言うべきことを言える男
実は恒例行事みたいになっているが、今年も年明けに河田雄祐とゴルフをした。あいつは帝京高から1986年にカープに入団した外野手で、現役最後は西武だった。引退後も西武でコーチをしてから、2016、17年と2年間、カープでコーチをした。カープでの走塁面への貢献は今さら俺が言うこともないだろう。3連覇のベースをつくった貢献者の1人と言っていいと思う。
18年からはヤクルトの外野守備コーチをしていたが、今年から広島にヘッドコーチとして戻ることになった。俺にとっては弟分というのかな。カープでの現役時代から気が合って、今も付き合いが続いている。今回はその復帰祝いも兼ねてのゴルフだった。もちろん、ソーシャルディスタンスは、しっかり守ったよ。あいつの門出に迷惑掛けたくないしね。でも、ヤクルトなのか広島なのか知らんが、何度も電話が入っていたな。
オフではあるけど、もう勝負が始まっているんだろうね。ラウンドの最初、彼は盛んに右肩を回し、「俺、今年はなんか肩が凝っているんですよね」と言った。スコアが悪いときの言い訳かと思って、「なんで?」と聞いたら、「去年、あまり回せなかったんで」と笑っていた。要はヤクルトで三塁コーチとして「肩を回せなかった」という自虐的なジョークだ。
弱かったからだけではない。得点時はホームランばかりで、過去の年と比べても肩を回し、ランナーをホームに導く機会が少なかったらしい。不本意だったし、このまま出るのはどうかとも思ったらしいが、松田オーナーが自ら声をかけてくれたという。チームの再建のため、是が非でも河田をほしい、と思ったからだろう。
カープは一度、出た人間をなかなか戻さない。でも、松田オーナーは俯瞰した視点で、今のカープに河田が必要だ、と判断した。本人も意気に感じていた。前回コーチをしたときは単身赴任だったが、今回は広島に家族で引っ越すと言っていた。
俺が知っているコーチ・河田のすごさは、三塁コーチとしての判断力だ。三塁コーチは第2の監督とも言われる。ベンチのサインを走者、打者に伝えるのも大事な役割だが、加えて走者を三塁から回らせるかどうかは監督じゃなく、自身の一瞬の判断でしなきゃいけない。河田はこの判断がすごかった。話を聞いたことがあるが、自分のチームの走者の足、相手外野手の肩、送球のクセ、捕球時の位置、角度などから一瞬で判断するのだという。
ただ、今回はヘッドコーチだからサードコーチには立たないだろう。となれば、彼がこれまで磨いた判断力は、ベンチで隣に立つことになる同級生でもある、佐々岡真司監督に対してになる。助言をするとともに、ササの決断に対して後押しするか、拒否するかの判断も必要になるが、たぶん、河田はササに対し、遠慮はしないはずだ。
これは言っていいのかどうか分からないが、河田は「よそから見た感想ですが」と前置きした後、今のカープの問題を「慣れ合いの雰囲気」ではないかと言っていた。選手がミスしたとき、コーチが「まあ、仕方ない。いいよ、いいよ」という感じに見えたという。サラリーマンの人もそうだと思うけど、人に怒るのは面倒臭い。相手に嫌われるかもしれないし、「そこまで言うなら、あなたは」と見られるから、怒る側にも覚悟がいる。
でも、選手に嫌われようが何だろうが、コーチは言わなきゃいけないことは言わなきゃいけない。河田は、そこを変えたい、と言っていた。河田が入ったからカープがいきなり優勝を狙えるほど、プロ野球は簡単じゃない。時間はかかるかもしれないが、河田ヘッドで、カープは間違いなく変わる。(写真=BBM)
(※引用元 週刊ベースボール)