面はどうだろうか。広島を取材するスポーツライターはこう指摘する。
「セールスポイントは強肩ですが、現時点では、一軍の捕手陣に割って入るには至難の業ではないでしょうか。レギュラーの会沢翼がFA権を行使せずに残留したほか、2番手には磯村嘉孝が台頭しています。さらに3番手には、打力がある坂倉将吾もいますし、広島の捕手陣は12球団で最も層が厚く、充実しています。出場機会を増やすには、内野にコンバートしたほうがいいと思いますね」
若手捕手を育成するには、試合数を重ねる必要があるが、現状ではそれも難しい状況だ。前出のスポーツライターが指摘したように、入団当初には打力を生かすために三塁へのコンバート案が出ていたが、実際はどうなのだろうか。中村本人はこう話している。
「コンバートとかの話が出ているのは知っています。今は他の捕手より劣っていると思います。でも、自分が目指すのは守れて、打てて、走れる“捕手”。身体の大きさ、強さを求められて、コーチや周囲には指摘されています。適切なアドバイスを頂いていて、それに沿って少しずつですが、体重も増えている。今はそれを信じて前進するだけ。何年かかるかわからないですが、僕は広島の正捕手になりたい」
これまでの野球人生、ずば抜けた才能で結果を残せることが多かったはずだが、プロの世界ではそう簡単にはいかない。ただ、中村本人が周囲に惑わされず、前を見据えて、練習に没頭しているのが救いである。多少、遠回りをしても球史に残るようなスケールの大きな「捕手」に育ってほしいものだ。
(※引用元 デイリー新潮)