2020年、鈴木誠也は広島だけでなく、日本の顔になる。広島ではチームの復権に欠かせない超主力であり、東京五輪に臨む侍ジャパンでは4番の最有力候補。新たな1年で鈴木は、全国の注目を集めるに違いない。
昨シーズン、広島では笑って終わることができなかった。自身は初の個人タイトルとなる首位打者と最高出塁の二冠に輝くも、チームは4位に終わった。リーグ4連覇を逃し、クライマックス・シリーズ進出すらも果たせなかった。
球団初の1億円超アップの推定2億8000万円で契約更改した会見でも「個人的にはよかったですけど、シーズンは4位に終わってしまった。もっとやれたんじゃないかという思いがある。みんなで優勝したい。4位になって、面白くないと思ったので、優勝できるように頑張りたい」と振り返った。
個人よりもチーム──素直にそう考えられることが、鈴木という打者の最大の強みかもしれない。
2019年、広島は転換期を迎えた。2018年オフに精神的支柱だった新井貴浩が引退し、ともに中軸を担っていた丸佳浩がFAで巨人に移籍した。
当然のように、開幕から他球団のマークは鈴木に集中した。さらに、不調の選手も多く、打線全体が低調でつながりを欠いた。前年のように得点を奪えず、白星もつかめない。苦しい戦いを余儀なくされたが、それでも鈴木は目の前の打席、目の前の1球に全神経を注いだ。
「厳しくなったのは今に始まったことじゃない。ボール球は見送り、ストライクは振る」
現在、25歳。チーム内では若手の部類に入る。だが、チーム内での立ち位置は違う。これまでの主力選手が抜けたチーム状況が、鈴木にリーダーとしての自覚をより強いものにした。
「僕が引っ張っていかなくてはいけないと思いますし、先輩であってもコミュニケーションをとっていきたい」
これまでは引っ張ってもらっていた感覚が強い。だが、チームが転換期を迎えた今、このままではいけないと鈴木は言う。
「これから大事になるのは”個”しかない。まだチームが弱い時に、黒田(博樹)さんと新井さんが引っ張ってくれて、みんな勝つために必要なことを教えてもらった。ふたりが引退されて、そして丸さんもいなくなった。自分たちがやるべきことをわかっていないと厳しくなる。やるべきことを忘れてしまい、個がバラバラになったら、また勝てなかった時のチームに戻ってしまうんじゃないかと……」
2015年に広島に復帰した黒田と新井から受けた影響は大きい。新たに生まれた広島のよき伝統を継承しなければいけない思いが強い。それは同時に、広島が常に上位にい続けるための条件だと感じている。
チームの牽引役になるのであれば、自分が変わらなければならない。数年前までは打ち取られた自分への怒りから、ベンチに戻るとバッティンググローブを叩きつけ、感情を爆発させることもあった。無意識の行動であり、本人のなかでは切り替えスイッチのようなものだったが、周囲に与える影響も少なからずある。
だが、チーム内の立場が変わっていったことで立ち居振る舞いも意識するようになった。その意識は2019年、さらに強くなった。
「チームも大きく変わるシーズンで、自分も変わらないといけないなって。自分でも変わりたいと思っていた」
その言葉どおり、プレーでチームを引っ張った。タイトルを獲得した打率と出塁率だけではない。167安打、28本塁打、87打点、25盗塁と、打撃全部門でチームトップの数字を残した。それでも鈴木に慢心はない。
「すべて足りない。もっともっとレベルアップしていかないといけない。満足することなく、これまでどおり、向上心を持ってやっていきたい」
どれほどの数字を残しても、充足感を得ない向上心が成長のエネルギーとなる。広島の未来にとっても大事な2020年、チームの先頭には若き主砲の鈴木がいる。
くわえて、侍ジャパンの一員として東京五輪を控える。シーズン中の開催ということでMLBに所属する選手は出場しない。大会への本気度は、国によって温度差があるのは事実。そのジレンマはどこかで選手も感じていることだろう。
ただ、出るからには負けられない。鈴木は力強く宣言する。
「日の丸を背負うということは、日本を代表して出るということになる。相手も国を背負ってくるので、絶対に負けたくない思いはあります。『日本が一番強いんだ』というのを見せられればいいんじゃないかなって思います」
生粋の負けず嫌い。そんな性格もまた成長の源だろう。広島から日本へ、そして世界へ。新たな1年で、鈴木が新たな一歩を踏み出す。(前原淳)
(※引用元 web Sportiva)