熾烈な上位争いが繰り広げられているセ・リーグのペナントレースだが、2016年からリーグ3連覇を果たした広島は首位から大きく離され、最下位に沈んでいる。開幕から打線を固定できず、日替わり打線が続くなか、6月下旬、首脳陣は若手を積極起用する方針を固めたという。
今年一軍デビューを果たした2年目の石原貴規をはじめ、昨年一軍デビューした林晃汰(3年目)や中村奨成(4年目)、宇草孔基(2年目)らフレッシュな顔ぶれが数多く並ぶようになった。
そのなかで高卒3年目の小園海斗の安定感と落ち着きぶりは、ほかの若手とは一線を画す。これは高卒5年目の坂倉将吾にも言えることだが、これまでの一軍での試合数、なにより”失敗した経験”が大きいのだろう。
2018年のドラフトで4球団競合の末、広島に1位で入団した小園は、1年目の春季キャンプから一軍に帯同し、広島では19年ぶりとなる高卒新人の開幕一軍入りを果たした。それどころか、シーズン途中からはチームの正遊撃手として58試合に出場した。
周囲は高卒新人とは思えぬ堂々としたプレーぶりに驚きを持って見ていたが、本人はまったく違う心境だった。
「ずっとやばかった。自分のことは考えられなかった。チームの勝ち負けもあるし、投手の成績にも関わってくる。1勝でクライマックスシリーズにいけなかったように、1試合の重みが全然違います」
このシーズン、チームは4位となったが、最後の最後まで阪神とクライマックスシリーズ圏内の3位争いを繰り広げるなど、緊張感のなかで戦ってきた。前年の覇者としてのプライドもチームに漂っており、勝つことを義務づけられた重圧が当時19歳の小園に重くのしかかっていた。
飛躍を期待された2年目は、1年目とは違う苦しみを味わった。
シーズン前から結果が出ず、コロナ禍により開幕が延期となった調整期間も復調しなかった。開幕を二軍で迎え、8月まで打率は1割台を推移。二軍でもショートのポジションを1歳年下の韮澤雄也に譲るなど、1年目からの活躍からは想像もつかない姿があった。
遠征メンバーから外れて居残り練習で汗を流す日もあった。シーズン終盤にようやく打撃が上向き一軍に昇格するも、スタメン1試合を含めわずか3試合の出場に終わった。結局、2年目の成績は6打数無安打1三振。悔しさの残るシーズンになった。
数字は残せなかったものの、打撃の基礎を体に叩き込み、1球に対する執着心を養うなど、1年目以上の充実感があった。
「なかなか一軍でプレーできず悔しい1年でしたが、成長できる部分が昨年よりもありました。変われたんじゃないかと思います」
壁にぶつかったからこそ、自分と向き合うしかなかった。強くなるための第一歩は、弱く未熟な自分を受け入れることだった。
周囲からの期待が大きいからこそ、求められるものも高くなる。昨年のシーズン終了後に行なわれたフェニックスリーグで、視察に訪れた佐々岡真司監督はこう苦言を呈した。
「小園がさみしい。存在感がまったくない。何も感じない。(来春の一軍キャンプも)帰ってから考える。あの姿勢では……」
実際、今年の春季キャンプは二軍スタートとなり、一度も一軍に呼ばれることなく開幕を迎えた。
ところが、ショートのレギュラーだった田中広輔の不振が続き、二軍で好結果を残していた小園にチャンスが巡ってきた。
4月22日に一軍昇格を果たすと、すぐにスタメンを勝ち取った。新型コロナウイルス感染による離脱があったが、復帰後もショートのポジションを死守。
「ひとつのプレーで流れが変わる。その怖さは知っている。だからこそ、しっかりしないといけない」
一軍で好結果が続いても、表情を緩めることはない。
追い込まれたらノーステップにして食らいつき、1打席も無駄にしない。7月4日現在、打率.325という好成績を残している。
課題とされていた守備でも、高い集中力を保ち、球際も強くなり、守備固めで交代させられる機会も少なくなった。朝山東洋一軍打撃コーチは、小園の成長についてこう語る。
「ほかの若手のようなバタバタ感がない。ただ、今はレギュラーを獲るチャンスだから、一瞬でも隙を見せてはいけないと言っています。でも、ここまでは無駄にするような打席はないです」
年輪を重ねて大木となっていくように、人は成功と失敗を重ねて成長していく。人知れず苦しみながら駆け抜けた1年目、そして自分自身と向き合った2年目を経て、今の小園がある。
「体は1日1日違う。打席のなかでも1球1球感じることがある。引き出しは増えているのかなと思います。そういう意味では、成長できているのかな」
広島の若手のなかでも異彩を放つ小園が、これからどんな活躍を見せてくれるのか。誰もが認めるチームの中心選手になる日は、そう遠くないはずだ。
(※引用元 web Sportiva)