今シーズン、ヘッドコーチとして4年ぶりに広島カープへの復帰を果たした河田雄祐氏。2016、17年は一軍外野守備・走塁コーチとしてカープの連覇に貢献し、2018年から昨年まではヤクルトでコーチを務めた。そんな河田氏に、カープが目指す機動力野球や開幕後の手応え、若手選手の現在地について語ってもらった。
―― 開幕から上々のスタートを切りました。
「凡ミスが出た試合もありましたけど、僅差で勝つことができています。やっぱり、ピッチャーがいいのと、守備が頑張ってくれているのが大きいかなと」
―― 河田ヘッドが目指す、機動力を活かした「何をしてくるかわからない野球」が、開幕からできているようにも感じます。それを象徴するシーンが4月2日のDeNA戦、ピッチャーがワンバウンドを投げた瞬間に、一塁ランナーの會澤(翼)選手が果敢に二塁を狙いました(結果はアウト)。
「ゲームによって、特に縦の変化球でワンバウンドのボールを投げやすい投手に対しては、『積極的に動いていこう』という指示を出すことがあります。結果はアウトでしたが、『足が速くない選手でもどんどん走る』という方針が形として出たシーンではありましたね」
―― 2016年から2年間、カープの一軍外野守備・走塁コーチを担当。今年からカープに戻り、ヘッドコーチに就任しました。河田ヘッドが目指す野球を理解しているという点では、田中広輔選手、菊池涼介選手といった中心選手が残っていたことは、心強かったのではないですか?
「本当にそうですね。タナキクの二人が、僕が(前回)カープにいたころの野球を2月のキャンプ中に思い出してくれたのかなと思います。彼らは二遊間を守るチームの核ですし、以前のような雑さがなくなり、角が取れた選手になってきたように感じます。年齢は重ねていますけど、体力的にはまだまだ余裕があるはず。怪我なく1年間を過ごしてくれたらと。あとは彼らのコンディションを考えながら、(シーズンのどこかで)休ませてあげられるような状況をつくれればいいんですけどね」
―― その菊池選手ですが、開幕からバッティングが好調です。
「正直、あのレベルの選手のバッティングはよくわかりません(笑)。でも、キクって元々、(好不調が)明確に見えない選手と言いますか、ものすごく体が開いたり、ピッチャー側に突っ込んだりがない選手なんですよね。ただ、連日あれだけ的確にボールをとらえられているということは、いつもより開きを抑えられているとか、読みが当たっている部分もあるのでしょう。今年は気持ちの部分でも充実しているのが大きいと思います」
―― 気持ちの充実ですか? それはスワローズのベンチから見ていた昨年とも、また違うように映っているということでしょうか?
「そうですね。昨年はどっちつかずと言いますか、『このピッチャーだったら反対方向を意識しよう』とか『思い切って引っ張ろう』とか、どちらにも吹っ切れていないように映っていました。今シーズンは、1打席1打席、吹っ切れた表情で打席に向かっているように見えます」
―― 次に西川龍馬選手ですが、4月1日の阪神戦で相手の一塁手と接触。両肩を抱えられながら退場するシーンがありました。しかし、翌日(4月2日)のDeNA戦ではホームランを打つなど、それを感じさせない姿を見せています。
「僕が2016年にカープにいたときはまだルーキーでしたが、いい意味でチームに慣れてきたように思います。守備や走塁の部分ではまだまだ課題があるんですけど、バットを持ったら進塁打もきっちり決めてくれますし、バットコントロールは(チーム内で)ナンバーワンかもしれません。右投手でも左投手でも正確なコンタクトをしてくれる。ああいうバッターが3番にいるのは非常に心強いですね」
―― これまで西武、ヤクルト、広島と、それぞれカラーが違うチームで指導されてきて、これだけは変えずに指導で気をつけている点はありますか?
「3球団を指導してきて感じるのは、僕が選手たちを”構いたい”性格ということですね(笑)」
―― “構いたい”ですか?
「元気がない選手はやっぱり心配になるし、そんなときは僕から話しかけるようにしています。ただそれは特段意識しているわけではなく、僕の体が自然とそうなっているんです(笑)。指導で気をつけている部分でいえば、選手たちに対して僕のテンションが変わらないのが一番かなぁと感じていますね」
―― 河田ヘッドの気さくなコミュニケーションが、若い選手が萎縮しない、チームのいい雰囲気につながっているように感じます。
「人見知りの人って大人になっても人見知りですから。自分から話しかけるのが難しい方もいらっしゃるでしょうけど、僕に関してはそれがないので(笑)。以前、某テレビ局のアナウンサーの方が『プロ野球取材初日ですごく緊張していたんですけど、河田さんが話しかけてくれたからすごく楽になった』と言っていました。チームのウォーミングアップ中もそうですけど、若い選手たちが声を出せずにいる時は、僕から声をかける。人って声をかけられると、”シャキッ”とするじゃないですか。昭和的な考えかもしれませんが、そういうのも必要なのかなと」
―― その考え方は誰かに影響を受けたものですか?
