負担する費用の中で最も大きいのは
コロナウイルス拡大の影響でプロ野球のシーズン開幕時期がなかなか決まらない。開幕できるとしても、さすがにこのご時世、「3密」への対策を考えたら大勢の観客を集めて試合をするのは現実的ではなく、もはや「無観客試合」しか選択肢はないだろう。
ただ、無観客試合となれば、「自前球場」を持たずに「球団と球場の一体経営」ができていない球団にとっては相当な痛手となる。球場を所有・運営していない球団は、莫大な「球場使用料」を支払わなければならないのに、無観客試合だと入場料のチケット収入など本来得られるはずの多くの収入が一切得られなくなるためだ。無観客試合での開幕に突入した場合、一番「痛い」思いをする球団はどこなのか。
大前提として、プロ野球の試合開催にあたり、各球団が負担する費用の中で最も大きいとされるのが「人件費」だ。億単位の高額な選手の年俸はもちろんだが、ホーム&アウェー方式の中で実施される主催試合では、各球団は警備員や清掃員などを雇う費用も負担しばければならない。もっとも、無観客となれば球場内の警備費は不要になるだろうし、清掃も最低限で済むため、無観客に伴い削れる支出も出てくる。また、球団の財源力に差があるため金額自体の差はあるとはいえ、人件費の「負担率」という面では、無観客となっても各球団で差は生じないだろう。
そこで、無観客試合の実施にあたり各球団の負担面で大きな差が出るのが、球場使用料だ。現在はほとんどの球団が、主催試合を行う本拠地球場を所有・運営し、球団と球場の一体経営を実現しているため、球場使用料の負担は抱えていない。だが、東京・後楽園の「東京ドーム」を本拠地とする読売巨人軍は、実は東京ドームの所有者ではないため、ドームを所有・運営する「株式会社東京ドーム」に対して莫大な球場使用料を支払っている。
では、巨人が東京ドームに支払う球場使用料はいくらなのか。残念ながら、気になるその金額は非公表とされているが、筆者が球界関係者から入手した情報によると、巨人が負担する東京ドームの年間使用料は約50億円にも上るというのだ。50億円!
レギュラーシーズンの半分にあたる約70試合が東京ドームで開催されていることを考えると、巨人は1試合換算で7000万円もの使用料を支払っていることになる。無観客でなければ東京ドームには4万6000人もの観客が来場するため、入場料のチケット収入で高額な球場使用料も賄えるが、無観客だとそのチケット収入がゼロになるわけだから、巨人の経営陣は相当に頭を抱えていることだろう。
ならば巨人は赤字になるか?解答は原稿の最後に記すことにしたい。
放映、広告、グッズ…
もちろん、巨人以外にも自前球場を持たず、高額な球場使用料を支払っている球団は他にもある。札幌ドームを本拠とする日本ハム、明治神宮野球場を本拠地とするヤクルトだが、負担している年間の球場使用料は、日ハムが10億円前後、ヤクルトが10~15億円と言われており、巨人との差は歴然。背景には、札幌ドームは札幌市の第三セクターが運営し、明治神宮野球場は元々が大学野球開催を目的に設立されていることなどの事情があるという。
ちなみに、巨人と同様に資金力豊富なソフトバンクは、かつて、本拠地である福岡ドーム(現在の名称は福岡PayPayドーム)を所有するシンガポールの投資会社に対し、巨人と同様に年間約50億円もの球場使用料を支払っていたが、2012年に投資会社から約870億円で福岡ドームを買い取り、自前球場にした。買収金額は巨額だったとはいえ、年間50億円もの球場使用料を考えると、20年ほどで元は取れるわけだから、安い買い物だったといえる。
そうすると、「巨人も東京ドームを買い取ればいいのに」という考え方は当然出てくるはずだ。まして、株式会社東京ドーム自体をも買収してしまえば、高額な球場使用料をグループ内利益として相殺することもできるわけだから、巨人には経営面でメリットしかないようにも思える。だが、そこは前身の後楽園球場から続く約80年もの球場の歴史を尊重してなのか、巨人が東京ドームを買うという具体的な話は一切聞こえてこない
話を戻そう。無観客試合になると、球場内の売店での売上がないうえ、試合開催に伴ってスポンサー企業と協催するイベントなども全てぶっ飛んでしまい、入場料以外にも様々な収入がゼロとなってしまう。各球団が無観客試合で得られる収入は、テレビやインターネット番組での「放映料収入」、球場に設置された看板広告のスポンサー企業からの「広告料収入」くらいだろう。しかも、球場で直接看板広告を観るファンがいない点を考えると、広告料が減額されることだってありえる。また、グッズ面でも、ネット販売はともかく、ファンの多くは、やはり試合開催で盛り上がる球場内でグッズを買うものであり、グッズ面でも減収は免れないはずだ。
「利益度外視」――。こうしてみると、無観客でのプロ野球公式戦を実現させることができるかどうかは、各球団が、利益よりも「プロ野球を観たい」というファンの思いを最優先する気概を持てるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。それは、無観客開幕によって最も「金欠」に陥る恐れがあるとはいえ、球界で最も影響力の強い巨人の姿勢にかかっているのかもしれない。
もちろん、ホーム&アウェー方式で行われるプロ野球において、無観客とはいえ、飛行機や新幹線での長距離移動を強いられる選手たちにとっては、移動時のコロナ感染リスクも含め、大変な部分もあるだろう。ただ、「球場で観戦できなくても、せめてテレビ越しにプロ野球を観たい」というファンの夢を叶えるため、選手はしっかり対策を取ってそのリスクは払拭してくれると信じたい。
さて、先ほどの巨人は赤字になるかについて。それはもちろん、否だ。90歳を過ぎてもナベツネさんがまだまだ元気な読売新聞が実質親会社なのだから、そんなことありはしないようだ。(陽光満)
(※引用元 デイリー新潮)