「ないかなあ。野球界って選手になっても、コーチになっても、いつまでたってもタテ社会なんです。前回のカープと、昨年までいたヤクルトでは、ともに一学年下の緒方(孝市)監督と高津(臣吾)監督でした。僕の方が年上だから、二人は敬語ですし、気も遣ってくれる。そういう世界だからこそ、コーチ、選手問わず、年上から積極的に話しかけないと、下の人は気楽に話せないんですよ。それはコーチをはじめた時から、実行してきたことですね」
―― 2003年にライオンズの打撃コーチをされていたころですね。
「そうですね。あの時は最初、一軍打撃コーチの補佐だったので遠慮していた部分があったんですけど、翌年(2004年)に二軍外野守備・走塁コーチになってからですかね。若い選手が何を考えているのか単純に興味がありました。ぶっちゃけた話、『コイツ彼女いるんだろうか?』とか『両親は何の仕事をしているのか?』とか(笑)。選手の性格を見る上で、これまでどういうふうに育ってきたのかわかったほうが、会話のネタにもなるんです。ちょっと前までは流行にも敏感でしたが、最近の若手選手は僕の子どもよりも年下なので、さすがに追いつけなくなりました(笑)」
―― カープ伝統の機動力野球を実践するには、河田ヘッド(53歳)より一回り近く年下の廣瀬純一軍外野守備・走塁コーチ(42歳)や、玉木朋孝一軍内野守備・走塁コーチ(45歳)とのコミュニケーションが大事になってくると思います。お二人とは日頃、どのようなことを話していますか?
「先ほど言った相手投手がワンバンを投げた時のスタートなんかは、2月のキャンプから廣瀬も玉木も口酸っぱく選手たちに言ってくれていました。あとは、僕が2016、2017年にカープの三塁コーチャーとして意識していた相手投手の癖の見方なども引き継いでくれているのはありがたいですね。スコアラーと廣瀬、玉木が情報交換しながら、選手に伝えるということができているように感じます。
ただ、僕も野手のミーティングに参加しているんですが、コーチ陣が言わなかったことを僕が出しゃばりだから言っちゃったりするんですよ(笑)。これは変えないといけないと思っています」
―― 各コーチの立場や言葉を尊重して、円滑な関係をつくっていくということですね。
「そうですね。コーチ陣には、ミーティングをはじめる前に『こうやって言っといてくれよ』と伝えないとね。(ミーティングで)僕が出しゃばってしまうと、二人のコーチも『俺が言うべきところだろ』『ヘッドがそこで言うんだったら、先に俺らに伝えてくれよ』って思うでしょうし。僕も若い時にそう思ったことがあるので(笑)」
―― 次に若手選手についてうかがいます。現在、カープは會澤選手、石原貴規(ともき)選手、坂倉将吾選手が日によってマスクを被っていますが、”打てる捕手”として、坂倉選手に天性の才能を感じます。
「彼は2017年の入団。1年目は2軍で頑張っていたのですが、オールスターの時に一度、1軍の練習に来させたんですね。そこでバッティングを見たのですが、高卒1年目のバッティングではなかった。普段のバッティング練習を見ていても、今日の試合(4月3日のDeNA戦)で打ったホームランのような(弾道が低く、逆方向の)打球を飛ばしています。彼も西川と一緒で、天性のバッティングセンスを持つ選手でしょうね」
―― 坂倉選手以外にもカープには将来が楽しみな選手がたくさんいます。ファームにいる選手も含めて、今、河田ヘッドが特に成長を楽しみにしている選手はいますか?
「現状ケガに苦しんでいる宇草(孔基)なんかは、本当に早く見たい選手です。でも、(ケガの回復まで)もう少しかかるかな。あとキャンプとオープン戦で見てきた選手では羽月(隆太郎)ですね。最後の最後で開幕二軍にはなりましたが、これから彼には外野手も挑戦してもらいたい。宇草にしても、羽月にしても、非常に機動力が高い選手なので、そういう若手を球団が獲ってくれるのは非常に助かっています」
―― ベンチメンバーという点では、守備や走塁のスペシャリストの育成を急ピッチで進めている印象があります。
「そうですね。それで言うなら一番は曽根(海成)でしょう。気持ちの面でも非常に前向きな選手。ベンチメンバーはたまにしか試合に出られませんが、(気持ちの面で)引いてしまう子はやっぱりダメなんですよね。レギュラーよりもガツガツしているくらいじゃないと、試合で体が思ったように動かない。曽根と新人の矢野(雅哉)も、引き続きレベルアップしていってほしいですね。そこに先ほど話した羽月や宇草らが加われば、ベンチが充実するのかなと」
―― あと、ファンが気になっていることといえば、高卒3年目の小園海斗選手がいます。
「大変申し訳ないんですけど、僕はまだ小園を直でじっくり見られていないんですよ。コロナの影響もあって、フェニックスリーグも見に行けなくて。今のところ、二軍の1試合を見たくらいです。二軍監督からの情報によれば、頑張ってはいるようなんですけどね。機動力が長けている選手ではないので、よっぽど守れて、しっかり打てるようにならないと。(同じショートの)広輔もまだまだ元気ですし、それこそ矢野もいる。結婚したという話ですし、かなり頑張らないと。まだまだ鍛錬が必要なんじゃないですかね」
―― 一方で投手陣は好調です。ドラフト1位の栗林良吏投手、同2位の森浦大輔投手、同3位の大道温貴投手が開幕からフル回転。いい相乗効果が生まれているようにも感じます。
「いやー、もう見ての通りですね(笑)。森浦と大道は、これから(疲労で)フラフラする場面もあるでしょうけど、今のところ内容と結果は出してくれています。ただ、まだまだ成長していかなきゃいけない立場。栗林に関しては沖縄キャンプの中日との練習試合だったかな、あの時に見て『いけるな』と感じました。レベルがちょっと違った。あとは体調面とケガだけには気をつけてほしい。(右膝の手術をした)フランスアも復帰までにまだ時間がかかりますし、新人3人が(開幕の)ベンチに入れたということが、開幕以降のいいスタートにつながったと思います。ブルペンが若い選手で充実しているところは、今後も期待がもてますね」
―― 今秋の結果が楽しみです。健闘を期待しております。ありがとうございました。
(※引用元 web Sportiva)